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工場地帯 3

-----工場地帯に特別イベント発生-----


「運営より観戦者の皆様にお知らせです。今から五分間、最大人数10名までで、予選敗退者を本戦に参加していただける方を募集します。なお、参加希望者の数が参加可能人数を上回った場合抽選で決定いたします。

 えー……事前説明にはありませんでしたが、運営の中でも上の方々が見てて面白くないから何かしろ、と言うので。急遽開発チームに無理を言って……はい。ご協力お願いします」


 無茶ぶりされた開発チームには同情を禁じ得ない観戦者一同だったが、それはそれとして。不運か実力不足かで予選落ちしたチーム、参加者たちの盛り上がりはそれはもう凄まじいものがあり、五分どころか一分足らずで定員の10倍が集まり抽選受付が閉め切られてしまった。

 ただ、参加できなかった人の顔にも不満はなかった。面白くなかった試合が面白くなるのだから、不満な理由がどこにあるだろう。


「……たった今抽選が終了しました。参加者の方は機体のセットアップを1分で済ませて待機してください」


 ピコン、と当選通知。……なんと。ダメもとで買った宝くじが当たった気分だ。当たったからには仕方ない。全力で遊ぼうかな! それじゃあちょっと芋砂野郎をぶっ殺してくるから! しばしさよならだチームメイト諸君!


 体が光の粒になって消滅し、視界が切り替わる。酒場から見慣れたガレージに。観客は消えて、自分の半身、愛機たるアースがそこにあった。ただし、機体のペイントは違う。ログボちゃんとお揃いの、威圧感ある赤と黒のツートンカラー。肩には金字で「09」と番号が書かれていた。


「特別ルールの説明をします。工場地帯の2チーム限定で、敵の位置が常に把握できる状態になっておりますので、サクっとぶっ殺してきてゲームを動かしてください」


 大変投げやりなログボちゃんの声を聞きながら、装備の選択をする。フレームは中量二脚でいいとして、武装だ。ライフルとシールド、レザブレは必要だから、あとは自由枠。相手の位置が割れてるなら狙撃や砲撃が極めて高い効果を発揮するからな、スナイパーキャノンかグレネードキャノン、迫撃砲か。射線が通るなら狙撃でいいし、通らないなら曲射のできる砲撃が好ましい。

 ……うん、たまには爆発物もいいだろう。


「残り30秒」

「準備完了。いつでも出撃できる」

「……ほかのメンバーの出撃準備を待っています。完了しました。では出撃です。ご武運を」


 画面がまた暗転……そして、眼に映るのは一面砂色のモニターの画面……異常に視点が高いし、移動速度も随分早くないか?


「……飛んでるー!?」


 タンデムローターの輸送ヘリにワイヤーで吊るされて、砲弾飛び交う戦場を見下ろしながら優雅に空中散歩していた。空からだと景色がよく見える、岩山地帯だった場所には巨大なクレーターができてるし。地中で核爆弾でも炸裂したみたいだ

 ……あ、横にもぶら下げられてる人たちが……自分以外に9人。手ぇ振ってる、振り替えそう。やっほー。


「ところでこれどうやって降りるんだ?」

『目標地点上空に到達。パージします。着地ダメージはありません、ご安心ください』

「もうちょっと優しく落として!?」


 願いもむなしく機体を吊るすワイヤーがバチンバチンと切り離されて、重力に引かれて機体が落下を始める。地上数百メートルからのフリーフォール、電脳空間で再現された視界であっても、急速に地面が広がっていく感覚は恐ろしいもので……


「ひぃぃぃいいいいいいぃぃぃ!!」


 周りにはひどく耳障りであろう悲鳴を上げながら、地面に砲弾めいて落下。衝撃で大量の砂埃が巻き上げられる。そして、一つ、二つ、三つ……九つ。百メートル以内の範囲で味方部隊が落下してきた。

 疑似的な飛び降り自殺体験に心臓が暴走して、周りを気にするどころじゃない。心臓が弱い人だったら今ので死ぬんじゃないだろうか。


『各機へ通達。上空のUAVより敵の位置情報を送信します。攻撃開始』


 多面端に表示されるミニマップに赤い点が10個。これが敵の位置ということだな……さあそれじゃあ戦おうか。それぞれが、それぞれの武器を携えて動き出す。言葉は無用。というかボイスチャットは使えないらしい。連携は期待できないから、お互い好き勝手に動こうね、という感じだろう。


 では、自分もそうさせてもらうとしよう。今この場所からなら射程の範囲内だ。迫撃砲を地面に立てて、照準を調整。砲弾をセットして、発射。ボヒュッ、と破裂音をさせて、砲弾が青い空へと飛びあがっていった。




 砂漠の高台で工場を狙っていた部隊。居眠りするほど暇していた彼らに、特大の目覚まし時計が鳴り響いた。突如至近に落下してきた砲弾の爆発。一度だけでなく、立て続けに二度、三度。強烈な爆風、砲弾の破片が装甲を削り、関節に負荷をかけ、決して軽くないダメージを全機が負わされた。

 激しすぎるモーニングコールに驚くのもつかの間。


「砲撃だと!? 他の地区への警戒はどうしていた!?」

「見てましたよ! でも隣接エリアからやってきた敵は一人も居ません!!」

「じゃあなんだってんだ! クソ、とりあえず移動だ! このままじゃ砲撃でやられる!」


 耳障りな怒鳴り声で状況判断と指示を出すリーダー。その直後、運営からのアナウンスが入る。


『運営からのお知らせ。特別ルールが発行されました。一定時間発砲も移動もなかったため、ゲームを円滑に進行させるために猟犬部隊が工場地帯に投下されました』

「投下……? さっきのヘリか! なんかぶら下げてたと思ったら! 飛び去って行った方向は!」

「北だ! 北から……十機!」

「2チーム分かよ!! 移動やめ! 狙撃構え! 逃げてたら工場の中から虎が出てきてケツから食われる! 相手の射程圏内に入る前にできるだけつぶしてから逃げる!」

「了解!」


 かくして。工場地帯での戦闘の第二幕が始まった。動きのちっともなかった戦場に活気が戻ってきて、観客も運営も大満足であった。


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