第60話 ログボちゃんの逆襲 終
解散したログボちゃんのうち、孤立したものをストーキングして好機を狙う。敵の索敵にひっかからないように物音を立てず、ローラー移動も使わずに静かに。マップ機能を使って敵の移動ルートを考えて、路地の横道を駆使して先回りして待ち伏せを行って、奇襲を狙う。反応速度その他もろもろが強化されたとはいえ所詮はbot、「敵を視認してから攻撃行動に入る」という特性からして、先手さえ取れればこちらの勝ちなのだから、狙わない手はない。
他グループから十分に離れたところで。狩る。ログボちゃんから見て左側、盾を持っている方から攻撃を仕掛ける。音も熱も発さない待機状態からの奇襲、さらに盾側から仕掛けたことで、こちらに攻撃するには体の向きを変えねばならない。いくら反応速度が速かろうが、懐にもぐりこんだ時点でもう間に合わない。この場面の勝ちは確定した。銃口がこちらを向く前に、パイルを一発。盾ごと胴体をぶち抜いて抹殺完了。盾と胴体に穴を一つずつ開けたログボちゃんの機体は、倒れた衝撃であらぬ方向へと重ライフルを放ち、活動を停止した。
「さて、次だ次」
これでまたログボちゃんの団体様がやってくるが、今度は足並みそろわず。解散した足でそのままくるものだから、到着のタイミングはバラバラになる。到着した順番に叩き潰していって、捌ききれなくなったら温存していたブーストで一気に離脱。また隠れて各個撃破。たぶん、これで行けるはずだ。あまりロマンや爽快感ある戦い方ではないが、パイルを最大限活用して勝利する、という己に課した条件は達成できるのでヨシとする。
作戦を再確認している間に、音響センサーが敵の移動を教えてくれる。その数八機。パイルの残弾ぴったりの数だが、ブレードもあるし外しても余裕はある。なんなら最終手段としてブーストキックもある。
バッテリー残量も、ブーストを使わなかったおかげでまだまだ余裕がある。被弾もほぼなし。油断さえしなければ今度こそ勝てるだろう。ということで今度はこちらから攻めに行く。大体、慎重な待ちの姿勢は俺らしくないし。パイル向けでもない。パイルの過剰な破壊力からわかる通り、こいつは積極的な攻勢に使用してこそ真価を発揮する。というかこの武器でどう身を守るのか。カウンター、防御という名の攻撃とか? 単騎ならともかく複数相手にそんなの狙ってられないよ。袋叩きにされてお終いだよ。
ということでゴーゴー。
路地を走り抜けて、あっという間に表通りに躍り出ると、ちょうどタイミングよく路地へ入ろうとするログボちゃんと鉢合わせした。あいさつ代わりにパイル、こんにちは死ね!
これまでさんざんやられたお返しとして、太くて長くて固くて黒光りする鉄杭を無理やりねじ込んで、また一機撃破。これで残敵は七機。
反応速度が強化されていても、あらかじめ攻撃体制を取っていたパイルに遭遇してから構えるんじゃ間に合わないのは当然である。パイルだけじゃなく近接格闘機全般に言えることだが。
そして今しがた潰したログボちゃんの向こうに、40mmキャノンを構え始めたログボちゃんが居たのでブーストジャンプ、コンマ一秒遅れて発砲。味方に死体撃ちしただけで終えた彼女に向けて、ブースト、空中移動。次弾装填前に接敵、着地ついでに蹴り飛ばして体制を崩した所へ、パイルバンカー。二発目は撃たせずに撃墜完了。
「残り六機ィ」
ここまでは順調。敵戦力を半分まで削ることができた。被弾はなしと大変よろしい。理想的なゲーム運びだ。とはいえ、油断はできない。数の不利は多少マシになったといっても、射撃武器を一切持たないハンデは依然変わらないのだから。むしろ一層気を引き締めてかかるべきだ。
『警告、機体に被弾』
一息つく間もなく、また次のログボちゃんが遠くから機関砲を連射して、ここにきて初めて被弾してしまう。しかし慌てず、今撃破した狙撃型ログボちゃんの陰に隠れて、自機との間にブレードの腹を挟み、弾の嵐をしのぎつつ一寸待つ。ロケット弾が盾に直撃するが、HEAT弾なら自機に当たらなければ問題ない。HE弾も爆風程度なら少々食らっても平気。テルミット弾は被るとちょっと痛い。
