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薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
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第55話 迷宮突破、影の正体

書庫の奥、沈香と蜜蠟、甘い花の香が濃密に漂い、月光が棚の隙間から机の上を淡く照らす。香の残り香の揺らぎ、微かな風の動き、人の気配――すべてがリンの観察眼に捕らえられる。


「ここが、迷宮の核心……」


香木の出納帳、香炉の使用記録、女官や宦官の行動メモ。点と線を重ねた分析から、迷宮の全貌が明確になる。


「香だけじゃない……心理、恐怖、欲望、それを操る人の意図まで……」


奥の棚の影が動き、低く抑えた声が書庫を貫く。


「よくぞここまで……だが、核心を知る覚悟はあるか?」


影が姿を現す。宦官の姿に隠された威圧感は、後宮でも異例の存在。リンは揺るがぬ目で応じる。


「覚悟はできています。あなたの秘密も、この迷宮も、すべて明らかにします」


影は微笑むが、緊張が空気に満ちる。香の揺らぎが、彼の存在を告げる。


リンは机に手を置き、香灰、記録、メモを再確認する。香の組成、心理操作、行動パターン……すべてが論理的に繋がり、核心の突破口が見えた。


「迷宮の扉は、人の心の奥にある……恐怖と欲望を見極めれば、出口は開く」


リンは微かな風に揺れる香の残り香を嗅ぎ取り、影の動きを正確に予測する。そして、机の香灰を握り締め、一歩前に踏み出す。


影は息を呑み、沈黙する。書庫の静寂に、香の濃密な層だけが漂う。


「すべて、見抜きました……影の正体も、後宮の秘密も」


リンの声は冷静だが、確固たる決意を帯びていた。影の正体――後宮の権力を握る宦官でありながら、王家の存続のために秘密を守っていた存在――が、今まさに明かされる。


「君の力、観察力、そして知識……恐れ入った」


影は静かに頷き、迷宮の仕掛けを解除するかのように、香炉の火を消す。香が徐々に薄れ、月光が書庫を明るく照らす。


リンは深く息を吐き、香灰を机に戻す。迷宮の扉は完全に開かれ、後宮の秘密は暴かれた。影の正体も明らかになり、すべての謎が解けた瞬間だった。


「これで……後宮の迷宮は終わり。秘密も、操作も、すべてが明らかになった」


書庫の静寂に、リンの確信が響く。香の迷宮の核心に踏み込んだ少女は、もう恐れず、知識と観察眼で王宮の秘密を掌握していた。

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