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第39話 岩山地帯 チーム・パンツァーフォー

 参加者になれなかった男たち、女たちが集まる酒場。天井にはチームの数だけモニターがぶら下がっていて、みんなで楽しくビール片手におしゃべりしながらモニターを眺めている。ああしろこうしろと映像の中の戦士たちに向けて文句を言っている人もいるが、甲子園を観戦して監督気分になっている父親や祖父を思い出す。おっさん臭いというか年より臭いというか、そんな感じがするからやめてほしい。

 ……そして今、モニターが一つ砂嵐になって消えた。


「たった今、最初の敗退チームが決定しました。チームEND-E。対戦相手のチームNESTは損害なしです。お疲れさまでした」


 天井スピーカーからログボちゃんの棒読みのアナウンスが流れ、バニー姿のログボちゃんが恭しく頭を垂れて敗退チームを出迎える。

 酒場のドアを力なく開けて入場……退場してきた彼らはひどく落ち込んでいるようだった。それを眺めて笑う連中も居れば、ねぎらうように酒をかける連中も居る。それは普通に嫌がらせだからやめたほうがいいと思うぞ。

 ……落ち込んでいるのは当然。彼らも今日この日のためにしっかりと準備をしてきたのだ。アリの群れをさばいて、プレイヤーをしばいて金を稼ぎ、装備を更新し。銃弾を山ほどバラまいて敵のスクラップの山を築き、華々しい勝利を飾るつもりでいた。それがいざ本番を迎えてみれば弾を一発も撃たせてもらえずにリタイアだ。


 予選を本気で戦って、負けた俺たちから見れば、なんとも情けない。もっと頑張れよというか。予選突破していい気になってたらボッコボコにされて今どんな気持ち? ねえ今どんな気持ち? とあおりたくなるというか。

 まあ出費が少なく済んでよかったんじゃないか?


「ログボちゃんおかわりー」

「はい。ただいま」


 まあ、参加資格さえ得られなかった奴が何言ってんだかな。さて、負けたやつより次の戦いを見ようかね。ちょうど同じ岩山地帯で戦ってるチームもいるみたいだし。

 席を動こう。


「あれ、お客さまー? お客さまどこですかー? 注文のビールをお持ちしましたよー」



「Ураааааааа!!!!」

「Ураааааааа!!!!」

「Ураааааааа!!!!」

「Ураааааааа!!!!」

「Ураааааааа!!!!」

「アバーーー!」

「グワーーー!」

「アイエェェ!」


赤地の長方形の土台に黄色い鎌とハンマーを合わせた、某亡国の国旗をエンブレムにした5機10門、計80発による、直撃すれば即死級の威力を持つロケット攻撃が、一機ずつタイミングをずらして毎秒8発のペースを維持して撃ち込まれ、撃ち尽くせばこれまた車体部分に格納された予備弾装によりなリロードを実行。10秒後にロケット弾が再装填される頃には一巡し、再度爆撃を実行可能になる。この手法による苛烈なる爆撃はかれこれ1分以上続いている。コワイ。

 そして勇猛な精神が表面化したかの如く赤熱した砲口を回転させる30mmガトリング砲の壮麗かつ力強い斉射は決して途切れることがなく、弾切れで片方途切れたとしてもタンクの車体部分に格納している予備弾倉を即座に装填し、数秒後には攻撃を再開する。コワイ。

 ある機体はタンクの積載量にモノを言わせて大型バッテリーを複数と発電機を一基搭載。レーザーキャノンを2本持って交互に発射。バッテリーが切れれば即座に予備バッテリーに接続し、射撃を再開。2本持ちにより冷却時間をカバーして連射が可能になるのだ。なんと知的にして有効的な装備構成だろう。レーザーの着弾した岩は超高熱により溶けている。コワイ。

 また別の機体は、即死級の威力こそないが、ロケットよりも加害範囲の広い榴弾(爆発物)をマシンガンめいて吐き出す最重量級武器、グレネードマシンガンを2本持ち、遮蔽物に隠れている敵にも着実かつ堅実にダメージを蓄積。もちろん予備弾倉を装備している。そこへ射程距離と貫通力に優れる40㎜キャノンも加わって、その火力投入量は機械化歩兵の枠を超え、戦車部隊に匹敵する! スゴクコワイ!