射撃型の支援を受けながら格闘型が突撃してきてるのが見えたし、そいつが射程に入るまで……ボロボロになった盾が弾を防ぎきれなくなってきて、ダメージをいくらか受けながら待ったら……足についているローラーを操作、小さな弧を描くように飛び出し、両手で振り下ろされるブレードを、こちらも方手持ちのブレードで下から打ち上げるように迎撃。チェーンソーで鍔迫り合いするような耳障りな騒音を立てながら、一瞬だけ拮抗し、その後に押され始める。しかしこちらにはパイルがある。本命の杭を胴体のド真ん中にぶち込んでェ……撃破! 残り5機! 杭を抜いたらすぐブーストを焚いて路地に引っ込む。装甲を数値化したものを見るに、さすがにこれ以上の被弾は後に差し障りがある。
仲間の残骸ごとぶっ飛ばしてくるのは本当に厄介だが、一気に三機食えたのはとてもおいしい。無視はできないが深刻ではない程度にダメージを受けて頭部センサーの性能が低下したが、戦闘行動にはさほど支障はなし。残るは5機だけ。こっちが死ぬ前にやれるだろうか? いいや、やるのだ。いい加減にやらねばならない。
状況は決して悪くないのだ。これまでで一番良い。だが、立ち回りを誤れば一瞬でスクラップにされる。特に40mmキャノンとブレード持ちは注意しないと一発でやられる。死ななくても当たればその部位を潰される。腕の一本、足の一本であっても致命的だ。奇襲には気を付けよう。
路地に入って一つ目の角で立ち止まり、何度目かの振り返り。ログボちゃんの武装は3パターン、狙撃、射撃、格闘。この三種が一機ずつで小隊を組み行動している。遠近中とバランスの良い仕上がりで、正面からぶつかると苦戦する。それが4個小隊なのだから、まともにやっては勝ち目はない。
彼女たちの弱点は、先も言ったがあくまでもbotであること。こちらを視認してから攻撃行動に入り、攻撃を行う。こちらを視認する「前」は武器を構えていない。こちらを認識した「後」に武器を構える。前か後かの違いだが、一秒未満だが、こいつは確実な隙と言える。角で待っていれば必ず先手を取れるのだ。ちょうどこのように。
こちらを追って、ノコノコ飛び込んできた射撃型ログボちゃんに角待ちパイルをぶち込んでやったら、残り4機。これがプレイヤー相手なら、ヘッドセットの下で顔を真っ赤にして悔しがるところだ。「卑怯者!」と書かれたファンレターが来るかもしれない。ログボちゃん相手ならその心配もないので安心だ。
一機仕留めたらすぐに路地の奥へ引っ込む。直後、さっきまでいた場所にロケット弾が着弾して焼き払った。このように入り組んだ地形は奇襲にはもってこいで、一撃離脱戦法にもうってつけ。格闘機の独壇場である。
そうやって調子に乗っていると、足元を掬われるのが定番。こちらが奇襲を狙うとき、最も気を付けないといけないのは、自分が奇襲される側に回ること。
角を曲がると、レーザーのきらめきが視界の端に灯っていた。
「しまった」
レーザーブレード—刀身の長さは1m弱、実体がなく熱で焼き切るという独特の性質を持つために、迎撃が不可能な強力にして凶悪な武器—だ。
そいつが胴体を切断しようと伸びていた。ローラーを逆回転させて急制動をかけるも、鉄の塊は急には止まれない。とっさの判断で「姿勢制御オフ!」音声操作が間に合い、氷の上で滑ったようにしりもちをつく。胴体を切断するはずだった光の刃は、頭をスイカのように切り割ることになった。
『警告:頭部破損』
人間なら即死だが、人間ではないので死なない。この機体にとっての頭部は、各種センサーとメインカメラが収まっているだけなので、痛手であっても致命傷にはならないのであった。死ななきゃ安い、ということで即座に反撃。サブカメラの映像で敵の位置を把握、ブレードを真横に一閃、こちらはしりもちをついているので高さの関係上、そこには足がある。
こちらは頭をやられたが、奇襲を仕掛けたログボちゃんは片足をぶった切ってやった。痛み分けというには、相手の方が損害は重大。あちらは機体の膝から上が地面に落ちて動けないが、こちらは立ち上がることができる。
