第40話 補給拠点強襲
岩山地帯、補給拠点。開始五分の時点で、このエリア最後のチームがここを占拠した。
四方を有刺鉄線付きのフェンスで囲み、出入り口は正面のみ。見通しはよく、中からも外からも敵の様子がよく見える。そして三方を切り立った岩山がふさぎ、守りやすく、攻めにくい理想的な防御拠点となっている。
ここを占拠した彼らの取った陣形は、盾持ち二人を前に出し、時間を稼ぐ間に後ろに40㎜キャノン持ちが致命的な一撃を加え、残る二人が侵入を目論む敵を妨害・迎撃する。典型的な防御陣形。
予選では火力重視の敵を相手に、盾持ちが時間を稼いでいる間にうまく敵を貫いて勝利した。機動力重視の相手でもきっとうまくやれるだろう。
少々のダメージは拠点内で回復できるし、弾の補給もできるから節約の必要もない。きっとうまくいく。完璧な布陣だ。
相手が戦車隊でなければ完ぺきだった。腹をすかせた獰猛なタンクも群れが拠点に押し寄せてきたのは、開始から15分ほどたった頃だった。
「敵しゅ」
「一人やられた! うっ」
40㎜キャノンも一発なら耐えられる、シールドを持った重装甲型機体2機が時間を稼ぐ手筈が。二人ともレーザーキャノンに撃ち抜かれて即死。狙撃機が無防備となる。そこへ突撃、横並びで前進する戦車部隊。
インターセプトに出るのは中量機二機。
防衛側に油断はなかった。盾が一枚抜かれてももう一枚が時間を稼ぎ、二枚抜かれるころには敵を全滅、ないし重大なダメージを与えられるはずだったのだ。
長期戦になるのがわかっていて、ただでさえバッテリーの消費が激しいレーザーキャノンを二本も持ち込む馬鹿が居るなど。一体誰が予想できただろう。
「ヌゥぁぁぁ!」
「行くぞぉぁぁあ!」
インターセプトに出た機体はロケットを一斉に発射してパージ。軽量化。何倍もの火力を相手に無謀とも思える突撃を行う。手持ちの火器は通らないのがわかっているのでブレードだけ残してあとは捨ててさらに軽量化。ブーストダッシュ、一気に距離を詰めて切り殺しにかかる。
だが、真正面からの突撃では刃を届けることはできない。ガトリングの弾幕に腕ごとへし折られるだろう……それでもいいのだ。そうするしかないのだ。防御陣地は逃げ場のない袋小路となり、下がれば本命の40㎜キャノンが本当に無防備になる。退路はない、死地とわかっていても進むしかない。
高速移動中にも弾幕は容赦なく機体を削る、後方にも弾丸は飛んでいくが、狙ったものではない流れ弾。狙撃機には当たらず、狙いすました本命の一撃がタンクを直撃。分厚い装甲を貫いて、一機沈黙。次弾装填。熱を持った巨大な薬きょうが排出され、地面に落ちるよりも早く、前衛二人は限界に達した。切っ先は敵に届くことなく、機体はボロボロのスクラップになり、タンクの足元に転がった。タンクはそれを踏み潰……すことはなく、急ブレーキで足を止めて、最後の一機に集中砲火を浴びせて。決着がついた。
「ふぅ……損害は」
「3番機ロスト。2番と4番が少し損傷。思ったより激しい抵抗でしたね」
やられたのはガトリング餅。ロケットの集中攻撃を受けてダメージが重なったところへ、40㎜キャノンが直撃し、撃破された。残りはロケットの爆風に巻き込まれての損傷。
「残念だ。まだまだ打ち足りなかっただろうに……だが犠牲を悲しむ暇はない。交代で補給を済ませろ。すぐに次が来る。弾がないと戦えんからな」
「うっす」
キュラキュラキュラ。履帯が回り、土煙を上げながら戦車部隊は補給拠点への入場を済ませ、補給を開始した。
一方そのころチームNESTは。
「戦闘が終わったらしいな。銃声が止んだ」
「あれだけ派手に撃ちまくってれば弾も尽きただろう。襲うなら今がチャンスだが、どうするリーダー」
「……混戦に持ち込む予定だったんだがな。思ったより早く終わっちまったか」
どうしようかと考えるリーダーと。突っ込みたそうにうずうずしているアヌスレイヤー。
「早く指示を。でないと今すぐ突っ込むぞ」
「ナメクジにナニを突っ込むだってぇ!?」
「言ってねえよ」
「……早く動かないと機会を逃すぞ」
「……10秒くれ。考える」
そしてやってくる沈黙。10秒では短いのではないか。しかし、それ以上待てば補給が完了してしまうので、それ以上考えても出なければアイツらはあきらめてほかのエリアに、ということになるが。
「ボンバーマン、前方300mに迫撃砲。スモーク3発。以降は炸裂弾。アヌスレイヤーは突撃。無理に全滅はさせなくていい。他は待機。よし行け!」
