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第36話 イベント予選

今日はイベント前のイベント、本戦への出場チームを決定する予選会です。張り切ってぶっ殺したりぶっ殺されたりしましょう。


「点呼―、ナメクジ」

「はーい」

「アヌスレイヤー」

「もうちょっとカッコイイ呼び方ないのか?」

「考えておく。ボンバーマン」

「準備万全。いけるぞ」

「ガンナー」

「今日こそはいいとこ見せたいもんだな」


 チームメンバー勢ぞろい。アバターも装備もバラバラだが、この面子でこれまでチームバトルで何度となく勝利を収めてきた。アバターも機体装備も性格もバラバラだが、みんな熟練のプレイヤーだ。


「よし。全員揃ってるな。じゃあ出撃の前に、言っておくことがある。今回はいつものイベントと違って、負けたら終わりだ。いつもより気を引き締めてかかるように。ただ、負けたからってだれかを責めるのはナシだ。チームメンバー同士、仲良くやらなきゃな」

「おいおい、負けた時の話なんてする必要あるか? どうせ勝つんだから」

「そんなことを言ってると見事に完封食らったりするんだ。油断は禁物」

「この前言ってたな。ルーキーズだったか? 一度戦ってみたいものだ」

「この戦いが終われば会えるさ。本戦でな」


 順番に。リーダー、ガンナー、ナメクジ、ボンバーマン、それからリーダー。全員一度に喋ると自分の出番がないな。こういうとき新参はアウェーな気分になる。

 で、そのルーキーズだが。もしかすると参加していない可能性もある。それならそれで、別の強豪チームと戦えるからヨシ。本戦は3チーム対抗のデスマッチを勝ち残るような選りすぐりの猛者ばかりだ……今から楽しみ。もちろん、目の前の予選だって楽しみだが。


 ちなみに負けることは考えてません。だって自分が負ける姿を想像しても楽しくないし。宝くじだって、外れたときのことより当たったときのことを考えるだろう?


「装備の最終チェック! フレーム、ヨシ! スナキャにレザキャ、ヨシッ!」

「フレーム、ヨシ! Wガトリングにシールド、ヨシッ!」

「120mm迫撃砲、グレネードライフル、ロケランにメイス、ヨシッ!」


 知らない間に迫撃砲手に入れてるボンバーマンこわい。レアパーツじゃなかったっけ。市場に出てるところ見たことないけど。


「20mmマシンガンとライフル、シールド、レザブレ、ロケランにブースターヨシ!」

「パイルとブレード、ブースター。ヨシ!!」

「では出撃する! 行くぞ!!」


 開ける視界。雲ひとつない青空に輝く純白の太陽。見渡す限り砂一色の大地が強烈な陽光を照り返してさらに明るく。

 素肌をさらせばたちまち日焼け。裸足で歩けば大やけど。汗のしずくは砂に触れる前に蒸発し、サングラスなしでは目を開けられない過酷な環境。猛暑日の鳥取砂丘を思い出す光景だ。

 わかりやすい例えを選んだつもりだが、わからなければ自分の足で行ってみるといい。

 ともあれ出撃。メンバーは全員揃っているが、まだ動きは取れない。他のチームが準備中なのだろう。


「で、作戦は?」

「ナメクジとアヌスレイヤーが二人で威力偵察。敵の団体さんを探して、一発殴って戻ってこい」

「了解」

「威力偵察はいいが。別に全部倒してしまっても構わんのだろう?」

「いやだめだ」

「えー……」


 がーんだな。出鼻をくじかれた。


「理由は?」

「敵は2チームいる。片方に奇襲をかければ、戦闘音に引き寄せられてもう片方がやってくる。漁夫の利を狙ってな。時間をかければ挟み撃ちになる。それに、どうせ戦うんだ。一発殴るだけにして、あとは潰し合ってもらって。敵の数を減らしてもらって、こっちは戦力を温存。二人を追ってきた敵を、こっちは完全な状態で迎え撃つ。どうだ、完璧な作戦だろう。褒め称えろ」

