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タナベ・バトラーズ エイヴェルン編  作者: 四季


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104.いくつもの再会

「アン、戦いは終わった!」


 戦いの果てに基地へ帰還したオイラーが自身の負傷も顧みず一番に会いに行ったのはアンダーだった。

 子どものように純真な顔をしてベッドに横たわったままの彼のもとへオイラーは走っていく。


 三十代とは思えない無邪気さで話しかけてきたオイラーに対しアンダーは「おかえり」とやや静かめな調子で述べる。するとオイラーは見たことがないくらい晴れやかかつ楽しげな顔をして「ただいま!」と返した。


「またこうしてアンの顔を見られてとても嬉しく思う」

「何だそりゃ。わけ分かんねーよ」

「早く君に会いたかったんだ。君の顔が見たかった。そして、君に良い報告をしたかった」


 アンダーは呆れが主となるような苦々しさをややはらんだ面持ちで「君多過ぎだろ……」と本題からは離れた点を突っ込んだ。


 ご機嫌な若き王は綺麗な心の持ち主のような澄んだ目をしながら「そうだな」と突っ込まれた内容を受け入れ、その上で「君への執着が強すぎたのかもしれない。変だったらすまない」と苦笑しつつ続ける。


 それはとてもくだらないこと。

 だがそのようなどうでもいいことについて突っ込んだり謝ったりできるのも平穏があってこそだ。


 世界は、人々は、それを平和と呼ぶのかもしれない。


「アン、今までありがとう」


 その言葉にアンダーは一瞬目を開いたが。


「そして、これからもよろしく頼む」


 続いて出てきたそれに、見開かれた目は元の状態へ戻る。


「いつまでも良き親友でいてくれ」


 オイラーが片手を差し出せば、アンダーは動かせる左手でそれを強く掴んだ。


「ああ。よろしくな」


 そう述べるアンダーの目もとに暗さはなく、それゆえオイラーは深く安心した。


 傷はいつか癒えるもの。

 身も心も。


 時が過ぎること、それが何よりもの薬だ。



 ◆



 オイラーが治安悪化の原因となっていた武装組織の長を倒したという情報は国の報道機関より一般国民へ盛大に発表された。


 複数の街で、大急ぎで刷られた号外も配られる。


 平和への一歩を踏み出したことに歓喜する民は、その多くが一時王都の広場に集まり大騒ぎになったほどであった。


 国が明るい光に包まれる。

 平和への希望を抱き続けてきた者たちの喜の感情はエイヴェルンを包み込んだ。


 ちなみに武装組織の残党らはというと。

 長の死と組織の解散を知ると降伏する者も多くいたが、一部抵抗する者もおり、そういった者の中からは過程でやむを得ず殺められてしまう者も出たが基本的には拘束される形となった。


 彼らは罪人を収容する施設へと送られる。

 今後は当分そこで再教育を受けたり労働に勤しんだりといったこととなる予定である。


 かくして、若き国王オイラー・エイヴェルンは、その評判をより一層高めることとなる。


 悪は、偉大なる王の正義の剣に屈した――。


 民たちの王への尊敬と信頼は、より強固なものへと姿を変えてゆく。



 ◆



「ジルっさまぁ~っ!!」


 先に王城へ帰ってきたのはジルゼッタ。

 戦場を駆け抜けていた彼女だが怪我はほとんどなく、心身共に健康的な状態であった。


「ただいま、ティラナ」

「んっもぉ~ん!! ジルさまのことが心配でぇ~! んもぉ、ずっと眠れへんかったんですわぁ~! お帰りなさいまっせぇ~っ!!」


 大好きな主人の帰りに大喜びするのはティラナ。

 彼女は常に明るく前向きではあったが、それでも、ジルゼッタのことが心配でなかったわけではない。


 サルキアも一緒に迎えに来ているのだが、今のティラナはそのことをすっかり忘れてしまっているようで、結果的にサルキアのことは無視するような形で話を進めることとなってしまっている。


「頼むから落ち着いてくれ」

「できまっせんわぁ~!!」


 ティラナはジルゼッタの背に太めの両腕を回す。それからジルゼッタの胸辺りにその餅のように柔らかそうな頬を当てる。ティラナの独特の色をした頬がぶにゅりと押し潰されて、同時に顔も少し笑ってしまうような状態になった。元の顔が崩れている。だが当のティラナはそんなことは少しも気にしていない様子だ。


「サルキア殿、迎えに来ていただいたのに……騒がしく、すまない」

「いえ、気にしないでください」


 ティラナがハイテンションになる気持ちも分からないではない。それゆえ自分が半ば無視されるような扱いになっていてもサルキアは怒りはしなかった。むしろ本当に嬉しいのだなとティラナの気持ちを肌で感じた。改めて、ジルゼッタが無事で良かった、と心の底から思う。


「実は最近ティラナさんには大変お世話になっていました」

「というと?」

「暮らしの中で色々面倒をみていただきました。お茶を淹れていただいたり、危ない時に助けていただいたり、話し相手になっていただいたり、と。本当にお世話になりました」


 戸惑いの色を浮かべるジルゼッタに対し、サルキアは「ですのでジルゼッタさんにもお礼を申し上げたいと考えていたのです」と述べた。


「騒がしく迷惑だったのでは?」

「迷惑だなんて。むしろ逆です、親切にしていただき感謝しています」


 ジルゼッタはティラナに抱き締められたまま「迷惑でなければ良かった、安心しました」と落ち着いた声色で返す。


 サルキアはジルゼッタの兄が亡くなったという話を聞かされていたので実は密かにジルゼッタの精神状態を気にしていた。が、心配するほどのことはなく。ジルゼッタは今日もジルゼッタ。その程度のことで周囲に弱いところを見せるような女性ではなかった。


 ジルゼッタは、どんな時も力強く野山で開く花のように、凛と咲く。


「サルキア殿も早く陛下とお会いできると良いですね」

「はい、久々にお顔を見られるのが楽しみです」


 ……サルキアが本当に会いたいのはアンダーだ。


 けれども兄のことも気にならないわけではない。


 鮮烈な強さを持って、民に愛され、民を導く彼が――これまでと変わらず良き兄であることを確かめたい。

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