ノレスとのデート②
「おおお、この枕凄くいい…」
商店街でアスタルテが真っ先に気になったのは寝具店だった。
ベッドは大きな物を購入したのだが、やはり最高の睡眠を求めるには枕やシーツなど、気にしなくてはいけない部分が多いのだ。
え?なんでそこまでこだわるかって?
に、人間の3大欲求の1つだから…?
いや、寝るまでのまどろみってとても気持ちいいじゃない?
あれに加えていい寝具だとさらに快適なんですよ、ええ。
(って何を1人でぶつぶつ言ってるんだ私は…)
気を取り直して枕を見つめる。
この世界にも当然枕のグレードがあるみたいで、いい物ほど良い魔物の素材を使っているらしい。
という訳で高さも柔らかさも最高に合った枕を見つけたのだが…
「15000zか…流石に高いなぁ…」
1万5000ゼニス…日本円に直すと15万円だ。
今資金に余裕はあるが、冒険者というものは安定した職業ではない。
しかも私はスキルを見る感じだと歳を取らないみたいなのだ。
ということは、事故か何かで命を落とすまでお金は必要不可欠だろう…
つまるところ、老後(?)のためにも貯めておいて損はない。
少し前に家も買ってしまった事だし今もほぼ毎日外食だし、少しでも節約しなくてはならない…
(喉から手が出るほど欲しいけど…ここは我慢…)
アスタルテは手に持っていた枕を棚に戻す。
「ん?それが欲しかったのではないのか?」
アスタルテの反応を見てノレスが問う。
「正直めちゃくちゃ欲しい…けど…最近出費が激しいし、少しでも節約しないとじゃない?」
「ふむ、金銭の管理は重要じゃな。人も魔族も、多額の富を得ると途端に骨無しになるからのう、流石は我が伴侶じゃ」
ノレスはそう言ってアスタルテの頭を撫でる。
頭を撫でられるのは心地よかったが、人目のつく所だと流石に恥ずかしい…
手をどかそうと思ったアスタルテだったが、それをノレスの声が遮る。
「じゃが…」
ノレスは手を退けると、アスタルテが置いた枕を手に取った。
「じゃが、今日はデートであり我はお主をエスコートする側じゃ。ここは我が出す」
そしてノレスはどこからともなくジャラジャラと音を立てる小袋を取り出す。
「いや流石にこれは高すぎるから…って…え?」
アスタルテはその小袋の中身を見てギョッとする。
なぜならそこには金貨がわんさか詰まっており、大金貨までいくつか入っていたからである。
「え…ノレス、なんでそんなに入れてるの…?」
「ん?出掛ける時は大体これくらいは持ち歩いておるが、少ないか?」
そうだった…
すっかり忘れてたけどノレスって魔王、つまり王族だった…
さっき金銭の管理がうんぬん言ってたけど、そもそも次元が違う話でしたね、はい…
そりゃ、15万の枕なんて気にするにも値しないレベルだよね…
「欲しいのはこれで間違いないか?」
「あっ、はい…」
ま、まぁ、何はともあれ、節約は心掛けよう、うん。
───────その様子を眺めている影がいることに、アスタルテは気づかなかった。
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「ふふふ…♪」
何はともあれ、枕が手に入ってアスタルテはご機嫌だった。
(帰ったら1回洗って明日天日干ししよう!最高の寝心地を得るために、今夜は我慢だ…!)
「枕1つでそんなに嬉しいのか?」
想像してたより喜んでいたアスタルテが気になり、ノレスが質問する。
「うん!これは本当に嬉しい!ありがとう、ノレス!」
アスタルテは気持ちを素直に伝え、ニカッと笑う。
その笑顔にノレスは思わず赤面していたのだが、アスタルテは気付いていなかった。
それよりも、さっきから変に視線を感じるし、なんならそこの影になんかこっちを見てる人物がいる…
というか、近づいてきてない?
たまたま真横に向かって走ってきてるだけ?
いや、そんな訳な…
「おわっ!?」
アスタルテに向かって走ってきていた人物はアスタルテを抱え上げると、そのまま裏路地へと入った。
突然の出来事に一瞬呆気にとられたノレスだったが、すかさず追いかける。
見ると、抱えられたアスタルテの顔に割れた瓶のようなものを向けていた。
「来たにゃ?娘を傷つけさせたくにゃかったら、大人しく袋のお金を渡すにゃ!」
(……にゃ?)
抱えられながらアスタルテは混乱していた。
突然の出来事だったから?
人質に取られ命が危ういから?
