表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第四章 城代編(譜代足軽大将格)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/60

第五十七話 南伊勢攻略

阿坂城にて、

弓名人・大宮景連を討ち取った芋粥秀政は、

その足で、村瀬兼良を伴い北へ向かった。


次の目的地は――

大河内。


すでに信長は、

木造城の防衛に成功したのち、

矛先を北畠家の要衝・大河内へと向けている。


南伊勢攻略は、

最終局面へ入りつつあった。



大河内本陣。


信長は、いつもと変わらぬ様子で陣中にいた。

地図を前に、静かに指を走らせている。


そこへ――

秀政が進み出て、膝をついた。


「芋粥秀政、阿坂城方面より戻り、

 御前に報告申し上げます」


信長は顔を上げず、短く言う。


「申せ」


秀政は、一拍置いてから切り出した。


「まず――

 木下秀吉は一命を取り留めました」


(そこまでは見ていないが、あの後。

 薬師たちは態度を変えた。

 あいつらが、俺の言う通り治療したならば……

 秀吉は生き延びる。

 歴史がそうなっている)


その瞬間、

信長の指が、わずかに止まった。


だが、すぐに何事もなかったかのように動き出す。


「……猿め」


鼻で笑うような声。


「意外と、しぶといな」


口調は悪態そのものだったが、

秀政には分かった。


(……内心、少しは安堵しているな)


秀吉は、

もはや“使える将”という枠を超えつつある。

ここで死なれては、

信長にとっても計算が狂う。


秀政は続けた。


「秀吉は、瀕死ではありますが、

 その後も指揮を執り続け、

 策をもって、

 弓名人・大宮景連を誘い出し、

 討ち取りました」


信長の指が、完全に止まる。


「……ほう」


「現在は、

 竹中半兵衛を使って、

 大宮入道長春を調略中。


 ほどなく――

 阿坂城も、開城する見込みです」


静寂。


風の音だけが、

陣幕の外で鳴った。


信長は、ゆっくりと顔を上げ、

秀政を見据えた。


「……そうか」


短い一言。


そして、

しばしの沈黙ののち――

信長は、意味ありげに問いを投げた。


「その報告で――

 良いのだな?」


秀政の内心が、わずかに揺れる。


(……あぁ。

 最初から、全部、見ていたか。

 おそらくは、ある程度、

 知った上で報告を聞いたな)



信長が、

阿坂城の動きを監視していないはずがない。

母衣衆、忍び、間者。

どこから、どこまで――

把握していても、何ら不思議はなかった。


(きちんと考えて、

 言葉を返さねばならんな……)


秀政は、はっきりと答えた。


「はい」


そして、言葉を選んで続けた。


「表の功名帖には、

 そのように記載されます」


「……表、だと?」


「木下秀吉が、

 策をもって大宮景連を討ち、

 阿坂城を屈服させた――

 その功です」


わざと、“表”と言った。


信長は、ふっと口角を上げた。


「そうか。


 ……では」


視線が鋭くなる。


「裏の話をせよ」


(――やはりか)


秀政は、心の中で小さく息を吐いた。


(完全に隠そうとしなくて、本当に良かった)


「はい」


秀政は、背筋を伸ばしたまま続ける。


「裏というほどの話ではありませぬが……


 今回の功は、あくまで秀吉のもの。


 それがしが手を出したのは――

 策の一部を、補ったに過ぎませぬ」


「良い、話せ」


「はっ!

 我が家臣の火野正種、佐治政勝、村瀬兼良を用い、

 大宮景連を討つ“場”を整えました。


 その詳細は……」


信長は、黙って聞いている。


一切、口を挟まない。


すべてを聞き終えた後、

静かに言った。


「……そうか」


そして、

まるで何でもないことのように告げる。


「相変わらず、

 手際が良いな」


「はっ!」


秀政は、即座に頭を下げた。


「俺からも一つ言っておこう。

 阿坂城は既に落ちておる。

 お前達がここに来るまでの間に、

 早馬での報せがあった」


(マジか?!

