岩山地帯 チームNEST
モニュメントバレーを縮小したような、いくつもの岩山が密集し、入り組んだフィールドのビュート地形。そして背後には地雷原の表示。
「トンネルを抜けると。そこは岩山そびえたつ荒野だった」
「雪国じゃねーのかよ」
「ここが雪国に見えるなら、画像処理がエラーを起こしてる。ログアウトしてグラボを交換するべきだな」
「ツッコミにまじめに返すな、大人げない」
装甲車から放り出された場所は岩山地帯。その隅っこ。フィールドの角。ナメクジ君のツッコミを華麗にかわして状況を確認する。武器を構え、視界に映る中に敵影がないかを目を皿のようにして探すのだ。
いきなり先手を取られて、一発も撃たずにリタイアなんてなったらおもしろくないからな。警戒は厳に行うべし。
「スタート地点は岩山か。全体マップだと南東……の、さらに端っこ」
「周りが岩だらけだから、射線は通らない。いきなり敵に見つかってしょっぱなリタイアってことはないからひとまず安心していいか」
「そうだな。後方以外全部警戒。動くものがあれば備えろ。音がしてもだ。アヌスレイヤー級の格闘使いが居たらこの場所は絶好の狩場だからな」
「アイサー」
ボンバーマンが自分たちの位置を確認し、周囲を確認し終えたガンナーにリーダーが釘を刺す。リーダーの言うことには一理ある。射撃機ならともかく、格闘機に先手を取られるのはほとんど死を意味する。射線が通ってないといっても安心はできない。むしろ格闘機には距離を詰めるのに最高の場所だからこそ、余計に気をつけねばならないのだ。
「それでリーダー。どう動く?」
「どうとは?」
「方針とかいろいろ。会議する暇はなかったからな」
「一応方針としては……ある。具体的にどう動くかはこれから決める……うん。方針は弾薬は惜しまず、命は惜しむ。弾は補給できるがメンバーは補給できないからな。で、行動は…………決めた。アヌスレイヤーとナメクジは岩山を登って索敵。敵を見つけたら位置を報告、そのあと指示があるまで待機。残りは索敵情報を元に狩りを行う。これでいこう」
「もし敵が同じ考えを持って、ロッククライミングをしてたら?」
「そのときの判断はまかせる。だが不利になったらすぐに撤退すること。序盤も序盤、欠員が出たらあとに響く。優勝までは望まなくても、できるだけ長く楽しまないとな」
「了解。ところであの岩は登れるのか?」
「ビルの壁だって登れるんだ。岩だっていけるだろ」
というわけで二部隊に別れ、リーダーとガンナー、ボンバーマンの重装備組は下を進軍。残り二人は比較的軽装備組は別行動、索敵のためにローラーで高速移動、さらに速やかに山登りを実行するため、ブーストで山を登る。
機体の足を岩壁につけ、ローラーを回転させつつブースターで重力に抗って機体を押し上げる。それを真似してナメクジ君も。なんと一度で登頂に成功する。
「……ほんとにできるとは」
「一回でやれるなんてすごいじゃないか。見直したぞナメクジ君」
「ありがとう。いや別にうれしくはないんだが」
岩山の頂点は平坦で、アクセス経路さえ確保できればこの上に駐車場付きのコンビニを作ることだってできそうだ。こんなところにコンビニ作っても客がいないからマッハで閉店しそうだけど。そもそも核戦争後の世界だからコンビニの会社も消滅してるという考えは野暮だし、そのくらい広いという例えでしかないので。
ともかく。やるべきことをやる。仕事はキッチリこなすべし、だ。
「周りの岩に敵は?」
「居ない。岩登りみたいな馬鹿な真似するのは俺たちだけみたいだ」
「お前の兄さんだよ」
「……恥だな。お前に傘を渡されたのと同じくらいの恥だ」
「そこまでの恥じゃないな。で、下には」
「見える範囲に1チーム。タンク1、スナ1、重2が3機。重2は全員盾持ち。こっちに向かってるが、俺達には気づいていない」
「先に見つけたと。気付かれてたらスナの銃口がこっちを向いてるはずだしな」
敵がブースターの音に釣られてやってきた、ということだ。探し回る手間が省けた。ナメクジ君がリーダーに敵の所在を報告し、返事を待つ間に、見える範囲に補給拠点がないかを探す。
