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薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
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第57話 新たな兆し、王宮の影

書庫の窓から差し込む朝の光が、埃を含んだ空気に柔らかく溶ける。リンは香炉の灰を指でなぞりながら、微かに眉をひそめた。


「……何かが、変わった」


典薬局から届いた報告書には、北方領地で発生した未知の病の兆候が記されていた。症状は軽い発熱や倦怠感だが、古文書に記された“災厄の前触れ”に酷似していた。


「王宮の安寧は、また脅かされる……」


リンは机の香灰を軽く手で払う。書庫の静けさの中で、心臓の鼓動が異様に大きく聞こえた。微かな風が窓から入り、古文書の頁を揺らす。香の残り香に混ざる、異国の香木の香りも、いつもとは違う重みを帯びている。


「知識は力……でも、力には責任が伴う」


その時、リリィが慌てた様子で書庫に駆け込む。


「リン! 北方領地の衛兵から報告が来たわ。症状が急速に広がっている、これは以前の災厄と似ている……!」


リンはすぐに資料を広げ、古文書の記述と照合する。症状の進行速度、地域の気候、土地の特徴……すべてが一致しつつあった。


「……これは偶然じゃない。前の災厄とは違う、より根深いものかもしれない」


リンは執務室の窓から庭園を見下ろす。青々とした木々、鳥のさえずり。平穏に見える風景の下で、潜む危機を彼女は感じ取る。


「準備を始めなければ……知識を集め、薬草を調べ、対応策を練る」


リリィも頷き、二人はすぐに行動を開始する。書庫に積まれた古文書や薬草図鑑、交易商人から届いた新しい資料を広げ、症状と効能を照合する。香の分析も欠かさない。すべては、災厄の兆しを封じるための布石だ。


「王宮の安寧を守るために、私たちが動かなくては……」


リンの瞳は鋭く光り、決意に満ちていた。迷宮を突破し、後宮の秘密を解き明かした少女は、今、新たな災厄に立ち向かう力を持ち、王宮の影の中で次の戦いへの準備を進める。


書庫の静寂に、リンの決意と知識の力が深く響く。古文書の警告は、新たな災厄の兆しとなり、少女を動かす。王宮の平穏は、再び彼女の行動にかかっていた。

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