表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
63/64

第63話 真の災厄の兆し

北方領地の夜は深く、霧が低く漂う。薬草の煙は消え、土地は表面的には安定しているように見えた。しかし、リンは膝をつき、微細な土壌の変化を指で確かめた。


「……やはり、何かが潜んでいる」


土の奥から、わずかに不自然な振動が伝わる。微細な鉱物片の輝きが、月光に反射してちらついた。リンは息を詰め、古文書の記述と照らし合わせる。


『序章が過ぎても、根源の澱みは潜み、やがて大地を揺るがす』


「これが……真の澱み……」


遠くで動く影。リンは目を凝らすと、霧の中に異様な光を放つ岩の塊が揺れるのを見つけた。その光は、青白く、まるで大地そのものが息をしているかのように脈打っている。


「……これは、ただの鉱物ではない」


護衛が声をかける。


「リン様、何か異常が……」


リンは振り返らず、静かに指示を出す。


「近づきすぎず、観察を続けて。私は、この光の正体を突き止めたい」


月光の下、光の揺らぎは規則的で、土壌や風の影響だけでは説明できない。リンは手元の道具で微細な分析を始める。温度、微量元素の変化、毒素の残留……古文書の知識を総動員する。


「……なるほど。これは大地そのものが発する警告……『古の星』の力が、ここに現れ始めている」


リンの胸に緊張が走る。真の災厄は、序章の病や土地の汚染とは比較にならない規模で、北方の大地に潜んでいた。彼女は護衛に目配せし、距離を取りながら監視を続ける。


「知識はここまで……でも、行動はこれから」


リンは古文書の記述を思い出す――『真の知識は、災厄に立ち向かう鍵となる』。北方の土地で目撃した異様な光、微細な振動、未知の鉱物の反応すべてが、彼女に次の行動を促す。


「王宮に戻り、追加の専門家と連携を取る必要がある……ただちに」


霧が揺れる中、リンは静かに立ち上がる。胸の奥で高鳴る緊張と興奮、そして使命感。知識を行動に変える瞬間が、再び訪れたのだ。


北方の大地は静寂に包まれている。しかし、月光に照らされたその光は、これから訪れる更なる災厄の予兆として、静かに輝き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