武器を持った手を振るって何とか攻撃しようとしてくるが、赤ん坊が駄々をこねるようなものでもはや無害。両手を切断し、胴体にパイルをぶち込んで殺す。
「まったく、油断はできないと言ったばかりなのにこのザマとは。俺も未熟ということか」
そんな感傷は横に置いといて。敵はまだまだやって来るのだ。のんびりしてはいられない。残敵は3機。頭をもがれたおかげでマップ機能はもう使えない。センサーも使えない。自分の脳みそでは入り組んだ路地を記憶するのは無理なので、逃げ回ったり先回りしたりできないし、センサー機能が丸ごと死んだので、敵はサブカメラの映像でしか捉えられない……こともないか。ちょいとリスキーだが、正面装甲を開けば外の音を聞ける。そうすると胴体に一発でももらうとアウトになるが、どっちにしろ不意打ちされたら死ぬし……そうしよう。で、残りはどう片づけるか。一気に攻め切るか、一撃離脱で慎重に行くかの二択だが……
速攻は味方を巻き込む攻撃で死亡するリスクがより高まる。が、温存していたブーストを一気に使ってしまえば、3機なら攻め切れる。多分。
一撃離脱で慎重に、の方は……難しいな。頭がつぶれてるし。ここまで来て慎重に行くのも面白くない。
ここで待っていれば向こうからやってくるのだ。三匹集まったところを急襲して、脅威度の高い個体から真っ先につぶしていけばいい。
そうと決めたら壁に向かってブーストジャンプ。足を壁につけてもう一度ブースト使用で、空に向かって猛ダッシュ……そして建物の屋上に着地。その後は正面装甲を開いて待機。
待つこと一分、近くから足音が一機分。足元で止まる。さらに待つ。カップラーメンができる程度待つと、全機集合したようだ。そしてこちらを確認できないので、ルーチンに従って解散しようと動き出す。
ここだ、と飛び降りを敢行し、ロケラン持ちを頭から股下までブレードで真っ二つに切り捨て着地。同時に無茶な使い方でひん曲がったブレードを40㎜キャノン持ちに向かってぶん投げて一寸時間を稼ぐ。
目の前にはブレードを振り向きながらぶん回そうとするログボちゃん、あえて踏み込み、肘を左手で押し止めて邪魔しつつパイル。マニピュレーターが粉砕されたけど残り一機なので問題なし。
さらに振り向けば、40mmキャノンの砲口がこちらを向いていた。
ブーストジャンプ! よけきれずに左足が吹っ飛んだ。だが問題なし。次弾装填までの時間があれば十分。
空中でさらにブースト、向かう先は最後の一人。落下速度をさらにブーストで加速し、自重のすべてを右膝の一点に集中させて、激突! 直撃! 右足損傷! 問題なし!!
無傷のログボちゃんを一撃で倒すには至らずとも、懐に潜り込めば40mmキャノンのような長物は使えない。ブレードに持ち替えるようとするが、その前にこちらのパイルは再装填が完了する。片足で着地して、倒れこみながら狙いをつけてェ……パイルバンカーを発射して! コアのド真ん中をブチ抜いてェ!!
「決着ゥゥーーーー!!」
Congratulation!!
―トロフィー:猟犬狩りを取得しました—
ミッションクリアのファンファーレを聞きながら地面に倒れ、大きく息を吐きだす。
「もう二度とやんねぇ……」
滅茶苦茶キツかった。条件的にも、精神的にも。その甲斐あってこれ以上ない満足感、達成感に包まれている。
リザルト画面を離れてマイルームに戻り、そこからログアウトを選択。
画面が真っ暗になり、意識が現実に戻ってくる。ヘッドセットを外せばそこは見慣れた我が家……イスに座って、体重を背もたれに預けて、もう一度深呼吸。
肉体的な疲労はないが、その分頭に、つまり精神に負担がかかる……集中してプレイすると特に。
少し休憩したら、ナメクジ君にクリア報告入れて飯食って風呂入って寝よう。そうしよう。
現在いろいろな事情でストレスがマッハで執筆意欲が薄れてたのと、釣りの最中に指をざっくり怪我したせいで更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。ちなみに指はもう治ったのでご心配なく。
ポイントや感想がもらえると執筆意欲がいっぱい湧いて次の更新が早くなるかもしれません。




