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タナベ・バトラーズ エイヴェルン編  作者: 四季


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61.悪意には毅然とした対応を

 エリカは裏で色々よろしくないことをやらかしていたらしい。

 その全貌が徐々に明らかになってきた。


 現王を王座から引きずり下ろし自身の娘を頂に据えエイヴェルンにおける最高権力を手に入れようと企んでいたこと、そのためにはどんな手でも使うと考えており時には武装組織と関わりを持ったこともあったほどであったこと、など。


 また、自身の望みのためであれば、実の娘すら危険に晒す覚悟であると。


 かつてオイラーと喧嘩になり飛び出したサルキアが誘拐されたことがあったが、それすらも彼女の企みの一部であった。


 もっとも、ジルゼッタの適切な行動によって誰も命を落とさずに済み、企みは失敗に終わったのだが。


 加えて、オイラーの母を暗殺したのがエリカの命によるものであったこともほぼ確定している。


「聞いた? サルキア様が誘拐されたあの事件もエリカ様が起こしたものだったんでしょ?」

「怖いわねぇ王族って」

「ま、エリカ様は厳密には王族じゃないかもだけど」

「憎しみ恐ろしですわね。そこまでするなんて。ただ聞くだけでもぞわぞわしてきますわ」


 エリカはもはや取り返しのつかないことをした――サルキアはそう思っている。

 ワシーやアイリーンも悪しき行動をしたが、エリカに関してはそんな程度の話ではない。一歩誤れば国家が崩壊するかもしれないほどのことを行っていたのだから。それほどの罪を犯した者がこれまでにいただろうか。


「それにしてもさぁ、お母様のせいで冷ややかな目を向けられるサルキア様もお可哀想よねぇ。気の毒っていうかぁ」

「でもいいんじゃない? 真面目過ぎてたまに鬱陶しかったし」

「注意されたこともあったし、いっつもツンツンしてて、正直ちょっと好きじゃなかった」


 ここのところ、サルキアの悪口を言うメイドも増えている。


 それも隠そうともせずに。

 何なら本人が通るタイミングでわざとそういうことを言う者もいるくらいだ。


「ちょっと賢いからって威張ってんのダサいわよね」

「しかもそれで三十前まで未婚! 面白すぎぃ。でも当たり前かも? あれじゃ誰も相手にしないわぁ」


 今日もサルキアは廊下を歩きながら自身の悪口を耳に入れることとなってしまう。


 気にしては駄目だ、そう思いながら彼女は前を向くけれど。


 それでもやはり心は痛む。

 あまりにも分かりやすく悪口を言われてはさすがに辛いものがある。


「一生未婚なんじゃないの?」

「そうよねぇ」

「うふふ、面白いですわ。しかも母親は犯罪者。そのうち王城から追放にでもなるかもしれませんわね」


 メイドたちは仕事もせずにサルキアの悪口で盛り上がっていたのだが――やがて目の前に現れた者の姿を目にして固まる。


「随分盛り上がっているようだが」


 悪口大会に突然口を挟んだのはジルゼッタだった。


「そんなにも他人の悪口を言って、何が楽しい?」


 ジルゼッタは目もとに力を入れていた。

 噛み付くような表情ではないが武神のような迫力がある。


「そういう行為は見逃せない」


 静かな怒りを燃やすジルゼッタ。


「な、何よ! 偉そうに!」


 だがそのジルゼッタに対し言い返す者もいた。


「第一夫人のくせして陛下からちっとも愛されてないくせに!」

「同族だから庇ってるんでしょ? 兵士あがりとか変な女過ぎよ!」


 城で働く女性の中にはジルゼッタファンも多いが逆にジルゼッタを良く思っていない者もいる。それは大抵夫人に敵意を抱いている者だ。その地位を得た者に対して不快感を抱いている、単なる僻みだが、一部そういう人間が城内にいることもまた事実である。


「陛下の夫人になれたのも家の権力を使っただけのくせに、ちょっと地位を得たからって偉そうなこと言ってんじゃないわよ! わたしたちはずっと前からここで働いてるんだから!」


 メイドは攻撃的に言葉を発するが。


「私のことは好きに言えばいい、だがサルキア殿に対する酷い悪口はあまりにも無礼な行為だ」


 ジルゼッタは冷静さを失ってはいなかった。


 怒りを覚えてはいるがその感情に呑まれて暴れるジルゼッタではない。


「な、何よ……偉そうにッ」


 メイドのうちの一人が手にしていた箒で殴りかかろうとして――ジルゼッタにその腕を強く掴まれる。


「イタタタタタ!!」


 ジルゼッタの手の力はさすがにかなりのもので。それゆえただ掴まれただけでもメイドは痛がった。メイドは腕を鍛えてなどいない、それゆえなおさら痛みを強く感じるのだろう。


「ぼ、暴力! 暴力反対! は、離して!」

「暴力に及ぼうとしたのはそちらだろう」

「痛いって言ってるのよ! 早く離して! いいから! 痛いのよ!」

「箒で人を殴ろうとするなど明らかに問題だ」

「離しなさいよっ」

「私は何もしていない。ただ腕を掴んだだけだ。それを暴力と言うのは無理がある」


 やがてメイドが落ち着くとジルゼッタは掴んでいた腕を離した。

 だが腕が自由になった瞬間メイドは箒の柄を振りそれでジルゼッタを殴った。


 もっともその程度の暴力に屈するジルゼッタではないわけだが。


「貴女は冷静さを欠き過ぎだ」


 それがジルゼッタのコメントだった。


 ちなみにそのメイドはというと、数日後、暴力的な問題行動があったとして退職させられることとなった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『61.悪意には毅然とした対応を』拝読しました。 悪口って妬みの延長なのでしょうね。 それにしても、辛辣ですね(゜Д゜) ジルゼッタは毅然とした態度で素晴らしいですね。 カッコいいです…
[良い点]  あまりにひどい……。  サルキアがどんな人か知らぬからか、知るからか……。とはいえ、あんまりですよね……。  気にすることなんてないと思っても。強い言葉は刺さりますよね……。  同じ…
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