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薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
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第54話 迷宮の核心、影の正体

書庫の奥、香炉の煙がゆらめき、沈香と蜜蠟、甘い花の香が濃密に漂う。月光が棚の隙間を縫い、机の上の香灰を淡く照らす。リンは香灰を指先で掬い、残り香の微細な変化を嗅ぎ分けながら、深く息を吸った。


「……ここが、迷宮の核心」


香木の出納帳、香炉使用記録、女官や宦官の行動メモ。すべてを分析し、心理操作のパターンを重ねた結果、核心に繋がる線が浮かび上がる。


「香だけじゃない……心理、欲望、秘密……すべて絡んでいる」


書庫の奥で影が動く。囁き声が静寂を切り裂いた。


「ついに来たか、リン」


低く抑えた声。影が月光の中に姿を現す。宦官の姿だが、後宮の権力と知識を兼ね備えた異例の存在。リンはその視線を受け止め、冷静に言葉を紡ぐ。


「あなたが隠そうとしていた秘密、すべて読み解きました。香も心理も、計算され尽くしていましたね」


影は微笑み、沈黙を保つ。


「その通りだ。だが、核心の真実に触れる覚悟はあるか?」


リンは微かに頷く。


「覚悟はできています。王宮の秘密も、あなたの意図も、すべて明らかにします」


影は香炉の煙に紛れて後退する。書庫に残る香の層だけが揺れ、空気に緊張が走る。


リンは机に手を置き、香灰、記録、メモをもう一度確認する。香の組成、心理操作、行動パターン、秘密を隠すための仕掛け……すべてが論理的に繋がった。


「核心は人の心……恐怖と欲望を読み解けば、迷宮は突破できる」


その瞬間、影が姿を現した場所から、微かに風が通り抜け、香の層を揺らす。リンは香の変化と残り香の微妙な揺らぎから、影の動きを正確に予測する。


「これで……出口も、真実も、手中にある」


リンは息を整え、机の香灰を握り締めた。迷宮の扉が、今、静かに、しかし確実に開かれつつあった。そして、後宮の秘密と影の正体に、ついに迫ろうとしていた。


「さあ、すべてを明らかにする」


書庫の静寂に、リンの決意だけが深く響いた。迷宮の核心――影の正体、後宮の秘密、心理の仕掛け――すべてが、今まさに彼女の前で明かされようとしていた。

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