「了解」
鉄砲玉再びというわけだ。後方で発射音が三度。その間に道路をローラーダッシュで走り抜ける。敵の拠点とはそれほど離れていない、すぐに煙に包まれた敵の拠点が見えた。
ブーストジャンプ。大きく跳躍して、正面入り口を文字通りに「飛び」越える。
『炸裂弾いくぞ。巻き込まれるなよ』
ボン、ボン。煙の中で爆発が起こるが、あえてその中へ突っ込む。煙で敵が見えない? 相手もそれは同じことだし、こっちからすれば周りは敵なんだから目に入ったやつを片っ端から襲えばいいので気が楽だ。なにせ間違えて味方を襲う危険がない。
―――煙の中へ飛び込んで間もなく。爆発が起きた場所だけは晴れている。爆風で煙が吹き飛ばされたのだ。煙が晴れた中に、敵を補足した。敵もアヌスレイヤーを補足した。
相手はレーザータンク。最初の煙幕が張られた時点でチャージを開始し、待ち構えていたのだ。最悪なことに銃口の角度もピタリと合わせられ、あとは解放するだけで死ぬだろう。
青白い閃光が放たれ、アヌスレイヤーはここで脱落するのか。そう思われた瞬間に、迫撃砲弾がタンクの至近距離に着弾。衝撃と爆風で狙いがわずかに逸れ、レーザーは機体のすぐ横を通過。
第二射が狙いを修正して撃たれるよりも早く、ブースト。振りかぶった杭が、正方形の追加装甲をいくつも貼りつけたレーザータンクに命中。杭が撃ち込まれると同時に、二機は爆風に包まれた。
「!?」
鳴り響くアラート。衝撃が装甲内で反響して、一瞬前後不覚に陥るが即復帰。考えるよりも早く、経験が体を、機体を動かした。損傷の確認もせずに、真っ先に離脱を選択した。
180度反転、再びブースト。煙に包まれた拠点を離脱して、着地後にもう一度ブーストを使って高速離脱。節約よりも安全を優先した結果、それ以上の損傷を受けることなく撤退に成功。無事仲間と合流した。
「どうした変態。黒ペンキで塗装しなおしたか」
「支援砲撃が直撃したか? スマン」
「……ふぅ。いや。砲撃のおかげで助かったんだが。たぶん爆発反応装甲だ……ぶち抜いた瞬間に爆発してな。おかげで一機しか食えなかった」
そういえばそんなパーツもあったな、というくらい戦場で目にすることのない装備。実際に遭遇したのは今日が初めてだ。手痛いカウンターをくらってしまった。
息を整えて損傷を確認。右腕、損傷中度。頭部カメラ損傷。胴体と足は無事。映像にノイズとひび割れが入ってる、これじゃ少し戦いにくい。
「戦闘続行は?」
「一戦なら補給なしでも。それ以上はバッテリーが厳しい。修理もできたらしたいな」
「了解。今ちょうどエリア封鎖のアナウンスが入ったし、オアシスに行こう。戦闘中の部隊を排除して補給と修理を行う。次の戦闘はアヌスレイヤー以外の四人でやるぞ。けが人は少し休んでろ。いいな」
「いいとも。好きにしてくれ」
方針再決定、移動を開始。
……煙が晴れたらそこは焼け野原だった。砲撃で補給物資は吹き飛ばされ、リーダー機は風穴をあけられて。残る三機のタンクは、装甲が煤で黒く汚れていた。
「煙と爆撃で混乱してたところをパイルで一発か。恐ろしいな」
「パイルバンカーか。一番出会いたくなかった奴だな……」
「近接対策の反応装甲だったが。ビビらせて追い払う爆竹程度の効果しかなかったってことだな。こわいこわい」
「追い払えただけいいだろ。下手すりゃ全滅もあり得た」
実際、タンクというのは懐に入られると脆い。防御力と火力は最高レベルだが、格闘機の間合いに入ってしまえば退避もできず、基本なすすべなく狩られることになる。だからこそ重火器でもって敵を接近する前に破壊してしまうのだが。アヌスレイヤーは支援を受けて突破してのけた。爆発反応装甲による予想外の損傷がなければあと一人、二人は追加で食べていっただろう。
「残ってるのが補給済みのメンバーなのが不幸中の幸いだな。で、これからどうする。エリア封鎖のアナウンスがあったからもうここには居られないぞ」
「オアシスか、旧市街。どっちに行く」
「有利に動けるのは旧市街だな。背の高い建物がない分戦いやすい」
「じゃあそっちで決定。もしさっき襲ってきた奴が居たら、ついでにカタキも討てるぞ」
パンツァーフォー、移動開始。
岩山地帯、脱落チーム2。残存チームの脱落者、パンツァーフォー、2名。NEST
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