砂漠地帯(2)
「一機やられて、一機やり返して……か。痛み分けだな。だがじきにほかのチームがこっちに来るだろう。気を引き締めろよ」
「アイ・サー。ああ、ヤボールコマンダーだったか」
「どっちでもいい。アヌスレイヤー、今度はナメクジの援護なしでも生き残れよ。次も支援できるとは限らん」
「リーダーは自分の心配をしたほうがいいんじゃないか、このフィールドじゃあんたの武器は役に立たんだろう」
砂嵐で視界はふさがれて、その他のセンサーもほとんど役立たず。スナイパーは遠方から敵を見つけて、敵の手の届かない場所から撃ちぬいてなんぼの仕事だが、目が全部ふさがれていてはその前提が崩れる。
そして、気付かれることなく間近に忍び寄ることができる格闘機には大変都合がいい。さっきは気付けたが、次はどうだか。そうでなくとも普通の機体の距離に入ればスナイパーキャノンの利点は威力以外全部が潰れる。レーザーキャノンに至っては塵だらけで使い物にならない。スナキャは直撃すれば一発撃破も狙える威力だが、単発だ。二発目を打つ前に50発は飛んできてスクラップになるのがオチだろうな。
「素直にありがとうって言えよ。この貸しは高くつくぞ」
「終わったらパフェおごってやるよ」
「よっしゃ」
そんで、のんびり会話ができるのも今だけ。仕掛けてくるとすればそろそろだろう。
「あの辺にいそうな気がする!」
……突然リーダーがスナイパーキャノンを構えてぶっ放した。見えてないのに撃っても当たるわけないだろ馬鹿か、と思ったのだが、銃口を向けていた先でほぼ同時にマズルフフラッシュが輝いて、リーダーの上半身が吹っ飛んだ。
「……マジかよ」
二つの意味で驚いた。驚いたが、すぐに砂の丘を駆け下りて稜線に隠れる。わずかに遅れてナメクジとボンバーマンが下りてきて、銃声と、砂を砲弾が叩く音が一秒経たずに聞こえてくる。
「やばいんじゃないかコレ」
リーダーが下手にぶっぱなしたせいで位置が割れた。いや、その前に割れてたんだったな。奇襲を防いでくれたわけだから感謝しないと。
「そうかもしれない。ナメクジ君、突っ込んで数減らしてくるからブレード貸して」
「正面から突っ込んでもやられるだけだろ馬鹿か」
「黙って支援する。他にできることもないんだから。待っててもなぶり殺しにされるだけだぞ」
「銃声で敵の位置はわかった……砲撃するから突っ込んでくれ」
ナメクジと違ってボンバーマンは素直に支援してくれるようだ。迫撃砲を立て、ポンポンと二発撃って、手持ちのグレネードランチャーからも。ありがたい。するとナメクジ君も見習ってブレードを差し出してくれる。
「あとで返せよ」
「壊さなかったら返す。誤射は気にせずどんどんぶちこんでくれ。行ってくる」
稜線の下からローラーダッシュで勢いをつけて上り、初段加速。飛び出す直前でブースト使用、二段加速。坂をカタパルトに見立てて、機体を発射する。
前回ルーキーズと戦った際は仲間が全員やられて、ヤケクソの突撃だったからあっさりやられたが、今回は支援がある。そして作戦はシンプル。突っ込んで杭で全員突き殺して、仲間のところに戻る。以上!
飛翔。砂嵐の中、機体を一発の砲弾と化して、山なりの弾道を描き飛翔する。空は砂が覆いつくしており、太陽は見えない。だというのに足下は大量の曳光弾が飛び交い昼間のように明るい。一直線に突っ込んでいればそのままハチの巣にされていたことは、想像に難くない。で、飛び交う火線の数から敵は4機と推測、おおよその位置も把握、滞空時間3秒ほどで、着地。
真正面に熱源反応を確認。おおよその位置とも合致。ブースト、すぐに目視で確認できた、大きく右腕を振りかぶって……ストライクだ。突き出した右腕、火薬によって撃ちだされた鉄杭は違うことなく的の中心、胴体に命中。装甲貫通、一機撃破。
周辺の熱源は残り三つ、砂嵐のせいでセンサーは役立たずになったかと思ったが、近付けばその限りではないらしい。赤外線カメラに切り替えたら白黒の世界の中に、熱を持った砲身の形がクッキリと浮かび上がる。丸見えだ。
ただし、こちらから見えるということは相手からも見える、ということで。
一匹仕留めたからと一息つかず、即ブースト。次の獲物に一直線、には飛ばず、少し角度をずらして、まずは攻撃を回避。もう一回、二回目のブーストで敵に向かう。パイルの次弾装填はまだ。なので左手に持ったブレードを、ブーストの速度を乗せて突き込む。
高速の刺突は防御が困難、相手はそれをわかって、引き付けてから回避。反撃のレーザーブレードが光る。
ブーストカット、両足を地面に突き立て、さらにローラーを回転、クイックターンで振り返りつつブレードを振るい牽制、攻撃のために温めたレーザーブレードが防御のために振るわれ、こちらのブレードは半ばから溶断される。腕を持っていかれたり、胴体を刻まれてリタイアよりはいい。それに借りものだから壊されても気にならない。
それよりも、相手を正面にとらえた。敵のライフルがこちらに向く……一発二発程度なら問題なし、ブースト、一瞬で機体が最高速に! からの飛び膝蹴り! アースという鉄の塊は当然ながらとても重い。その重量を膝の一点に集中させ、高速でぶちこむことで、砲弾にも劣らぬ破壊力・衝撃力を生み出す。
ガギャン!
『警告:脚部損傷』
金属がぶつかり、ひしゃげる。大重量の衝突が敵の外装を破壊し、中身も相応に揺さぶられる。こっちも結構揺れたが、こっちから仕掛けた攻撃だ、動揺はしない。このやり取りの間に杭のカートリッジの装填が済んだ。距離は至近、防御はがら空き、妨害もなし。あとはもう、全力でたたきつけるのみ。
「死ねやオラァ!」
胴体の真ん中に一発ぶちこんだら、残りは二体。『一匹つぶしたぜ』……一体だ。リーダーを落とされた分は三倍にして返せるぞ。やったね、倍返しだよ倍返し! 一時期はやったやつ!
『チーム・ROOKIESが降伏を選択しました』
「えぇ……今のルーキーズだったのか。テンション上がってきたとこなのに」
「ホントだよ。前の借りを返してやろうと思ってたのに……」
「まあまあ。まだ試合は終わってない、次があるさ」
「次で満足できるとは限らんだろ。試合は終盤も終盤、消耗しきったやつらしか残ってないんだぞ」
「俺たちも消耗してるだろ。特にアヌスレイヤー。あれだけブースト使ったんだ、あとどれだけバッテリーが残ってる。一回二回ブーストできればいい程度だろ。それに俺も弾がほとんど残ってない。一番消耗してないのがナメクジだから、次の主役は決まりだろ」
「むぅぅ」
「ぬぬぬ」
ボンバーマンの言うことは正しい。とにかく目の前の敵をぶっ殺すことだけ考えてブースト使いまくってたせいでエネルギー残量は大変厳しい。おまけに今さっき無茶したせいで脚部損傷。このエリアに追い詰めた敵ならともかく、先の二刀流が相手ならちょっと厳しい。ブーストもなく、ブレードもなし、パイル一本の縛りプレイ……勝てるかどうか。
だが、全力を尽くして負けたなら満足できるか? でも負けたら悔しいし、どうせなら勝ちたいよなぁ。うん。
祝・50話達成! 皆祝ってくれていいのよ?




