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ログボちゃんの逆襲

 以前追加されていたけど、まったく触れていなかったミッションで遊んでみようと思う。

 ミッション名は猟犬ちゃんの逆襲、だったか。

 ナメクジ君が言うに、高難度の警告は伊達じゃないらしい。ミッション詳細は、アカウントBANモードと同じような状況が楽しめるらしい。

 BANモードとは、迷惑行為で何度も通報されたプレイヤーへの処罰である。ログイン不可や、アカウント消去はないが、一定期間他人とのメッセージ送受信不可、VCも負荷、共同出撃も不可となり、出撃のたびに大量のログボちゃんからの襲撃にさらされ、遊ぶどころではなくなるらしい。


 ……で、このミッションは、そこまでひどくはないが、通常より強化されたログボちゃんがたくさん襲ってくるのをぶち殺すというミッション。

 どう強化されたか掲示板で確認したら、射撃精度と反応速度がプレイヤー並みに引き上げられ、新たに盾装備型が出てきて、カバーアクションを使用する、そういうシンプルな内容らしい。しかし、シンプル故に強いと。少なくとも今しがたパイルで突き殺したノーマルログボちゃんよりは。

 いつも通りログボちゃんから装備をむしり取って金に換えたら、ミッションを受注しに酒場へ向かう。


 今のところはイベントもなく、新しい要素も実装されていない。大規模イベント後のクールダウン期間なので、そこまで人がごった返してはいない模様。受付でミッション一覧から猟犬ちゃんの逆襲を選択、出撃準備、いつもの愛機。装備変更なしなので、完了。出撃。


 画面が暗転して、次の瞬間には自宅の薄暗く埃っぽいガレージの中。目の前には、パイルバンカーとブレードを装備した我が愛機。意気揚々と乗り込んで、ガレージの坂を上ってシャッターを開き、さあ外へ。


 ……何もない、ログインしてすぐに見る、いつも通りの光景だ。灰が雪のように静かに降り注ぎ、汚れた廃墟が立ち並ぶ殺風景。いつもならここらでログボちゃんが口上を述べながら襲ってくるところだが、さて。と待っていると、通信が入ったので応答する。

 応答といっても一方通行なのだけど、ともかく。


「偽りの依頼、失礼しました。あなたにはここで果てていただきます。理由はお分かりですね」


 わかってるわかってる。日頃の恨みだろう。毎日プレイヤーがログインするたびに殺されていれば、たまにはやり返したくなるよな。出社するたびに怒鳴られていた頃があるから、その気持ちはよくわかる。


「では参ります」


 口上は終わったらしい。が、姿はない。ということは狙撃か爆撃かの二択だが? いつでもブースト回避ができるように身構えておく……が何も起きない。そう、何も起きないのである。弾の一発も飛んでこない。相手がレーザーキャノンなら発砲見てからじゃ間に合わないのだけど。

 肩透かしを食らった気分だ。戦場はとても静かで、敵が動いている様子はない。こっちから迎えに行かないとダメらしい。敵を見つけるか、撃たれるまでうろうろするか。

 ほかのミッションなら、最初から敵の位置が明らかだったり、放っておけば勝手にドンパチ始めたりするから、そこに突っ込めば済むんだが。

 奇襲はするものであって、されるものではないので、慎重に路地を一つ一つクリアリングしながら進む。


「ぬっ」


 覗き込んだ路地から、赤い機体が一つ。剣を腰だめに構えて、ヤクザの鉄砲玉めいて突撃してくる。ただの剣なら装甲で弾いて終わりだが、そんなワケがないので。

 こちらもギミックを仕込んだ高周波ブレードで叩き落す。もしただの鉄塊ならこれで真っ二つ。そうでなければ……

 ギャリギャリギャリギャリッ、エンジンをかけたチェーンソーどうしをこすり合わせたような悲鳴があがり、ログボちゃんの切っ先が下に逸れる。ほかに武器はなく、これだけが攻撃手段とは、まったく妙だ。殺してくれと言わんばかりに突っ込んでくるなんて絶対何かある。でも放っておくわけにもいかないので、とりあえずパイル。

 ズドム、腹に響く射出音、装甲を貫く反動。敵の装甲に穴をあけたと思ったら、もう一つ穴が開いて、ログボちゃんの向こう側から発射された砲弾が自分の機体を貫いた。


-YOU CRASHED-


……まさか仲間ごとぶちぬいてくるとは。いくらログボちゃんといえども、仲間を撃つことへの抵抗とかないんだろうか。ないんだろうなぁ、botだし。撃破された仲間なら、穴を一個増やす程度問題ないんだろう。

 よし、じゃあもう一戦いこうか。武装はそのまま、再出撃を選択。失敗しても修理費は発生しないから問題なし。トライアンドエラーだ。失敗したときにまた考えればいい。今度は口上もなく、ミッションスタートの文字だけが表示される。


 さっき撃墜された場所まで進む。さっきと同じように、ログボちゃんが一人突撃してくるのを、迎撃……せずに、ローラー移動をいい具合に制御して、脇をすり抜けるようにして避けて、路地の奥をにらむ。

 そこには40mm砲を構えたログボちゃんと、それをカバーするように連装機関砲とロケット装備のログボちゃんが一機ずつ。この狭い路地に三機ものログボちゃんが潜んでいた、いきなり一個小隊のお出ましとは恐ろしい。しかもこれを一人で。なるほど高難度だ。

 そんで、狭い路地で爆発物はまずい。すり抜けた直後にロケットが全弾発射される。左右に逃げ場はなし、前進も後退も不可能、チッ、と舌打ちしてブーストジャンプで回避を行うも、直下で起きた爆風に機体、特に脚部へダメージを受けた。おまけに機関砲の銃口はきっちりこちらを追跡して、銃弾が装甲をガリガリと削っていく。

 近接ログボちゃんはもちろん死んだ。仲間意識というものはどこにもないらしい。

 いつものログボちゃんよりも反応速度も射撃精度も強化されている。仕方ないので、空中ブースト、20mm砲弾を全身に受けながら、撃ってくる相手に向けパイルを突き出しての体当たり。そのままトリガー、鉄杭で貫き潰す。そして、味方の死に一切動揺しないのがAIの恐ろしいところ。40mm砲の砲口がこちらを向いて……着地のすきを狙って、放たれる。ブレードは届かず、左右に逃げ場はない。

 判断を誤った。そう思いながらもう一度ブーストジャンプ。


『脚部破損』

「おっとしまった」


 砲弾が掠めて片足が吹っ飛んだ。これではもう戦えないな、と着地に失敗。はでにすっ転んだところを、40mm砲弾が無慈悲に撃ち込まれた。まったく正しく、処刑人の姿だ。

 この流れ、パイルを使い始めたころを思い出す。


「……面白くなってきた」


 初心に帰って殺されまくってやろうじゃないか。そんでどうにか突破口を見出してやろう。


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