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第36話 The Rust【開会式】

あとがきにナメクジくんのサービスカットがあります(新鮮なファンアートです

わいわい。がやがや。

 ゲーム内空間では数少ない、ビアホールのような広い建物に多くのプレイヤーが席を寄せている。それぞれのテーブルで、それぞれが無料の酒(バーチャル空間なので酔わない。ウォッカみたいな味だけ)と、ごく一部の物好きが合成食糧(ゲロマズ。よく冷えたゲロの味)を手に会話に花を咲かせている。酒が足りなくなったテーブルに呼ばれ、十人くらい、運営からのサービスなのか、バニースーツ姿のログボちゃんがフロアを忙しく駆け回っている。


 燃え尽きた灰のように白い肌と同じ白バニースーツに、宝石じみた赤い瞳のつるんでぺたんな白ウサギ美少女。スーツが肌とほぼ同色で体にぴったりなデザインをしているせいで一瞬裸と見間違えるほどのクオリティ。もちろん18歳以下の未成年も遊べる健全なゲームなので裸ではない。胸の頂点部分は隙間なくしっかり隠されていて、肌に密着し捲れる気配はない。下半身は足の付け根からつま先までタイツでしっかりと覆い隠されていて、『ちょっと』ボディーラインが強調されているだけで肌の露出はほぼない。かわいらしいヒップだってちゃんと布で覆い隠されているから健全。ちょっと生地が薄いのと、ぴったり体にフィットしているせいで浮き出たアバラがくっきり見えたりもするけど。よく見たら食い込みできわどいところにシワができてるけど健全。

バニーはもっとボンキュッボンなグラマスなねーちゃんのほうが似合うとは思うが、しかしこれはこれで……うむうむ。悪くないどころか、かなりイイ。運営はロリコンを増やそうとしているのだろうか? イベントのあとでログボちゃんのバニー衣装とか課金コンテンツで配信したりする腹積もりだったりするのだろうか? そうなればさらに課金せざるを得ないな。


 それはともかく。ゲーム中での設定は、アリの群れを追い返した褒美としてのお祭り騒ぎ。もちろん本当の事情は違う。祭りという趣旨は違わないが、ここに居るのは大型PvPイベントの観戦者と参戦者。天井から吊り下げられたモニターは、今は電源も入っておらず、何も映していないが、戦いが始まればあそこに参加者の雄姿が映し出されるのだろう。

 当然、わが相棒、パイルバンカーが大活躍する姿も。さすればこのイベント後の戦場にパイルユーザーが溢れかえるはず。


『お前から見て10時方向。5メートル先のテーブルに座ってる』


 そんな妄想にふけっていると、チームチャットでショートメッセージが送られてきた。視界の中にぴこんぴこんと点滅するマーカーが表示される。

 人込みとログボちゃんをよけて到達する。自分以外のメンバーが全員椅子に座って待っていた。


「おはよう。ちゃんと間に合ったようで何より」

「イベント開始5分前。ナメクジ君が寝てるんじゃないかって心配してたぞ」

「してねえよ。俺が心配したのは不戦敗だよ。それに作戦装備の確認だって時間が必要だろ。大丈夫なのかよ」

「心配するな。昨日の夜済ませておいたから。情報もチーム用掲示板に投稿されてたのを見たから大丈夫……せっかくガンナーが集めてくれたんだから、しっかり暗記した。頭に焼き付けてある。情報収集お疲れ様」


 今日のログボちゃんの姿と同じくらいしっかりと思い出せる。たとえ戦闘中でも。対応に迷うことは奇襲を受けない限りはない。

 とても密度の濃い情報だった、取材をしてくれたガンナーくんにはちゃんと労いの言葉をかけておかねばならない。


「チームのためだからな。これくらいどうってことない」

「この情報はきっと俺たちの勝利につながる。よくやってくれた」


 照れ隠しにそっぽを向くガンナーの肩を、リーダーがやさしく叩く。ガスマスクの下はきっと優しいほほえみを浮かべているのだろう。ユウジョウ!


