第64話 イベント告知
今日は何かいいことが起こりそうだ。なんとなくそういう予感がした。張り切って定時よりも早く仕事を終わらせて、帰り道の途中。歩きスマホはよくないとわかってはいるんだが、いつも通りTwitterを眺めながら歩いていたら。
『BSOよりお知らせ。第二次大規模PVPイベント、を開催いたします』
…………ヤヤヤヤヤヤヤヤッフーーーー!!
テンションが高まりに高まり、超高速ケツワープで帰宅したくなる衝動を深呼吸して抑えて、抑えて……抑えた。ただし心の中は歓喜の嵐。新世界より、のあの曲が流れながら鉄くずが砂塵と一緒に舞い上がっている。
てくてくと歩いていた歩みをカッカッカッと早めて、鼻息をふんすふんすと荒くしながら帰路を急ぐ。傍目から見たら不審者だ? 気にしない。
途中でおまわりさんにつかまって職務質問を受けたので、他人からの視線もちょっとは気にしたほうがいいと思いました。
まあそんなことはどうでもよくて。大事なのはゲームだゲーム、帰ってすぐに服も着替えず飯を食ってパソコンに飛びついて、公式サイトに飛び込みイベントの詳細を調べる。
『大乱闘再び。来月20XX年Z月A日、1チーム最大5名、参加可能チーム数30、最大参加人数150名による超大規模機甲戦争が再び開幕! 一回目とはすべてが違う! 異なる戦場、異なるチーム、異なるルールによる大戦争を生き延びるのはどのチームか!?
参加条件、予選を勝ち抜いたチーム(前回大会上位3チームは予選免除)
勝利条件、最後まで生き残ったチームの勝利
優勝報酬 チームメンバー全員にアクセス権一年分、10万円分のギフトカード、黄金のトロフィー(家具)
準優勝報酬 チームメンバー全員にアクセス権半年分、3万円分のギフトカード、銀のトロフィー(家具)
三位以下 なし。
今回のイベント専用バトルフィールドを少しだけ公開!
(巨大樹が疎らに生える明るい森、そこまで大きくはない木が生い茂る薄暗い森、平原の真ん中に流れる幅の広い川、てっぺんに雪の積もった険しい山岳、そのふもとの村落。五つの風景写真が掲載されている)
以前とは打って変わって随分と自然豊かなフィールドだ……見た感じ山のてっぺんを砲撃機に抑えられたら厄介そうだ。高所は攻めるも守るもやりやすい、序盤はここの奪い合いに追って追われて、足の引っ張り合いの激戦になる。あと転落したらいくら機械でもぶっ壊れそうだ。
山を取られたら村落は危うい。高所からの砲撃で一方的に叩かれることになるだろうから、もし配置されたらさっさと逃げだそう。
フィールドの配置がどうかわからんから何とも言えんが、平原は山からの射程内だと砲撃を受けてちょっと不利。それから遮蔽物のない広い場所でタンク型の装甲と火力と機動力で押し込まれるとこれまた辛い。ブースターなしで川に追い込まれたら正面決戦を強いられる。
森二か所は射撃型にとっては射線が通らないクソ配置で、格闘型には最高の配置。視界が悪く、起伏に富んで遮蔽物もたくさん。待ち伏せするもよし、奇襲するもよし、失敗しても撤退が容易……素晴らしいじゃないか。でもでっかい木があるからってでっかいクモとかアリとか出てこないだろうな。俺は構わんがナメクジ君他女性プレイヤーが泣くぞ。
(登場エネミーはプレイヤーのみです)
出ないらしい。
「楽しみだなぁ」
本当に楽しみだ。前回に引き続き、今回もパイルで暴れてパイルの良さを世に知らしめてやろうじゃないか……あんなでかい布教の機会はもうしばらくないものと思っていたが、運営が頑張って資金を調達したんだろう。偉い。
おかげで生きる楽しみが耐えません。本当にありがとうございます。
さてさてそれでは、前回優勝チームだから予選は免除されるとして。皆当然参加するんだろうな……ああ、でも今度は一人で出るのも面白いかも知れない。一人でどこまでやれるか、その腕試し。それもいい。あえてチームを抜けて、他のチームと組んで新たなロマンの探求。それもいい……。
そうだ。ナメクジくんに恋してるあの男の子を優勝させてみよう。男を上げるってやつだ。そうすればきっとナメクジくんは彼のことを見直して、彼とくっついてくれるに違いない。うむうむ。
