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タナベ・バトラーズ エイヴェルン編  作者: 四季


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26.それぞれ

 その日サルキアは自室にてパズルをしていた。


 幼い頃から好きでよくやっていた無数のピースを一つずつはめていくパズルである。


 そういう時間はサルキアにとって絶対的な癒し。

 忙しい日々のオアシスみたいなものである。


 しかしその穏やかな時間は男の訪問によって突然終わりを迎えることとなる。


「失礼します」

「何ですか?」

「部屋へ入れてくだされ」

「意味が分かりません」


 誰かがノックしたため扉を開けると、そこには、数人の男が立っていた。

 見たことがあるような気がする顔もあるにはあるが知らない顔も含まれている。


「死にたくなければ扉を開けなさい」


 眼鏡をかけた男は厳しく冷ややかに言い放った。


 嫌な予感がする。

 不審者とか個人的な問題行動とかそういった小さな話ではないような気がして。


「……分かりました」


 仕方がないのでサルキアは扉を開けた。


「ご協力に感謝いたします」


 サルキアの部屋はあっという間に男たちに占領された。


 でも仕方がなかったのだ。

 彼女一人で抵抗したところで何ができるというのか、という話なのだから。


「貴方たちは一体何をしているのですか?」

「ふふ。我々は大きなことを成し遂げようとしているのですよ」

「大きな……?」

「サルキア殿、貴女には生きていていただく予定です。ですから、抵抗さえしなければ手は出しませんよ」


 とはいえ既に被害は受けている。


 穏やかなリラックスタイムをぶち壊しにされたこと。

 自室を男に勝手に使われたこと。


 サルキアにとって今のこの状況は明らかに不満しかない状況だ。


「我々の狙いは陛下です」


 眼鏡の男がそっと口を開く。


「陛下に対し無礼なことをすれば許しません」

「貴女は大人しくしていてくだされ」


 王族とはいえ所詮戦闘能力無しの女性でしかないサルキアの言葉など男たちは恐れない。


「陛下を王座から引きずり下ろすのです」


 その言葉に、サルキアは表情を鋭くする。


「なんということを……! 身の程をわきまえなさい」


 声色こそそれほど感情的にはなっていないが実際には怒っているサルキアである。


「ふん、口だけは勇ましいですね。けれど、貴女に何ができるというのですか? 無力でしょうが」


 眼鏡の男はサルキアを馬鹿にしたように睨む。


「貴女は我々の言いなりになっていればそれで良いのですよ」



 ◆



 同時刻、ジルゼッタのもとへは彼女の兄が訪問していた。


「兄上!」

「急に来てすまない」

「どうされたのです」

「ジル、今日は部屋から出ない方がいい」


 ちなみにその兄というのも軍人である。


「外は騒がしいようですが、もしかして何か起こっているのですか」

「物騒なので出歩かないように」

「知っていることがあるなら教えてください、兄上」

「とにかく、ジル、自分はその警告をしに来ただけなんだ。だからこれで帰る。が、本当に、部屋から出ては駄目だ。巻き込まれる」


 それだけ言って兄は去っていった。


 兄は王をその位から引きずり下ろそうという作戦に参加しているわけではない。が、王城にいる妹のことが心配だったので訪問したのだ。それほど関係はないが、である。単純に妹の身の心配からの行動であった。


「これは一体何がどうなっているんだ……」

「ああ怖い怖い~」


 それでもジルゼッタを止めることはできず。


「ティラナ、私は少し様子を見てくる」

「ジルさまぁ、んもぉ、ここにいときましょうよぉ~」

「いや行ってくる」

「んもぉ~! んはぁ~っ! 駄目ぇ~!」


 彼女は兄からの警告に従う気はないようであった。



 ◆



 同じ時間。

 ランは自室内にてリッタと一緒に釣りごっこをしていた。


 手作りおもちゃで釣りを楽しんでいたのである。


「リッちゃん上手ーい!」

「褒められる、とっても、嬉しい」

「さすがね。やっぱり遊びですら凄い。いつか実際の釣りをしているところも見てみたいなぁ」

「リッタ、見せる、いつか、頑張る頑張る」


 ランとリッタはいつもこんな感じだ。空いた時間は二人で何かして遊んでいる。あるいは散歩か。ただ基本的にはランは室内で過ごすことが多いため必然的に二人が遊ぶ場所も室内になりがち。もともと外へ行くのが好きなリッタではあるが、ランと過ごす時は文句を言わず室内にいることも多い。


「ここ、こうすると、よく釣れる」

「えっ……わ! 本当ね! たくさん連なってくる!」

「上手く、引き寄せて、そう、そうそう」

「わああ! ありがとうリッちゃん!」

「完璧」


 そんな風にして楽しく遊びながらも、ランは密かに気になっていた。


 ――なぜ今日は空気がいつもと違うのだろう?


 室内にいても違和感がある。

 言葉にできないような気持ち悪さを感じる。


 これは一体何なのか?


「リッタ、もっと、たくさん、釣る!」

「ふふふ」

「頑張って、活躍、凄いところ、ラン、に、披露!」

「楽しそう」


 ちょうどその時、アイリーンが部屋へ入ってきた。


「あ、アイリーンさんも釣りごっこしませんか?」

「いえ結構です」

「ええっ。た、楽しい、ですよ……?」

「遊ぶためにここへ来たわけではありませんので」

「うう……そう、ですよね。申し訳ありません……」


 しゅんとするラン。


「それより、少しよろしいですか?」


 アイリーンは話題を変える。


「は、はい」

「本日ですがこちらの室内にて待機をお願いします」

「え……」

「といいますのも、外は少しばかりややこしいことになっているのです」

「そう、なの……ですか?」


 では。

 そう言い残してアイリーンは部屋を出ていこうとする。


「アイリーンさんはどこへ行かれるのですか……!?」


 ランは思わず立ち上がって尋ねた、が。


「まだ少し用事がありますので、一旦失礼しますね」


 アイリーンはそっと微笑むだけだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『26.それぞれ』拝読しました。 わあ♪ パズル好きです!  リラックスしたいときにいいですよね(^^) 親近感がわきました(*^_^*) サルキアを利用してオイラーを追い落とそうとし…
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