工場地帯 にらみ合い
工場地帯補給拠点
開始からわずか10分で工場地帯では2チームがリタイアした。それも、全員死因は格闘武器。下手人、もとい犯人はチームSAMURAI‘s、全員が格闘武器だけを装備した変わり者のチーム。
フィールドが近接機に味方したとはいえ、射撃武器を一切使わず、しかも全員ほぼ無傷。パンツァーフォーはフレームの統一だが、彼らもまた格闘武器というカテゴリで装備を統一している。これが何を意味するか。ロマンだ。パンツァーフォーは重装甲と重火力による破壊と蹂躙にロマンを見出し。サムライたちはあえて自らに不利な装備を強い、戦術と個人の技量で敵を打ち倒すことに果てしないロマンを見出している。
ロマンとはいばらの道であり、極めた先には何もない。少なくとも他人から見れば。その行為は悟りを得るための修行に似ている。修行のための修行。苦行のための苦行。しかしその過程までも楽しめる者が、果てに行き着く。そう、最強なのだ。俺は途中で折れたけど。
ほかの視聴者の皆様は口々に「あいつら変態だな」と口走っている。まあ、外野が見れば変態だ。そう言いたくなる気持ちもわかる技量だし。
「おかしいなぁー。予定じゃほかのチームぶっ殺して堂々凱旋のはずだったんだけどなぁ」
「近接格闘武器だけしか装備してないチームに完封されるとは情けない」
頷いていると、二番目に撃破されたチームが酒場に戻ってきた。彼らとて弱かったわけではあるまい。予選落ちした自分とは違って、少なくとも予選は突破しているのだし。それなりの実力はあるはずだ。
射撃武器で撃ち落とせないと理解するや、すぐに格闘武器に持ち替えた判断は正しく、振り下ろしを受け止めて二対一で仕留めようとした動きは奇襲への対応としては満点だった。武器さえ折られなければ一矢報いることもできただろう。今回は残念な結果に終わったが。次回があれば、対応策を練って今回よりも善戦してくれるだろうか。そのほうが見ていて楽しいんだけど。
「膠着状態かぁ。見ててつまんねえなあ」
楽しいといえば。やはり砲弾飛び交う激戦こそが見ていて楽しいものだけど。今スクリーンに映っているのは何とも静かな状況だ。方や補給拠点に陣取ってちっとも動かないサムライたち。方や工場から出てくるのを、スナイパーキャノンを構えてひたすら待つスナイパーたち。
工場内に居るチームは出ていけばやられるのがわかっているので絶対に出ないし、工場外にいるチームは入ればやられるのがわかっているので絶対に入らない。完全な膠着状態に陥ってしまった。もともとの静けさに拍車がかかり、おかげでこの工場地帯は今どこのエリアよりも、穏やかな雰囲気に包まれている。
他所から人が来れば即崩れるような穏やかさだけど。
俺も参加したかったなぁ、とつぶやけば。同じテーブルに座るチームメンバーがうんうんと頷く。こんなお祭りをただ見ているだけなんて寂しいなあ。
次回があれば参加したいけど。どうだろうなあ、参加できるかなぁ。
「……まったく。弾の届かないとこに引きこもりやがって。臆病な連中だぜ」
「……まったく。手の届かないとこに待ち伏せしやがって。卑怯な連中だぜ」
離れていても考えることはほぼ同じ。互いに自分の優位を崩したくないのだ。双方このままでは埒が明かないとは思いながら、しかしどうにもならない。
両者焦りばかりが募る。狙撃に適した場所というのは、よく射線が通る場所である。いつまでも同じ場所で張っていれば、別のエリアから来た部隊に発見されて、襲われる。もちろんその危険は考えられていて、工場を見張っているのは一人だけで、あとはほかの方向を警戒している。
もしも狙撃部隊に気づかずに、そのまま工場内に入って乱戦を起こしてくれれば、その中に突入し漁夫の利を得る、というのが攻めのプラン。もしも自分たちに気付けば、速攻で処理して工場内の敵に備える、というのが守りのプラン。
一方で工場内の部隊は……というかそのリーダーは、お目当ての敵が他の敵に狩られやしないかと心配で心配で、今すぐ飛び出して外の敵を切り殺してこようとするところを、隊員に止められている。距離があることはわかっている。初弾を運よく、次弾を神がかり的によけられたとしても、それ以上は幸運の女神も微笑むまい。
もしも外で戦闘が起これば、速攻で突っ込んでいき漁夫の利を得る、というのが攻めのプラン。もしも工場内に侵入してくるようなら、速攻で仕留めて漁夫の利を得ようと狙う連中をついでに返り討ちにする、というのが守りのプラン。
作戦が似通うのも仕方のないことだ。なにせそれ以外に方法がないんだし。