「わはははっはは! あいつら馬鹿だ! 大馬鹿野郎だ! なんだよ5人全員タンクって勝てるわけねえだろ!」

「そっすねー。まじねーわー。先手とったのに一人も倒せず三人やられるとかホントないわー」


 さっきから弾丸を嵐のように撃ちまくっているのが、チーム名、パンツァーフォー。全員がタンク足に重装甲フレームという狂気じみた編成。そう、戦車部隊に匹敵するというのは誤りであり、彼らは実際に戦車部隊なのだ。小細工なしに圧倒的火力を叩きつけ、小細工の通じない圧倒的装甲により前進し、圧倒的戦力を以て相手を真正面から踏み潰し、磨り潰して殲滅するのが彼らの戦闘スタイル。彼らが通った跡にはぺんぺん草一つ生えない焼け野原と化す。先の雄たけびといい実にソ連らしい。チーム名はドイツ語だけど。


岩山に隠れた二人は敵対チームの圧倒的火力による制圧射撃で完全に動きを封じられている。反撃のために腕を出せば、その腕が一瞬で消滅するレベルの弾幕だ。そして隠れている岩山も、そのバカげた火力のせいでゴリゴリと削り取られている。おまけにジワジワと距離を縮められている。二人は近接武器を持っていなければタンクに通じる火器も持っていない。不運なことに、彼らのチームの火力担当メンバーは真っ先に始末された。

運がいいところを挙げるならば、ここが岩山地帯であったことだ。もしも市街地で遭遇していたならとっくに建物ごと穴あきチーズにされていただろう。

 

 彼らも最初から二人だったわけではない。もともとは五人編成のチームだった。彼らは決して弱かったわけではない。純粋に相性が悪かった。

 先に見つけて、先に攻撃を仕掛けたのは、今は二人の彼らのチーム。

 しかし機動力を優先したチームだったため瞬間火力が足りず、一機も撃破することなく苛烈な反撃にあい敗走。反撃で二人、逃げる最中に一人やられて、せめて一矢報いようと健気に踏ん張っているのが現状だ。そしてこのままいけば順当にすりつぶされて終わる。

 哀れ。


「どうする! このままじゃやられるのを待つだけだぞ!」

「どーしよーもないっしょ。こっちは満身創痍の二人だけ。あっちはフルメンで大した損害もなし。どう考えても勝ち目はなし。降参しないならおとなしく逃げるか玉砕かの二択っすよ。どーしましょー。あ、大穴で共闘を申し出るってのも」

「……逃げられると思うか?」

「庭を掘ったら金銀財宝ざっくざくってくらいに運が良ければ」

「共闘ってのは」

「子猫がピアノの上で遊んでて、一曲ノーミスで弾いちゃうくらいの成功率ですかね」

「勝ち目は?」

「ネズミ一匹がライオンに勝つくらいの確立で」

「……左右から同時に出るぞ。可能なら生き残って、また会おう」

「アイアイサー」


 果たして彼らは、パンツァーフォーの猛攻をかいくぐり無事逃げられるのか。別の獲物を狩りに行けるのだろうか! 二人は全く同じタイミングでブースターを点火! 全く同じタイミングで岩の左右から飛び出した! この勇猛な判断は吉と出るか凶と出るか!

 しかし片方は濃密な砲火に絡めとられ、被弾し、衝撃でコントロールを乱した機体は羽を毟られた虫のように地に落ちた。飛び出した勢いがなくなるまでゴロゴロと地面を転がっていき、そこへ追い打ちの銃撃砲撃爆撃が飛んでくる。明らかにオーバーキル(やりすぎ)。攻撃が止んだ頃にはスクラップどころか欠片も残らない。残るものが無いと書いて無残と読むが、まさにその通りだ。

 しかし片割れは被弾することなく違う岩に隠れることに成功していた。


「……一人残っても仕方ないっすねー」


 両手に持った20㎜ライフルを構えて飛び出し、発砲。

 チュイン、チュン、ガキン。

 無慈悲な装甲の厚みである。そして無慈悲な銃口の数々が彼を捉え、一斉に火を噴いた。



「えー。ただいま開始十分も経過しておりませんが。岩山地帯ではなんと2チームが敗退。なんとスピード感ある戦いでしょうか。これは思ったよりも早くエリア閉鎖の時間が来そうです」


 酒場では天井からログボちゃんの棒読み実況が流れ。バニー姿のログボちゃんが恭しく頭を垂れて敗退チームを出迎える。どのログボちゃんが実況してるのかと探せば、一人だけ普段の厚手のジャケット姿のログボちゃんがマイクを握っていた。


「オアシス、旧市街では戦闘が続いていますが、脱落チームはなし。工場地帯では……今1チームが脱落しました。敗北者の皆様お疲れさまでした」


 さて。このイベントは何分で決着がつくだろう。向こうではどこが勝つか賭けをしているし、俺も混ざろうかな。敗者にすらなれなかった俺たちだが、俺たちなりに楽しませてもらおう。



もっと共産的な文章を書きたい。

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