「はいはい天才天才」

「はいはい天才天才」


 右に習えでナメクジくんと同じく心の全くこもっていない賛辞を送る。


「それともう一つ。失敗してもいいから必ず戻ってこい」

「ヤボールコマンダー」

「心配すんな。変態を生贄にしてでも戻ってくるから」


 囮になるのはナメクジくんの方だな。俺の機体のほうが軽装備で足も速い。まあ、扱いは二人とも釣りのエサだ。せいぜい魅力的に振る舞って、敵を釣り上げようじゃないか。


「さあ、もうすぐ開幕だ。空を見ろ」

「カウントダウン。あと1分。じゃあ手短に作戦を振り返ろう。二人は偵察、その後すぐ戻ってくる。残りのメンバーは二人が連れてきた敵を迎え撃つ。以上! じゃあ行って来い!」


 カウント0。ローラーで一斉に移動を開始。足の早い俺とナメクジくんが隊列を抜け出して先行し、命令通り偵察に向かう。まず目の前に見える砂の丘を登る。高所は見晴らしがよく、偵察には都合がいい。

 逆に見つかる恐れもあるので、頂上からは姿勢を低くして。ゆっくり頭を稜線から出す。


「敵はいるかな」

「居た。10時方向、1から2キロ先」


 視線をそちらに向けると。砂丘の間を移動する敵集団が、米粒程度のサイズで見えた。ナメクジくんは目がいいらしい。若いだけあるね。


「装備は? 俺の機体じゃフレームしかわからん」

「リーダーみたいな狙撃機じゃないんだから。こっちにもわかるわけない」

「それもそうだな。近付けばわかる。で、どうやって近づく」

「地道に行くか。ブーストで一気に行くか。見失うリスクを取るか、バレるの覚悟で突っ込むか」

「ナメクジくんはどうしたい」

「もたもたしてると先手を取られる。一気に行こう」

「OK」


 ローラーをぶん回して砂丘から飛び出し、空中でブーストを使用。一気にかっ飛んで丘を一つ飛び越えて、落下。速度を殺さず最大速度を保って突撃する。


「転ぶなよアヌスレイヤー!」

「そっちこそ。遅れるなよ」


 砂煙を盛大に巻き上げながら砂漠を駆ける。滑るように、飛ぶように。代わり映えのない景色の中を猛スピードで走り続ける。

 砂の谷を飛び越え、山を登り、斜面を下り。いくつかの丘を超えた頃合いで、ナメクジくんが叫ぶ。


「その丘の向こう! たぶん!」

「たぶんかよ」


 最初のダッシュから30秒。僚機の声が接敵の予感を告げる。その言葉を信じて砂の丘を登りきり、眼下に敵のチームを発見する。こちらが相手に気付けば、相手もこちらに気付く。モノアイがまずこちらを向き、銃口が動き出す。


「飛び込む! スモークを!」

「任せろ!」


 斜面を下る勢いにブーストを乗せて、己を一つの砲弾に見立て突撃。銃口に捕らえられる前に一気に敵陣に着弾、杭の先端は的の中央を正確に捉え、貫いた。撃破確認。直後にスモークが着弾、あたり一面が瞬時に煙に包まれて、自分はブーストでスモークの中から離脱、斜面を降りてきたナメクジくんと合流する。


「やったか」

「やったぜ」


 濃密なスモークの中では激しい銃撃が行われている。敵はパニック状態だ。味方が一人やられたと思ったら、急にスモークに視界を遮られ、襲ってきた敵はどこに居るのかわからない……目の前に居るかもしれない、次は自分かもしれない、そう思ってみんな仲良く手持ちの銃火器を文字通り闇雲にばら撒いているのだろう。


 でもそこに私はいません。ナメクジくんと一緒に離脱し、少し離れたところから見物中です。


「食い散らす絶好のチャンスだぞ。いいのか」

「今回は命令があるからな。指示に従うさ」


 好きにやれ、と言われたなら喜んでそうさせてもらうけど。指示があるならそちらを優先するとも。それが社会人のサガ。


「見ろよ、おいでなすった」

「もう片方のチームだな。どうなるか見ものだ」


 銃声に惹かれてやってきたのは、全員が中量2脚のテンプレ射撃装備で固めたチーム。彼らはスモークが薄くなる前に一斉にしゃがみ、機関砲を構えて射撃姿勢を取ると……煙幕が晴れ、機体の輪郭が見える程度になった途端に全力射撃を浴びせだした。

