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薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
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第62話 浄化の余波と新たな兆候

北方領地の空は薄く晴れ、朝日の光が湿った大地に反射していた。薬草の煙は霧に溶け、かすかに甘い香りを残している。リンは膝をつき、土を指で触りながら微細な変化を確認する。


「……浄化は順調に進んでいる」


住民たちも徐々に元気を取り戻し、表情に安堵の色が広がる。子供たちの笑い声が、久しぶりに北方の集落に響いた。リンは深く息を吸い、心の中で小さく安堵する。


しかし、リンの目はすぐに次の変化を捉える。地面の一角、以前は湿潤で健康的だった土が、わずかに赤黒く染まり、微かな熱を帯びている。


「……これは……まだ残っている」


護衛が心配そうに声をかける。


「リン様、影響範囲は収まったのでは……?」


リンは首を振る。


「表面だけではわからない。古文書にはこうある――『序章が収まっても、根源は潜み、次の兆しを忍ばせる』」


手元のメモ帳を確認し、煙の焚き方や風向き、土壌の変化を再度分析する。微細な鉱物片、毒素の残存、湿度の影響……それらを慎重に組み合わせ、追加の処置を決定する。


「……追加の浄化と監視が必要。住民には安全な範囲で日常を再開してもらう」


リンは護衛とリリィに指示を出し、煙の追加焚きと土壌分析を継続させる。住民の安心を守りつつ、災厄の完全な封じ込みを目指す。


「知識を行動に変える……この感覚、何度経験しても緊張する」


微かに赤みを帯びた霧が再び揺れる。リンは古文書の警告を思い出し、警戒を緩めない。


「真の災厄は、まだここに潜んでいる……でも、私たちは行動できる。知識と力を使って、次に備える」


北方の大地に漂う薬草の煙と共に、リンの視線は遠くを見据える。王宮での知識の蓄積と現場での実践が、未知の災厄に立ち向かう力となる。小さな集落の復興とともに、新たな兆しへの警戒が、リンの胸に静かに刻まれていた。

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