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タナベ・バトラーズ エイヴェルン編  作者: 四季


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67.友としての怒り

「サルキア、起きているか?」


 聞き慣れた兄の声。

 恐る恐る扉を開ける。


「陛下!」


 部屋にこもることしかできずにいたサルキアのもとへやって来たのは見慣れた二人。


「鐘の音を聞きました。あれは何かが起こった際に鳴らすものですよね。一体何があったのですか」


 襲撃後自室を出たオイラーとそれに同行することにしたアンダーは薄暗い廊下を通り抜けてサルキアの部屋の前に到着――そして今に至っている。


「どうやら敵襲のようだ」

「そんな……」

「君のところにはまだ誰も来ていなかったのか」

「はい。ですので部屋にこもっていました。下手に動き回るよりじっとしておく方が良いかと思い」


 サルキアの胸に広がる安堵。

 見慣れた顔が視界に入るだけで不安は影を潜める。


「陛下のところには既に刺客が?」

「ああ、二人ほどな」

「そうですか……」

「だが心配しなくていい、既に二人共アンが処理済みだ」


 自慢げに述べるオイラー。


「さすがですね」


 サルキアはほんの少し柔らかくなった心でアンダーを評価する。


 ――だがそこへ。


「見つけたぞ!」


 数名の敵が現れる。

 全員男のように見えるが服装はお揃いではない。


「こいつら全員ターゲットだ!」


 一番に姿を現した短剣を握っている男が叫んだ。


 国王であるオイラーも、彼に仕えるアンダーも、そして王の血を引くサルキアも――全員男たちが仕留めるべきターゲットとしている対象だった。


 三人の中では男たちに最も近い位置にいたアンダーが戦闘態勢を取る。


 その眼は既に敵を捉えている。


 男が迫れど対応できる――はずだった、のだが。


「今だ!」


 二人がぶつかり合うちょうどそのタイミング。

 今まさに戦おうとしている男が叫んだ。

 すると後方に待機していた長いコートを着た男が片手を掲げる、そしてフラッシュ、光がアンダーの視界を潰す。


 そして男は短剣を振った。


 アンダーはほぼ何も見えない状態のままでも腕を前に出して防御しようとする。

 光が放たれる直前に見えていたものから想定した距離感と男の動作によって起こった風だけが得られた情報だ、それらを参考に動くしかない。


「ッ!」


 男の短剣がアンダーの左前腕に傷を刻む。


 紅は散る。

 傷自体はそれほど深くはない、のだが。


「おりゃあ!」


 男は気合いを叫びに変えつつ回し蹴りを放つ。

 そう大きくないアンダーの身体は勢いよく飛ばされ壁に激突する。


 オイラーは剣を抜いた。


 高貴な銀色が短剣の男の腹部を真横に断ち切る。


 しかしそれとほぼ同じタイミングで後方のコートの人物が放ったエネルギーの塊を飛ばすタイプの攻撃魔法がアンダーに命中した。


「ッ、く……」


 壁のへこみが攻撃の威力の凄まじさを物語っている。


 サルキアは戦闘の迫力に圧倒され、ほぼ無意識のうちに後ずさりしていた。


「アン!」

「はは、かっこわり」


 アンダーは既に正常な視界を取り戻している。

 ただ魔法による追撃を食らったために即座には立ち上がれなかった。


「そういう問題ではない」

「雑魚すぎ、ってか?」

「やめるんだそういう話ではない。君が君を貶めるな」

「……アンタほんと真面目だな」


 オイラーは剣を手にアンダーと敵の間に立つ。


 その瞳には怒りの色が濃く浮かんでいた。

 彼は国王としてではなく傷つけられた男の親友として怒りを抱えている。


「貴様らは絶対に許さん」


 突撃してくる男たち。

 それに対峙してもなおオイラーは恐れない。


 剣の柄を握る手に力を込めて、敵を迎え撃つ。


 どんな敵が来ようとも切り伏せるのみ――オイラーは迷うことなく剣を振り続ける。


 一人、また一人、敵は減っていく。

 それでも完全勝利まではまだ時間がかかる。


「くたばれ国王ッ!!」


 剣と剣を交えていたオイラーに背後から襲いかかる男。

 その瞳には、功績、の字がびっしり書かれているかのよう。


「死ねッ!!」


 ――だがそこへ飛んでくるナイフ。


「ぎゃ!!」


 アンダーが投げたナイフだった。


 男はそれを側頭部に受けて床に倒れ込んだ。


「すまないアン」

「援護は任せな」


 背後から襲った男が一瞬にして倒されたことでオイラーと剣を交えていた男は怯んだ。

 そうして生まれた隙を見逃さず。

 オイラーは一気に圧を強め、一秒にも満たない身体が離れたタイミングで斬り捨てた。


「感謝する……!」


 アンダーの方へ視線をやったオイラーは嬉しそうな顔をしていた。


 とはいえアンダーには遠くから援護する手段があまりない。

 彼が持っているナイフは二本程度だけだ。

 それゆえ今のようなことを何度も繰り返せるわけではないのだ、回数制限がある。


 それを最も理解しているアンダーは一刻も早く立たなくてはと考えていたし、既に中腰くらいまでは立ち上がりつつある。


 前腕の斬られたところからはまだ赤いものがじわじわと染み出て垂れているが傷はそれほど深くない。回し蹴りが当たったのは身体の一部だけだし、壁にぶち当てられることには慣れている。全身に衝撃が広がる攻撃魔法を受けたことだけは想定外ではあったが、幸いそれも動けなくなるほど肉体を損傷するような高威力ではなかった。


 刹那。


「貴女もターゲットなのですよ」


 コートを着た男がサルキアに向かって先ほどのものと同じと思われる攻撃魔法を放とうと手を動かす。


 ――アンダーは考えるより早く駆け出していた。


 ほぼ転がるようにしてサルキアの前へ滑り込んだアンダーは攻撃魔法に対しその身を盾として使う。


「アンダー……」


 サルキアは突然のことに動揺する、が。


「二回目はへーきだって」


 アンダーは口角を持ち上げる。


 その姿を目にしたサルキアは思わず「嘘つき」と口の中で呟いてしまったが、敵と対峙している彼は聞こえなかったふりをした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『67.友としての怒り』拝読しました。 手に汗握るバトルシーンでした。 オイラーはアンダーを守るためなら俄然強くなる気がします。 流石アンダーとホッとしたのも束の間、二度目の攻撃魔法を…
[良い点]  穏やかな日常は長くは続かず……。  エリカは王をすげ替えたいだけで、国家まで転覆させようとは思っていなかったでしょうけど。  今度の相手は一体何を目指しているのでしょうか……。  攻…
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