……見える範囲にはない。岩山の間に隠されているということだ。かなり遠くに敵影も見えたが、すぐに見失った。視線を遮る巨大な岩山が邪魔だな。高所に居ても見通しが悪い。
「こちらリーダー。待ち伏せで一機仕留めて、ガンナーの制圧射撃で動きを封じる。アヌスレイヤーとナメクジは上から急襲して一気に仕留めてくれ。やり方は任せる」
「了解」
「了解」
一言返事をしたら、あとは機を待つことにする。敵の名誉のために言っておくが、動きは決して素人のものではない。タンクを前に出て盾となり、さらにスナイパーを囲むように重装甲の機が三機、ひし形のフォーメーションを常に保ち、上を除く全方位を警戒しながら移動を続けている。
装甲で攻撃を受け止め、重量機の火力で応戦している間、安全な中央からスナイパーが致命的な一撃を差し込む。たぶんそういう戦術なんだろう。何度かそういう敵を食ってきたからわかる。
「着地にスモークは必要か?」
「二人で突っ込めば必要ないな」
「OK、やろう」
作戦会議終了。ガオン、と下から甲高い砲声が開戦のゴングめいて鳴り響き、歓声の代わりにガトリングの発砲音が湧き上がる。ガトリング2本によって作り出される弾幕は、一瞬にして反撃の選択肢を奪う。盾を持っていてものんびり射線上にとどまっていれば、盾だけを残して、ほかの部分の一切合切を砲弾の嵐に引きちぎられてスクラップだからな。
だから隠れて射撃が途切れるのを待つか、回り込むかの二択を強いられるのだが。ほんとガトリングの制圧力は強いな。重量武器だし、機体重量がないと反動をコントロールできないのは欠点だが、それほど困るものでもない。さすが、射撃武器のロマン枠はやる。
「タンク撃破。残りはそっちに隠れた。出番だぞ変態」
「着地で一機。そのあと左をやる」
「じゃあ残りは俺が」
敵チームが抑え込まれたのは、自分たちの潜む岩山の真下。ナメクジ君と二人で同時に崖を飛び降りて紐なしバンジージャンプを楽しんで……クッションになるのは哀れな敵機。100メートル近い高さから垂直落下、位置エネルギーを運動エネルギーに変換した重量1tを超える鉄塊が、同じような姿をした敵機を頭から踏みつぶす。撃墜。その隣でナメクジ君が脳天から股下まで縦一文字に敵機を切り裂いて着地。撃墜。
「!?」
残り二人の片割れを貫き殺すべく、方向転換。残り一人はナメクジくんの獲物だからそっちは任せる。
彼我の距離はわずか数歩。しかし射程圏には一歩遠い。その一歩を詰める一瞬で振り向かれ、盾を押し出される。
仲間が死んですぐ盾を真っ先にこちらへ突き出したのはいい反応だし、正しい判断だ。相手が射撃機か。格闘用のブレードが一本だけなら、それで生き永らえただろう。逆転の目もあったかもしれない。
でも残念ながらパイルバンカーだ。
真正面。構えられた盾に対して垂直にパイルを叩きつけて、踏み込み。前進の勢いで押し込んで、トリガー。稲妻を纏う極太の鉄杭が火薬の力で射出され、分厚い複合装甲の板を容易く貫き、衝撃が盾を押し返し、その向こうの本体まで杭が到達。その装甲までも食い破り、中身を射殺した。
ほぼ同時に、ナメクジ君がブレードを投擲して相手の盾に刺して無力化、銃を持つ手をシールドバッシュで弾いて崩して盾の裏に隠したレーザーブレードで胴体を焼き切ってフィニッシュ。見事なワザマエ。
「敵全滅! 損害なし!」
「損害なし。初戦は順調だな。合流する」
「二人とも見事だった。けど、一発も撃たせずに終わったのは相手に悪かったか?」
「舐めプはもっと失礼だぞ。第一、敵も感謝してるだろ。無駄弾を撃たずに済んだんだから出費も少ない」
「……それもそうだな! 合流次第移動するぞ。他所ももう戦争を始めてるみたいだからな、祭りに飛び入り参加といこう」
こちらの戦闘終了と同時に、敵影が見えていた方向から銃声が聞こえてくる。響く銃声は、遠くにいても戦闘の苛烈さがわかるほどに密で、賑やかに鳴り続けて途切れることがない。花火大会でもやってるのか、というほどだ。
花火のように平和なものではないが、同じくらい、あるいはそれ以上に楽しいものだ。リーダーの祭りという例えは素晴らしく的を射ている。
こんなお祭り騒ぎに参加しないなんて、どうかしてるぜ。