 スモークの中に居たチームはわずかに反撃の兆しを見せたものの、一発も命中することなく全員が動かなくなった。


「……潰し合ってもらう予定だったな?」

「一機も減ってないな」

「とりあえず逃げよっか」

「賛成」


 回れ右して、リーダーたちが待つ方向へと移動を開始する。当然、その後ろから敵チームが追ってくる。敵の足は早い。一糸乱れぬ隊形でついてくる。こちらがブースターを使えばあちらも使い。ナメクジくんの足に合わせているとそのうち追いつかれそうだ。


「早い。逃げ切れるか?」

「俺は問題ない。ナメクジくんが囮になればな」

「ひどくない!?」

「ロケット撃ちきって機体を軽くすればどうだ?」


 人のことは囮にするつもりだったのに。自分がされるのは嫌と。そうかそうか、お前はそういう人間だったのか。俺は悲しいよ……嘘だよ。人間なんてそんなものだよ。


「そうする!」


 ナメクジくんが反転。斜面の途中で振り返り、俺たちをストーキング中の団体様五名に向けてロケットを発射する。直撃すれば一発撃墜もありえる威力だが……


「一発くらい当たれよ!」

「そういうこともある。反撃が来るぞ」


 精度がよくないので、離れている目標に当てるのは難しい。至近弾の爆風で削るのがせいぜいだ。撃墜するならもっと大量にばらまく必要がある。

 自分はブーストで斜面を登りきり、一足先に丘の向こうへと避難する。

 ちなみに、敵の数は五人。その全員がロケランを装備していて、それを一斉に撃ってくれば。8連装×5機。計40発の弾頭が尾を引きながら飛んでくる。

 たくさん撃つと実際当たりやすい。直撃しなくとも、あれだけの砲弾の爆風に晒されれば余裕で死ねる。しかもナメクジくんは斜面を背にしている。


「た、たすけっ」


 悲鳴をかき消す大量の爆発。大音量の破裂音。合掌。


「成仏しろよ」

「勝手に殺すな!」

「なんだ。死んでなかったのか」


 しかし、隣にやってきた機体は満身創痍。かろうじて動くスクラップという有様。シールドを持っていた片腕はもげて、頭部カメラは装甲がはげてレンズも吹き飛び中身が丸見え。

 胴体には穴が空いており、アバターが露出して。足もなんだか曲がっている気がする。


「なんとか生きてる」

「ついてこれるか?」

「……がんばる。見捨てないで」


 珍しく弱気なナメクジくん。震える声で訴えられても、オッサンのアバターに声じゃ心には響かない。


「わかった。見捨てる」


 ゲームだしな。見捨ててもひどい目に遭うわけでも、死ぬわけでもない。心は痛まない。なのでブースターを使っておいていく。


「血も涙もねえのかよテメー! 美少女がお願いしてるってのにヨォー!」


 武装が全部吹っ飛んだおかげで軽量化されたとでも言うのか。なんと追いついてきた。すごいしか言うことがない。


「リーダー。応答を」

「首尾はどうだ」

「おおむね計画通り。敵は残り1チーム。そっちに連れて行ってる。相手の装備だが、ロケランは撃ち尽くして、重火器は機関砲だけだ。代わりにナメクジ君が瀕死」

「お前は?」

「無傷」

「ハァー……逆ならよかったのにな」

「そう言われると傷つくな」


 嘘だけど。オンライン対戦ゲームで死ねだの殺すだのの暴言は「こんにちは。今日もいいお天気ですね」というアイサツと何ら変わらない。暴言を吐かれて動じるのはピュアな少年少女くらいなものだ。


 ブースターを使って砂の丘をまた一つ飛び越える。後ろからは殺意をむき出しにして、火器を打ちまくる敵集団。


「ほら急げよ。止まればハチの巣だぞ」

「助けろよこの!」


 殺意の矛先はおもにナメクジ君に向けられている。あと数発で落ちる相手と、無傷の相手と……言い換えれば弱者と強者。まず倒せるほうから狙うのはイクサのセオリーである。


 砂山を乗り越えて地形を盾に一息ついて。ナメクジ君が追い付いてくるのを待ったらまた移動。しかしナメクジ君もスクラップ同然の機体でよく避ける。地形のおかげか、敵の腕が悪いのか。


