第六話
ここは、クルシュカ王国の王都クロボルト。その中心であるクロボルト城だ。
クルシュカ王国は、この大陸でも一、二を争う大国である。大国なのは迷宮都市という、金の生る木を抱えていることが大きい。
当然他国もこの迷宮を狙っており、ここからの情報は常に把握しておく必要がある。
「迷宮都市の探索者協会から、緊急として先ほど届いた内容だ」
クルシュカ王国の国王トリスタンは、そう言いながら資料を宰相へと手渡した。
これは先ほど司法長官から回ってきた資料である。
さっと内容を確認した宰相は深い溜息をついた。
「陛下、これは問題ですな」
「どうするべきかな?」
「まずは主だった者を集めて会議を開きましょう」
「対象は?」
一呼吸置いた宰相は、淀みなく答えていく。
「まずは陛下と私、それに大将軍と司法長官ですね。それと教会も呼ぶべきです」
「むぅ……教会も必要か?」
「事と場合によっては、教会にも通告する必要がございますので」
大将軍は軍事のトップであり、司法長官はいわゆる最高裁判官兼国務大臣だ。
それと国王に宰相、この四人が大国クルシュカをかじ取りする、実質的な最高意思決定機関となる。
それから数日後、この四人に加え王都クロボルトにある勇者教会の大司教、総勢五名が揃った。
「さて、よく揃ってくれた。また大司教殿もよくぞ参ってくれた」
「いえ、勇者教会としても、ここは聞いておくべき内容ですので」
勇者教会は大規模組織であり、同じ国内と言えど足並みを揃えているわけではない。
実際、内容を先に聞いた大司教も寝耳に水であり、慌てて本国と連絡を取っていた。
「では我が国としてどう対応すべきか、諸君らに問おう」
「もちろん即刻そのアーティファクトを入手して壊しましょう」
一番に意見を出したのは国防を担う大将軍だ。
「司法長官は?」
「私も大将軍殿と同意見ですな」
国外と国内の治安を預かる二人は、揃って同意見だった。
このアーティファクトが教会の手にあるとするならば、第四級探索者クラスの軍隊ができあがるのだ。
そのような危険なものは、即刻破壊すべきだという考えだ。
確かに潜在的な脅威だろう。
いつ何時、牙を剥く教会に、危険なアーティファクトを持たせておくべきではない。
「宰相は?」
「そうですな。陛下はどのようにお考えられていますか?」
「ふむ? 儂は使えるなら使いたいものだな」
「さようですな。壊すことはいつでも出来る。ならば、まずは調査を先にするべきかと」
国王と宰相はまず入手した後、性能を評価してから、利用するか破壊するかを考える。
だが、それに反論したのが大将軍だ。
「宰相は、誰を実験台にするというのか!」
しかし宰相は落ち着いて、首を横に振った。
「善良なる一般市民を使う訳にはいきますまい。しかし犯罪者ならば問題ないのでは?」
「牢に入れておくにしても、経費はかかる。ならば国のために礎となってもらうのは、悪い判断ではないな」
宰相の意見に賛成したのが国王だ。
即刻壊すか、調査してから判断するかの二つだ。
ただし、どちらも問題は二つ残っている。
「大司教殿、そのアーティファクトだが、国の管理下に置くことは問題はないのか?」
「はい陛下。本国にも問い合わせましたが、その件については迷宮都市の教会支部の独走だということでした。管理下に置こうが、結果壊そうが問題はございません。ただ……ご利用されるのなら、一言当教会にもご連絡頂きたい」
「まあ元々は教会のものだからな。それについては了承した」
「ありがとうございます」
これで教会の言質は取ったので、問題の一つは解決した。
もう一つが……。
「ところで司法長官。アーティファクトは外側と動力源の二つに分けられており、動力源は迷宮都市の教会にあるが、外側の部分が盗まれたという話は事実だろうか?」
「なんでも、謎の剣士と名乗る火属性の若い女だそうです。ローブを深くかぶっており顔は見ていないとのこと」
この連絡を受け取った司法長官が、国王の疑問に答える。
「盗まれたか。いったいどこの誰だ?」
「なんでも、謎の剣士と名乗る火属性の若い女だそうです」
「まだ女性と決めつけるには早いです。声を変える魔道具を使っている可能性もございますれば」
小柄で、まだ若い女性の声をしていた、とレオナードからの情報を得た探索者協会が、それを伝えたのだ。
ただし宰相は、性別については断定するべきではないと、意見を述べた。
「そうだな宰相。そなたのいう通りだ。属性は正しいか?」
「盗みを行った際、自身に火を纏わせ、さらに周囲へ火を巻き散らかしていたそうですので、間違いないかと」
「そうか。では、その盗人の指名手配を行おう。対象は小柄な若い女で火属性のものだ。ただし魔道具を使い声を変えた男の場合もある」
「かしこまりました」
よし、と国王が席から立ちあがる。
そして一同をぐるっと見渡したのち、国王として宣言を行った。
「探索者協会に伝えろ。どんな手段を使っても、絶対にアーティファクトを取り戻せ、と」
「はっ!」




