第42話 オアシス地帯 後編
拠点を制圧していたチームが立ち去り、市街地に入って戦闘を開始した時点で。アヌスレイヤーとナメクジ、ガンナーの三人は静かに補給拠点に忍び込み、補給と修理を始めていた。
ナメクジとガンナーは補給だけして、アヌスレイヤーが補給と修理中に動けない間の護衛。リーダーとボンバーマンは遠くから戦場の監視と、敵が戻ってきたときの撤退支援のためにそれぞれ武器を構えていた。
「大丈夫かな」
『何が』
ガンナーの不安そうなつぶやきにリーダーが質問で返す。
「補給中に敵が戻ってきたら」
『撃ち合いしてる間は大丈夫だ。もし戻ってくるようならこっちが先に見つけて報告するから、撤退も反撃も、好きにすればいい。だが、一度狙撃を受けた場所にわざわざ戻っては来ないだろう……修理が終わるころには、あっちの戦闘もひと段落ついてるはずだ。それからは好きにしろ』
「ラジャー」
一方市街地では二つのチームが激しくぶつかり合う熱戦が繰り広げられていた。
EDFは4機が入り組んだ路地に散っては飛び出しての連続的な一撃離脱戦法で狙いを定めさせず、もう片方はメインストリートで一つの塊になって移動し続けながら、路地から出てきた相手をもぐらたたきのように集中反撃。
状況はEDF有利に見えて、その実拮抗している。お互いに少しずつ被弾が重なるが、撃墜にまでは至らない。火力で劣るEDFは正面からぶつかれば敗北する。だから手数で攻める。時折位置を交代し、攻撃頻度を調整し、全員でダメージを分散している。
「畜生め、あいつらちっとも踏み込んでこねえぞ」
路地から銃口だけ出して撃ってくるEDFに、何倍もの火力をぶつけて追い払えば。その後ろから一機飛び出してきて背中を撃たれる。振り向いて撃ち返せば、また違うところから現れて撃たれる。その繰り返し。一体何度同じ手を食らって被弾しているのか。使われる武器が20mmライフルという低威力のものだから撃破された機体こそないが、ジワジワと被弾が重なり、翻弄されて、徐々に精神的にも追い詰められている。
「敵はビビってる、押せば勝てる!」
「馬鹿な、まだ一人も倒してないんだぞ」
「いいや、弾は当たってる。だから攻め手も激しくならない」
「……一機撃破したら攻め込むぞ。こっちも厳しい」
情勢は優勢なのがわかっていながら決して欲張って踏み込んだりせず、機械のように同じ攻め方を続けるEDFに、さらに警戒心を深めるチームリーダー。警戒したところで、突破か撤退を判断する気力もすでにない。
なにせここまでの持久戦は初めてだ、経験がアテにならない。兵は神速を貴ぶ、という諺にあるとおり、一気に攻め込み、相手の態勢を突き崩して、勢いのまま蹂躙し、勝利を確かなものとするのが王道であり、持久戦は王道に持ち込み損ねた結果に起きる事態であり、つまり邪道。歓迎されるものではないから、経験も薄い。
一方邪道を戦術として扱うEDFも、堅実な防御と反撃をなかなか崩せず被弾が重なっている。一人ひとりの損害は大きくはないが、後にも戦闘が控えていることを考えれば軽視できるものでもない。
「そろそろいけるか」
「というかそろそろ仕留めないとこっちがやられる」
「よし。じゃあ狙撃たのんだ」
そしてEDFの五機目が一石を投じる。戦っていたチームのタンクが撃ち抜かれ、撃破された。40mmキャノンによる遠距離狙撃。じっくりと四機がかりで攻撃して、四機しかいないチームと錯覚させてからの一撃。
物理的にも、精神的にも、その衝撃は極めて大きい。
「全員路地へ! 5機目が居る!!」
40㎜砲弾にも一発は余裕をもって耐えられる構成の機体が、一発でやられた。今までの攻撃は、ギリギリ一発耐えられない体力まで削るためのものだったと理解した時には、もう遅かった。狙撃機がこの瞬間まで一切手を出してこなかったのは、一番の脅威を排除するためだった。
全員が路地へ飛び込んだ直後に、二度目の砲声が轟き。さらにもう一発。
「予定が崩れたな……」
「ああ、最初の判断を間違えたな。橋で一気に押し込んでおけばこんなことには……」
「もうダメだなこりゃ。リタイア決定だ、みんなお疲れ」
タンクを失い、残り三機にまで減らされたが、EDFは手を緩めるどころか、ここに来て高火力武器のロケットランチャーを解禁した。狭い路地で爆発物を立て続けに打ち込まれれば回避のしようもなく、盾となる重量機は拠点で一人、この通りで一人。二機とも撃破され。あっという間に一人追加でリタイア。弱り切ったところに集中砲火を受けて、あっさりと撃破された。
だがEDFも被害がなかったわけではない。さっきまでは五機編成のチームだったのが、彼らのチームの反応は四つしか存在しない。残る一機は、ついさきほど撃破されてしまった。
「リーダーがやられた。当初の予定通り、サブリーダーの俺が指揮を執る」
敵チームのタンクを排除した後に聞こえたのは、ネストのリーダーが撃ち込んだ砲弾だった。EDFのリーダーが二度発砲した時点でネストのリーダーが位置を把握し、狙撃で排除した。
ギリギリまで位置を隠し通し、必要な時に一発だけ撃ち込んで。そこまではよかったのだが、欲張って二発目を撃ち込んだのは間違いだった。一発撃った時点で移動していれば、五人そろって次の戦いに備えられたはずだったのに。
「では戦闘を続行するかどうか。君らの意見を求む」
「銃声からして敵は狙撃機だ。我々の装備では届かないから戦いようがない。エリア移動を提案する」
静かに腕が三本上がる。
「賛成三票。可決。ではどこへ移動する」
「……工場は今閉鎖のアナウンスが入った。残るは一つだな」
「砂漠を通って旧市街へ移動する。それしかないが、敵の追撃を受ける可能性もあるな」
「工場地帯の爆発に合わせて移動すれば狙撃を受けずに済むはずだ。爆風で狙いが逸れるはず」
「じゃあそれで」
「この戦い、勝てますかねえ」
「まだ一人やられただけだ。挽回はいくらでも効く。まあ負けても損はないし、気負わず行こう」
オアシス地帯 閉鎖予告。残り10分で封鎖します。