「作戦を進めるためにはこのまま逃げるしかないんだ。装備的にも援護のしようがないしな。というわけだ。がんばれ」

「鬼! 悪魔! 変態!」

「ハハハ」


 いっそ撃墜されてくれればわき目も降らずに逃げられるんだが。なかなか往生際が悪い。


「いや。案外これでいいのかもな」


 下手に無傷のままで逃げ回れば、敵も罠と警戒して追ってこなかったかもしれない。手負いだからこそ、トドメを刺すべく追ってくるのかも。


「なんか言ったか変態!」

「この丘の向こうだ。もう少しがんばれ」


 そして、敵はまんまと罠にはまってくれそうだ。丘を登るナメクジ君の盾となり、何発か砲弾を受ける。無傷だったおかげで少々撃たれたくらいでは問題ない。ナメクジ君と一緒に斜面を滑り降りる。


「死ぬかと。ほんと死ぬかと思った……」

「おかえり。ちゃんと二人で戻ってきたな、えらいぞ」

「ナメクジ君はいい仕事をしてくれた。おかげで敵さん、雌の尻を追いかける金魚みたいに寄ってくるぞ」

「例えがちょっとわかりづらいが。まあ、来てるんだな?」

「すぐそこだ」


 丘の下には武器を構えた仲間たち。俺たちは自分の仕事を済ませた。あとは彼らの取り分。

 十秒と待たずに、追手たちも勢いよく斜面を登り切り、丘の上から飛び出して……


「間抜けで助かる」


 リーダーの放ったレーザーキャノンが一機を空中で仕留め。着地にガトリングの暴力的な弾幕が襲いかかり、2機が穴あきチーズになって撃墜。死地に飛び込んだと知り慌てて逃げ出す残り二機に、ロケットランチャー、グレネード、迫撃砲の水平射。たった一機によって行われた爆撃により、逃げる間もなく粉砕、玉砕。勝負はここに決着し、大喝采。


「イイトコなしだなナメクジくん」

「仕事はちゃんとしたからいいんだよ。それに、本戦じゃもっと活躍する」

「そうだといいな」


 ともあれ。これにて予選は突破。あとは本戦ガンバルゾー。


 勝利を祝うファンファーレが鳴り響き、空には本戦進出おめでとうの文字が浮かぶ。そして画面は暗転し、次の瞬間には見慣れたチームロビーに場所が移る。


「いえーい勝ったぞー」

「いえーい」


 ぱしーん、ばしーんとメンバー全員でハイタッチ。そしてリーダーは冷蔵庫から、キンキンに冷えた勝利の美酒ならぬ、勝利のクソマズ合成食糧で乾杯。しかし封を切ったのはリーダーと俺だけだった。


「まっずぅ……」

「なんでみんな飲まねえの……」

「だってまずいし」

「以下同文」


ひとしきり勝利を祝った後で、部屋の隅っこにぽつんと立っていたログボちゃんが動いた。


「皆様。本戦進出おめでとうございます。本戦に出場するチームが決定しましたのでお知らせいたします。

 ネスト、パンツァーフォー、SAMURAI’s、EDF、ルーキーズ……」


 ルーキーズ。居てくれたか。出場していてくれるといいな、とは思っていたが、いやはや。これで雪辱を果たす機会が巡ってきたということだな。後のチーム名は覚えていない、というかどうでもいいので聞き流した。


「―――以上になります」

「リベンジマッチだな」

「ああ。次は勝つ」

「あいつらが本戦で即落ち二コマしなけりゃ。そして俺たちが勝ち残れば。な」

「今日だってうまくいったんだ。次だって」

「うまくいくとは限らないから、油断はしないようにな。ガンナー。すぐに調子に乗るんだから。お前の悪い癖だぞ」

「ぐぬぬ……」


 そのあとは少しだけ談笑して、ログアウト。なかなか充実した戦いだったが、次は今日よりももっと楽しい戦いになる。ああ、今からすぐに本戦に突入してもいいくらいに待ちきれない。

 ちなみにこの後。

「本戦までに出場チームの情報収集するのは女々しか?」

「名案にごつ」


 というやり取りがあったとかなかったとか。


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