表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
薄明かりの書庫番  作者: 朝陽 澄
52/64

第52話 迷宮の扉、真実の香

書庫の奥、沈香と蜜蠟、甘い花の香が漂う。月光が書棚の隙間を縫い、机の上の香灰を淡く照らす。リンは指先で香灰をなぞり、残り香の微細な変化を嗅ぎ分ける。


「……これが核心か」


香木の出納帳、香炉使用記録、女官や宦官の動きのメモ。すべてが線となり、迷宮の構造が浮かび上がる。香の組成、時間、残り香の微妙な揺らぎ――心理を操るために計算され尽くしている。


「でも、計算され尽くしていても、読めるものは読める」


奥の棚で微かに影が動く。リンは息を殺す。囁き声が書庫の静寂を切り裂く。


「君がここまで読み解くとは思わなかった」


低く抑えた声。影が月光の中に輪郭を浮かべる。宦官の姿だが、後宮の知識と権力を兼ね備えた異例の存在だ。


「あなたが守ろうとした秘密……すべて、香と心理の仕掛けに隠されていた」


影は香炉の煙を指先で撫で、微笑む。


「正確だ。君の観察力と知識は、後宮の誰も真似できない」


リンは机の香灰をじっと見つめる。


「でも、私は理解した。核心は、香だけじゃない。人の欲望、恐怖、秘密――それが迷宮の本質。そして、それを隠すための香だった」


影は微笑んだまま沈黙し、やがて書庫の闇に溶ける。香だけが空気に漂い残り、リンの心を締めつける。


「迷宮の扉……開ける」


リンは深呼吸し、香灰を指でつまみ、分析したすべての情報を整理する。心理、香の揮発、後宮の人々の行動パターン……迷宮の出口は見えた。あとは行動に移すだけだ。


「次の一歩で、秘密は明らかになる」


月光に照らされた書庫の机で、リンの瞳は静かに、しかし確固たる光を帯びていた。香の迷宮の核心、その扉は、今まさに開かれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