否、ノレスと一緒にいた私を人質にとったからだ。
ノレスは普段の格好で街を歩いている。
つまり魔王の時の姿のままだ。
だが、魔王がどんな見た目かあまり認識されていないので魔王とは分からないだろう。
しかし、どう見ても喧嘩を売れるような相手ではないのは明白だ。
出会った時と同じく、ノレスは膝の裏まで伸びる長い黒髪に渦巻く角を持ち、そして背中と腰からそれぞれ生える4本の禍々しい羽、身体には左足から左頬まで全体的に左側に紋様が浮かび上がっているうえに、圧倒的強者のようなオーラを放っている。
これをそこら辺にいる魔物と同レベルで見るほうが無理があるのだ。
「貴様ァ……」
やばい。
これは本気でやばい。
ノレスを見ると、全身からとんでもない力のオーラが出ていた。
「にゃ!?お、お、お前!この子がどうなってもいいのかにゃ!?」
この人もどうやら喧嘩を売った相手がそんじょそこらの魔族じゃないことに気づいたみたいだけど、時すでに遅しだね…
頬に押し付けられる割れ瓶を横目で見ながらアスタルテは思う。
「アスタルテに…我のアスタルテに……その小汚いドブのような手で触れおったな貴様ぁ!!」
「ひ、ひいぃぃ!?」
(実際に怯えたときってひぃぃって言うもんなんだな…)
─────アスタルテは何故か他人事だった。
ノレスが鬼のような目つきで迫る。
「ちちち、近づくにゃ!!それ以上近づいたらこの子が…」
─────キンッ
一瞬音が聞こえたと思った次の瞬間、アスタルテに向かっていた割れ瓶が粉々になり地面に落下した。
「にゃああああ!?」
誘拐犯?は絶叫するとアスタルテを開放し、一目散に逃げ出した。
───が、ノレスの手から伸びた触手のようなものに足首を掴まれその場に転ぶ。
そしてズルズルと引きづられ、仰向けになった頃にはノレスの足元だった。
「そそ、その子はもう放したし、お金も諦めるのにゃ!だから見逃して欲しいにゃ!!」
それを聞いてか否か、突如現れた刀が誘拐犯の頬を掠め地面に深く突き刺さる。
「ひ、ひいぃぃ…」
逃げようと必死にもがくも、足に巻き付いた触手はビクともしなかった。
すると、刀がもう1本現れ、今度は反対側の頬を掠めて地面に突き刺さる。
「ひっ…!」
顔の両端に刀がある状態では動くこともできず、誘拐犯は完全に固まってしまった。
その顔はすっかり青ざめてしまいブルブルと震えている。
そこでようやくノレスが口を開いた。
「見逃せ…じゃと?貴様、あれだけの事をしておいてよくそんなぬけぬけと言えるのう?」
ノレスの目は完全に据わっていた。
止めに入りたいが、あまりの威圧感でアスタルテも動くに動けなかった。
「貴様、楽に死ねると思ってはおらんじゃろうなぁ?そうじゃな、まずは足を砕くか?腕をゆっくりねじってちぎるのもよいのう?」
ノレスの触手がぐぐぐっと足を引っ張り、その度に顔の横に刺さった刀が皮膚に食い込んでいた。
「にゃ…にゃぁ……」
誘拐犯はガタガタと震えており、足元には水たまりが出来ていた。
「やはり…まずは足かのう?」
ノレスがそう言うと、足に巻き付いた触手の方からミシミシと音が出る。
「…!まずい、ノレス!ストップ!」
ようやく我に帰ったアスタルテは、ノレスの前に出る。
「どうしたんじゃ?アスタルテよ。そこにいては力加減が難しくてあっさり殺してしまうじゃろう?退くのじゃ」
「うぐ…あぁぁ!!」
ミシミシと音が聞こえ、後ろから悲鳴が上げられた。
「の、ノレス!もういいってば!一回落ち着いて!」
「落ち着くじゃと…?我がこの状況で落ち着いていられると思うか?」
「私は何もされてないし傷だってないから!ねっ、大丈夫だから!」
アスタルテはノレスに見えるように横髪をたくし上げて頬を見せる。
「何もされてない訳ではなかろう!こやつは汚い手でお主に触れ、刃を向けた!しかも我の目の前で!それを見せつけられて何もせん我だと思うか!?」
「で、でもあんなんじゃ私、傷なんてつかないよ…?」
「傷の付くどうこうではない!その行動が許されないということじゃ!」
うっ、どうしよう…ノレスを止められる気がしない…
チラリと誘拐犯の方を見る。
見たところ服もボロボロだし肌も土で汚れていた。
ホームレスだろうか…
ん?ホームレス?そういえば、お金を求めていたな…
「ノレス!」
「……なんじゃ」
「こ、この人はきっとお金が無くて…それできっと私達に目を付けたんじゃないかな?生きるために切羽詰ってたというか…」
「ほう?ならば残念だ、その策は失敗じゃ。こやつはここで死ぬ」
「ま、待って!?何も殺すことなんてないし、ね!?とりあえず、話を聞いてみようよ?」
「こんなヤツの話を聞いた所で我の気持ちは変わらん」
「それに人殺しなんてしちゃったらこの街に住めなくなっちゃうかもしれないしさ!ノレスが私の事を大切に想ってくれているのは改めて分かったから!」
アスタルテの言葉を聞いて、ノレスの目に光が戻り、同時に頬が紅潮する。
「そ…そうじゃな…我はお主が大切じゃ、この世界の誰よりも…」
よく考えたら結構恥ずかしい事を言ってしまった気がする…
アスタルテも顔が熱くなるのを感じながら話を続ける。
「だからね、とりあえず話を聞いてみよう、それから衛兵に連れて行けばいいじゃない?」
「お主がそういうなら…分かった…」
そう言って触手を解く。
(良かった、なんとか抑えられたみたい…)
アスタルテは安堵のため息をつくと、犯人の方を見る。
犯人の方はというと…ボロボロに泣いていた…
「え、えーと…もう大丈夫だから…貴方はここの街の人?」
「うぐっ…うぇ~ん……うっうっ…」
駄目だ…とてもまともに話せそうにない…
アスタルテは相手が落ち着くまで待つのだった…
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「えっと、貴方はここの街の人?」
ようやく落ち着いたのを見て、改めて話しかける。
猫耳が生えているのを見るに獣人だろうか?