 竹中半兵衛、凄すぎんか?!)


「さすが秀吉……調略はお手の物ですな」


秀政の軽口で返すが、

信長は、それを無視して、

話を切る。


「芋……


 お前が“裏”というならば、

 それは、評価せん」


一瞬、間が空く。


「表の秀吉の功とする。

 異存は、ないな?」


秀政は、迷わず答えた。


「はい。

 ありませぬ」


(……ふん。

 最初から、そうするつもりだろうに)


秀政は、心の中で苦笑した。


(そうせねば、

 秀吉は侍大将に格上げできぬ。


 しかも、あの口約束のせいで、

 俺の功を認めることもできん。


 俺が先に侍大将になるわけには、

 いかんからな)


信長は、

最初からその“配分”まで見据えている。


だからこそ――

この男は、恐ろしい。


信長は地図に視線を戻し、

次の獲物を見据えた。


南伊勢は、

すでに詰んでいた。


大河内もまた、

時間の問題である。



「芋、ついでだ。

 南伊勢の仕置きについて、

 お前の案を聞かせよ」


信長は唐突に秀政に問いかけた。


(南伊勢か……今回の結果は知っている。

 それを伝えればいいのか?)


「はっ!

 それがしの案は……


 北畠との和睦でございます」


「和睦だと?」


「はい、言葉は和睦ですが、

 事実上の北畠の降伏です。


 北畠具教の嫡男・北畠具房が、

 殿の三男・茶筅丸様を養子に迎える


 というのはいかがですか?


 北畠家は由緒正しき家柄。

 潰すのではなく、伊勢支配に活かすのです。


 こういった威信のある家は潰すのには、

 時間も労も無駄にかかります。

 攻めて終わりとはいかないのが厄介なのです。


 存続させたまま、

 織田家の“家中大名”として、

 茶筅丸様が、北畠家の家督を継ぐのです」


「乗っ取りか」


「はい、そうとも言います」


「実は明智十兵衛にも案を出させた。

 お前の方が良いな」


「恐れ多いことです」


「芋の策を採用する。


 だが――」


「はい」


「交渉は明智十兵衛にさせる。

 お前の功績にはせぬ。


 良いか?」


「はい。構いませぬ。

 明智殿であれば、文書にせよ、

 交渉にせよ、安心できまする」


(次は明智殿に功を積ませて、

 取り立てたいわけか。

 俺が秀吉の功を待っていることを

 お見通しというわけだな?)


「芋、代わりに別の仕事をやる。

 重要だが、地味で功には繋がらん」


「は!そういうものこそ、

 それがしの出番ですな」


「ふん!

 便利な奴よ。


 仕事とは検地だ。

 伊勢はこの侵攻により荒れ果てておる」


「お任せください。得意です。」


この後、ひと月半もかからずして、

北畠家は和睦に応じた。

元々滝川の調略が所々に効いており、そこに明智の交渉の手際の良さが加わった。

結果、驚くほど順調に話が進んだ。


こうして伊勢侵攻は織田家勝利に終わった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
芋さんらしくあるし、便利屋のように使われるけれど仕事ぶりを評価している上司の下なら便利屋仕事に必要だからと昇進も叶うだろう。問題は評価しない上司が来た時ですね。
現代社会人にとってはプロジェクト成功させたところで次の仕事がくるだけで、成功=即昇進なんてことはないから功を焦らず余裕を持ってあたれるんよね と思ったけど芋は大卒後は引き篭もりの社会経験なしだっけか?
長女が丹羽家からの養子と縁組、嫡子誕生の可能性あり、じゃあ次女が誰の嫁になるかが鍵になりそう。 候補としては外に織田、羽柴、徳川、内ではに筆頭家老、新参有力者の一門化。 何れにしてもある程度の勢力は保…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