「まあ俺たちの情報もしっかり流れてるから、対策はされるだろうな。特にアヌスレイヤー」

「なんで?」

「そりゃあ、前回のイベントで一人だけ蟻の群れの中に突入して大暴れして、しかも生還なんてしたら話題にもなる。おまけに……気を悪くしないでほしいんだが、特にパイル使いなんて数が少ないからな」

「これから増えるから……これから増えるから……」


 だから大丈夫。ダメージなんて受けてない。


「ネストはそのパイルユーザーが所属してるチームってことでな。誠に遺憾ながら、変態の巣とか言われたりしてた。ネストだけに」

「誰が変態だぶっ殺すぞ!」

「ナメクジくぅん。お兄さんあんまり大声でそういうこと言うのよくないと思うなー。気持ちはわかるけど」

「コイツみたいなのと一緒にされて怒らずにいられるかっ! がるるるるる」


 変態扱いはかなしいなぁ……いくら中身がJKと分かっていても悲しいなぁ。罵られて喜ぶ趣味はないんだよなぁ。パイルで敵の尻を抉る趣味はあるけど。

 JKの尻をぶっとい杭で抉ると書くと犯罪の香りがプンプンするが、ロボット大戦ゲームの試合中の話だ。何も、問題はない。


「どうどう……落ち着けって」

「ああ……もうこのイライラは敵にぶつけるしかねえな」

「そうそう。その意気だ。がんばれー」


 そんな感じでキャンキャン小型犬のように叫ぶナメクジ君を適当になだめつつ、自分はログボちゃんを視線で追うのです。俺はロリコンじゃないからな。ちゃんと成熟した女性が好みですー。

 ナメクジくん? かわいいけど完全にアウトオブ眼中。最初のファンメールがボディーブローのようにじわじわと、今になっても尾を引き続けているせいだな。でもおかげで良好な友人関係を築けているのでヨシ。


「……みんな。イベントの開始時刻だ」

「んー、ほんとだ」


 天井のモニターに光が灯り、少ししてイベント用フィールドらしい場所の映像が映し出される。砂漠、オアシス、工場地帯、荒地、砂に埋まった街。十秒ごとに切り替わる映像は、公式ページで見たものよりも鮮明に見える。


『ザ……ザ…スト……マイ……マイクテストマイクテスト。よし。みなさま、本日はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます』


 天井のスピーカーからログボちゃんの声。同時に酒場の喧騒の音量が急激に小さくなり、ささやき声程度にしか聞こえなくなる。

イベント開催の挨拶だろう。どこでしゃべっているのかと見まわしても、ここにはウェイトレスのログボちゃんしか居ない。


『自己紹介は、皆様わたくしのことはよくご存じのはずですので省略。それでは今回のイベント、The Rustのルールを説明いたします。ウィンドウを開いてご確認ください。

 今回のイベント本戦の参加チーム数は20。登録人数100名中、98名が参加。2名が欠席。予選を勝ち抜いた精鋭の皆様には、今回イベント特設ステージで殺し合いをしていただき、勝ち残った1チームが優勝となります。優勝チームには後日報酬が送られます。報酬については告知内容に書いてある通りです。

 次にログアウトについて。イベント開始後のログアウトは棄権扱いとなり、イベントへの再参加は不可となります。説明にはもうしばらくかかりますので、お手洗いがまだの方は急いで済ませてきてください。ルールはイベント中も確認できます。

 次。このイベントは乱戦かつ長期戦になるため、弾薬の消耗が激しくなります。終盤になりバッテリー切れで勝敗が決定、弾切れで棄権など地味な展開にならないよう、各エリアに一つずつ破壊可能な補給拠点が設置されています。探し出して有効活用してください。バッテリー充電、弾薬補給、時間はかかりますが修理も可能です。設備が破壊されていなければ何度でも使用可能です。

 また、補給物資が30分に一度、残るエリアに一個ずつ投下されます。こちらは弾薬の補給が、一回のみ可能です。

 撃墜された機体の扱いについて。破壊可能オブジェクトとしてその場に残ります。装備していた武器が同じであり、壊れていなければ残弾を奪い取ることもできます。なお、爆発物を使用して撃墜すると100%武器も壊れます。

 ゲームの進行に伴い、各エリアに生存するチームの数が一定以下になると、時限核地雷が起動し十分後にそのエリアが消滅します。エリア内にとどまっているチームももれなく消滅しますのでご注意ください。

 以上でルール説明を終了します…………参加チームの皆様はホール奥の扉を潜ってください……ゲホッ。長くしゃべると疲れますねぇ』


 ウェイトレスのログボちゃんに促され、席を立つ。追い立てられるようにそれぞれのチームが奥の扉を潜っていき。やがて自分たちのチームも……扉の先には装甲付き輸送車両(お迎え)が待機しており順番に乗り込んでいく。


「それでは皆様。ご武運を」


 圧倒的棒読みを最後に、装甲車のドアが閉じられ。キャビンの中にチーム5人とそれぞれの愛機を積んだ車が走り出す。今回も楽しい戦いになるだろうな。今の気持ちを言葉にするなら、胸が躍る、ワクワクする、そんな感じだ。


挿絵(By みてみん)

ツイッターの体液が酒さんよりいただいたファンアートでございます。ありがとうございました。

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