見た目的に10代半ばといったところだろう。
「………」
「えっと…私はアスタルテ、ここから少し離れた所に住んでるの。貴方は?」
「………」
「あ、あの~?」
どうしよう、何も話してくれないんだけど…
「おい」
痺れを切らしたノレスが声を上げると、少女はビクっと身体を震わせた。
「アスタルテが聞いておるであろう。貴様、アスタルテの言葉を無視しておるのではあるまいな?」
「…!わ、わちはここに住んでるにゃ…」
ようやく話してくれた…
やり方はちょっとアレだけど…まあ仕方ない。
「家は?ここの近く?」
「決まった家は無いにゃ…強いて言うなら下水道で寝てるにゃ…」
えぇ…下水道て…
「えっと、ご両親は?」
「知らんにゃ、わちはずっと一人で生きてきたにゃ」
「えっと……名前は?なんていうの?」
「それも知らんにゃ、というか多分無いにゃ」
おっと、これは思ったより深刻かもしれない…
「ご飯は今までどうしてたの?」
「ごみ箱を漁ったり、お店の廃棄を食べてたにゃ」
「人を脅してお金を取ろうとしたのは初めて?」
「そうにゃ。もう二度とやりたくはにゃいけどにゃ…」
まぁ、割れ瓶なんかで脅してたし、ノレスを相手にしようとしてたし嘘でもなさそうだな…
「ノレス、衛兵に渡すとこの子ご飯とかちゃんともらえるのかな?」
アスタルテはノレスに耳打ちする。
日本だったら犯罪者は留置場や刑務所に行く。
そこなら仕事ももらえるしご飯や寝る環境もある。
下水道で寝泊まりしてゴミをあさる生活よりはよっぽどマシなはずだ。
「まぁ、多少はもらえるじゃろうが、すぐ奴隷商に引き取られるじゃろうな」
「…え?」
「奴隷の飼い主がいいやつじゃったらまあそれなりに満足に暮らせるじゃろうが、9割はロクでもない私利私欲の道具に使われ、最悪すぐ殺されるか死ぬじゃろう」
え?なんでそうなるの?刑務所とかってこの世界にはないってこと…?
ロクでもない犯罪者ならともかくとして、この子は不遇すぎる人生を送ってきた。
流石に可哀想すぎる…
「家に連れて行く…」
「は…?お主、正気か!?何をしでかすか分かったもんじゃないぞ!?」
「でも、流石に可哀想だよ!だって…名前すら無くて…両親すら知らないなんて…」
「そうは言ってもお主な…」
「一旦家で住まわせて、仕事先と住める場所を探そう!それならこの子もちゃんと生きていける!」
「お主…お人好しがすぎるぞ…」
「ごめん…全部の責任は私が負うから!」
ノレスは額に手を当てため息を漏らした。
無理もない、私だってその立場ならそうなるだろう。
「…分かった。お主の責任は我の責任でもある。我も背負う」
「…!ノレス!」
「じゃが、了承したのは我だけじゃ。他の者はお主で説得せい」
「うん…!ありがとう、ノレス…私の我が儘に付き合ってくれて…」
「ふん、お主の我が儘に付き合うのも伴侶である我の責任じゃ」
「……にゃ?」
こうして、3人で家へと向かうのであった─────
どうも、お久しぶりです、あすれみです!
実は閑話は1キャラ2話ずつ…と思っていたのですが、ノレスだけもう一話続きます、すみません。
本編へそろそろ移行したい気はあるんですが、恋愛ゲームのような楽しさがあってつい…
ネタが無いわけではないんですよ!?
ええい、ならばちょっとだけ公開しましょう、第三章は魔族戦争編です!
あっ、名前はもしかしたら変わるかもですが…(おい
でも、コンセプトはこれです!
21話(怒りの拳)で伏線を張っておいたやつについてです!
次回で閑話は終わりです!
レニーとのデートも考えたんですが、街が違うのもあり今回は出てきません…
レニーファンの皆様いらしたらすみません…
ですが、何故か神器を持っていたレニーは今後出てきますのでご期待を!
ではまた!