しかし二人で優勝するためには、少なくともネストのメンバーとサムライチームを相手にしなければならない……前回の優勝チームと準優勝チームだ。そう簡単に脱落することはないだろう。
新しくチームを組むにせよ、まず彼がYESと言わなければ話が始まらない。ナメクジくんを餌に釣ってみよう。
そういうことで、チーム用掲示板に一時離脱の旨を書いて、チームを脱退。それから件の彼にもメッセージを送る。一言でいいだろう、「ナメクジ君に見直されるチャンスが来たぞ」と。すぐに返事がきた。「話を聞こう」ログイン時間も増えているみたいだし、なんだかんだゲームを楽しめているようで嬉しい限り……詳しいことはゲーム内で話そう、と返事をして、自分もHMDをかぶってログインした。
見慣れた自宅から、見慣れたボロ屋へ。ガスマスクとコートを装備。ログボちゃんの頭を一撫でしてからグローブもつける。扉を開けて外に出る。もうチームロビーじゃなくって、普通に外なのがちょっと寂しいな。
彼と落ち合うために、約束した場所へとファストトラベル……約束した場所というのは、武器屋だ。彼に合う武器を、自分で探してもらう。
しばらく陳列された商品を眺めて楽しんでいると、フレンドの反応があった。
他の客と同じようにガスマスクにコート、グローブという非常に個性的ながら非個性的な服装だ。頭の上に表示されたIDがなければ個人の識別は不可能だ。
「っす……」
「こんばんは。公式サイトかお知らせは見たかい」
「見たよ。参加しろっていうのか」
「もちろん」
「初めて間もないザコが参加できるのか? そもそも予選も突破できるかどうか」
「だから俺と組め」
「なんで?」
「前回優勝チーム所属だから予選はパスできる。いきなり本戦参加が可能ってわけだ。そして本戦で目指すのはもちろん優勝、あの子にアピールする、男を上げるチャンスだぞ!」
「そんなに上手くいくかぁ?」
「君の頑張り次第だ。もちろん俺も頑張る」
出場チームは多くの予選参加者の中から勝ち抜いた、実力が保証されたチーム揃い。そいつらを退けつつ、目標まで辿り着かねばならない。
その目標とは、黒星続きのサムライのリーダーと、衆目の下で勝負すること。勝ち負けにもそこまでこだわっていない、己の信じる熱いロマンをぶつけ合い、そこに生まれるロマンの輝きを人々に見せつけ、魅了することこそが真の目的である。人々が己の内に秘めたロマンに向き合い、戦場にロマンが溢れかえる日がくれば嬉しい。パイル使いが増えてくれれば尚いい。
前回あんなに頑張った割に、あんまりロマンチスト増えなかったし。今回はもっともっと頑張ってキルスコアを稼いで、パイルが最強だと人類に教えてやらねばならない。
彼(チームだから彼らが正しいか)は準優勝チームだから、今回も最後まで残るか、いいところまで行くだろう。運悪く、あるいは実力で他の誰かに敗れたなら、今度は勝ったチームが抹殺目標になる。
まあ、あれこれ難しいことは考えずに、最終的に全員殺せばいいのだ。
このルーキー君の恋路の応援はそのついで。
「そのためにも先立つものが必要だろうから……」
ポチポチポチ、とメニューから所持金の譲渡を選択し、適当な桁を選択。決定。
自分の望むジャンルを流行らせたければ、新参への支援は惜しみなく行うこと、という話をどこかで聞いた。今がまさにその時だろう。
「えっ、こんなにもらって……いいのか?」
「いいんだよ。俺はもう機体が完成してるし、近接装備で弾薬費もそんなにかからないし……あとはちまちまと修理費だ。金なんて貯まるばかりだからな」
リアルマネーもそうなら嬉しいんだが……それはさておき。
「好きなだけ買え、買って試せ。自分にあった装備を見つけるんだ。テストもアドバイスもいくらでも引き受けてやる。目指すは優勝だ! 特訓だ! 勝利の栄光とあの子のハートを掴むんだ!」
「……おう、そうだな!」
「ガンバルゾー!」
「ガンバルゾー!」
そういうことで。このあとめちゃくちゃ特訓した。




