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タナベ・バトラーズ エイヴェルン編  作者: 四季


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51/128

50.ふとした瞬間に思い出してしまう?

 その日サルキアは刺客に関する聞き取り調査のためワシーのもとへ赴いていた。


 彼は受傷後比較的早いタイミングで適切な治療を受けられたため、順調に回復している。

 とはいえ斬られた部分などはまだ痛むようで。

 一応医師のもとに置かれて日々管理されている状態ではあるが、それでも、意識は保たれており意思疎通も可能である。


「このたびは大変でしたね」

「あれはもう死ぬかと思いましたな……」

「傷の方はどうですか」

「今は死ぬほどの痛みはありませんがな、斬られた時は……気がどうにかなってしまいそうでしたな」


 サルキアが「そうですか」と返すと、ワシーは「何とか死刑から免れたのにここで死ぬのか、と、本格的な焦りでしたな」と付け加えた。


 死にかけたからか少しばかり従順になっている印象もあるワシーは刺客の特徴についていくつか挙げた。

 かなりの巨体であること、頭部には毛がないこと、そして襲いかかる前に「決ーめたっ、斬殺刑っ」などと楽しげに意味不明な言葉を発していたこと、など。


「ですが、刃物の扱いにはあまり慣れていない様子でしたな」

「どうしてそう思われたのですか」

「無抵抗だったわたしにこうして生き延びられている、のですから」

「殺めるために斬るべき部分を熟知していないということですか?」

「慣れていればより確実に仕留めるでしょう」


 有能な刺客ではない? いや、それはないだろう。素人を急に雇って殺させるなんてことはしないはず。とすれば、刃物で殺すことになれていないということだろうか? いつもは別の方法で殺めている、とか?


 ……などと、サルキアはあれこれ思考を巡らせる。


「分かりました。色々聞かせていただいてありがとうございました」


 そして、別れしな。


「サルキア様」


 ワシーは気まずそうな面持ちで口を開く。


「エリカ様の件、口外してしまい申し訳ありませんでした」


 彼はそっと謝罪する。


「それによってわたしは命を拾いましたが、逆に、貴女は城内での立場が悪くなってしまったでしょう」


 ワシーも一応サルキアに対しては申し訳なさを抱いている様子だった。


「いえ、真実を明かしてくださってありがとうございます」

「な、なぜ……なぜ、そのように」

「母のことは残念に思っています。ですが、罪は罪です。望ましくない行動や出来事こそ明るみに出るべきですし、それが明日のエイヴェルンをより良いものとするでしょう」


 ワシーから話を聞いたその足で、サルキアは別の場所へ向かう。


 目的地は決まっている。

 王城敷地内にある図書館だ。


 一般国民は立ち入ることのできない図書館だが、だからこそ、そこには多くの公開できないような資料も置かれている。


「前もって連絡しておりました、サルキアです」

「はい」

「危険人物リストを閲覧させてください」

「こちらへどうぞ」


 昔よく来た場所。

 何も知らず無垢だったあの頃は嘘みたいに純粋で、読む小説に心の底から浸ってはにやにやしていた。

 そしてもう少し育ってからはたびたび書物を読みに訪れた。それは勉強のためだったが。人があまり多くないこともありこの場所は勉強するにもちょうど良かったのだ。


「武装組織関連ですとこの辺りになります」

「ありがとうございます」


 そういえば、過去に一度、勉強に没頭しているうちに管理者が鍵を閉めて帰ってしまい出られなくなって大変なことになったことがある。


 あの時はかなり焦った……。


 だがそれすらも今は懐かしい思い出だ。


「お帰りの際、またお声がけください」

「分かりました」


 指定されたナンバーのファイルを手に取って開く。

 名前や経歴などの個人情報と顔写真をまとめたものが人の数だけ並んでいる。


 もしかしたらこの中にアンダーの知り合いもいたり……? なんて余計なことを考えて、自分で自分を恥ずかしく思ってしまった。


 こんな時にまで彼のことが頭に浮かぶのか、と。


「……これって」


 やがてサルキアは毛のない頭の男を発見する。


 そこには赤ペンでチェックがつけられていた。

 どうやら後から手書きされているよう。


 ワシーから聞いた情報に近い男がいて、その男のところにチェックがついている――これは偶然とはとても思えない。


 そして付近には。


『愛する人を殺めた者。この者が犯人ではないかと思うが証拠はない』


 そんなメモ書きが小さな文字で遺されていた。


 サルキアはその男の情報を頭に叩き込む。

 貧しい環境で育ち――と、そこから始まり、あれこれ書かれている男の細かな経歴まで、確実に覚えていく。

 ただ、記憶だけでは当然完全ではないので、併せてメモを取ることも行っていく。


 アンダーはこの男と同じように貧しい環境で育ったけれど敵としてではなく出会えた、それは本当に良かった……。


「……って、そうじゃないッ」


 もしアンダーが敵だったら、たとえ出会っても、彼の良いところになんて気づかないままどちらかが死んでいたんだろうな……。


「ち、違うッ」


 つい余計なことばかり考えてしまう。

 ふざけている場合ではないのに。


 お、落ち着かないと……。


 だが、こうしてただ情報を読んでいるだけでもアンダーを連想させるような単語ばかりがやたらと目に留まって、そのたびに思考が脇道に逸れてしまう。


 きっとこういう時、彼はさらりと言うのだろう。


「はぁ……」


 恋心、マジで邪魔。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『50.ふとした瞬間に思い出してしまう?』拝読しました。 サルキアは辛い気持ちもあるでしょうが、 王女として国のために為すべき事をちゃんと解っていて頼もしいですね。 と、そんな時にまで…
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