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薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
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第61話 北方浄化作戦、知識を力に

朝の霧が北方の集落を包む。湿った土と薬草の香気が混ざり、空気は重く、息を吸うたびに微かに咳き込む。リンは厚手のマントを肩に巻き、手元のメモ帳を確認した。


「……全体の配置、風向き、住民の避難範囲、薬草の焚き方……すべて計算通り」


護衛や王宮から派遣された専門家たちが、リンの指示を受けて配置につく。典薬局のリリィも傍らで、薬草の焚き加減を慎重に調整している。


「リン様、この量で煙は十分でしょうか」


リリィの声に、リンは頷く。


「ええ、微調整は必要ですが、この範囲なら毒素の拡散を抑えられるはず」


リンは深呼吸をし、目の前の大地を見渡す。古文書で知った災厄の特性を頭の中で再現し、実際の土地に照らし合わせる。霧の中で、微かに赤みを帯びる光が差し込み、未知の災厄の存在を告げているかのようだ。


「さあ、始めましょう」


指示に従い、薬草の煙が一斉に焚かれる。煙は霧に溶け、風に乗って北方の大地を巡る。リンは住民たちの避難状況、煙の広がり、空気の変化を逐一観察する。


「効果が出始めている……微妙な変化も逃さない」


住民の表情に、徐々に安堵の色が戻る。咳き込んでいた者も落ち着き、子供たちは恐る恐る外に出てきた。リンは胸の中で小さく安心しつつも、油断はしない。


「まだ完全ではない……根源の毒素が残っている」


煙が北方の土地を包む中、リンは微細な鉱物片や土壌の変化を手で確認し、補助的な煙焚きを追加する。リリィや護衛も連携し、作戦は順調に進む。


「知識を力に変える……これが、私のやり方」


リンは微かに笑みを浮かべながらも、目は鋭く周囲を見渡す。災厄は確かに抑えられつつあるが、兆しはまだ空や土に潜んでいる。


「全員、油断しないで。最後まで監視を続ける」


煙の中で、微かに赤みを帯びた霧が揺れる。リンは古文書の警告を思い出す――「序章の兆し、真の災厄はこれから」。しかし、彼女は恐れず、知識と行動を武器に、王宮と共に立ち向かう覚悟を胸に抱いていた。


北方の大地に薬草の煙が漂い、未知の災厄に立ち向かうリンの姿は、静かに、しかし力強く、次の戦いへの希望を示していた。

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