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第32話 黒い津波 中編

FCSが射程内を告げると、戦列歩兵のように横隊を組んだ30㎜ガトリングの群れが一斉に砲火を、敵に死をもたらす鉄の嵐を解き放つ。曳光弾が尾を引いて飛び、その何十倍もの砲弾がアリの群れに叩き込まれる。空薬莢が足元にジャラジャラと大当たりのパチンコ玉じみて排出され、砲身が赤熱して陽炎を上げる。

撃った数だけアリに穴が空く。着弾の衝撃で頭が砕けて脚がちぎれ飛ぶさまが望遠カメラでよく見える。

これでもかとばらまかれる砲弾がアリの群れを先頭から削り取っていく。一発か二発でアリは死ぬ、死んだアリを貫通して砲弾が後ろのアリをまた貫き、散らす。景気よくぶちこまれる砲弾の嵐がアリの津波を押し留めている。そうでなくては困る……のだが、それだけ撃ってもちっとも減っているように見えない。恐るべきアリの物量。まさに津波、恐ろしく思いながらひたすら先鋒に向けガトリングを撃ち続ける。


 ドドドドドドド……キュルル。


景気よく気分よく撃ちまくっていたせいで早くも弾切れ。もう他に武装もないので、一度後退して補給に向かうことにする。

 ……ところで。この戦場の総火力で最も多くの割合を占めるのはガトリングなのだが。このゲーム、予備マガジンを装備しない限り基本的に装弾数は同じ。撃ち始めたタイミングはほとんど同じ。そしてみんなが絶え間なく撃ち続けたら、どうなるでしょう。

A.弾切れのタイミングが被る

弾切れになると敵を抑える火力が足りません。するとどうなる?

A.一気に押し込まれる

つまり?

A.やばい。


「弾丸のおかわりが来たゼェー!!」

「いいから早く終わらせてくれ。単発武器じゃ制圧力が足りん!」

「やっぱり連射武器のほうがよかったんじゃないかい。リーダー」

「それか爆弾でもいい。今からでも変えてもいいぞ。むしろ変えろ」


 コントをしている間にもアリンコ共はどんどん迫る。抑えがなくなった分、勢いが強まったようにも感じる。彼我の間の大地をどんどん黒く塗りつぶしてやってくる。

 これはまずいんじゃないか、と思った頃合いで。


『全員今すぐ次のラインまで下がれ! このラインは放棄、爆破する!』


 頭から号令が出た。補給が完了し、すべての部隊が後退を開始、戦線が大きく動きはじめた。さっさと引け、と言われたからにはそうしますとも。補給したてのバッテリーでブーストを使用。素早く移動を完了し、再びガトリングを敵に向けて構える。


『ガンナー! 遅れてるぞ!』

『そりゃブースト使える機体に比べりゃなぁ! コレでも急いでるんだよ!』


 遅いと言っても補給部隊と同じ程度だ。問題になるほどじゃないし、いいのでは。と思いつつ、いつでも援護ができるようにしっかりとみておく。


『後退は済んだな! してなくても爆破するけどな! あと十秒だ!』


 押し寄せる群れは止まらず。あとほんの僅かで撤退中の部隊がアリどもの群れに飲み込まれる……その瀬戸際。


『今だ! 爆破しろ!』


 撤退する部隊の最後尾、わずかな距離で天高く火柱が上がった。部隊を飲み込もうとしたアリは逆に炎に飲み込まれ、それを合図に後方の重火砲による榴弾射撃が殺到する。火柱を散らし、地上を真っ赤な炎が隙間なく覆ってアリを炭に、炭を爆風が散らし、砲弾の破片が細切れに刻んで大地を耕し鋤き込み栄養に変える。

 舞い上がる炎と土煙に覆われ、その内部は伺いしれない。絶え間なく降り注ぐ榴弾の雨。地上に咲き乱れる爆炎の花は、自分たちの攻撃はあくまでも時間稼ぎなのだと思い知らされる、圧倒的かつ爽快な破壊力だった。


 一言で言うと。スカッとする光景だ。いいぞもっとやれ。


『砲撃支援終了! 次の支援は第一防衛ラインだ、ボサッとするな攻撃再開!!』


 さらに第一波と同じように、ロケット弾の一斉射よる爆撃がはじまる。先の砲兵隊には遠く及ばないが、小規模な爆発が大量に起こり、クラスター爆弾の絨毯爆撃めいた光景が出来上がる。衝撃で飛び散った破片が空中でロケットと衝突して花火が上がる。

 しかし、それでもアリは止まらない。爆撃が終わればすぐに突撃を再開してくる。炭になり、細切れになった仲間のアリを踏み越えて押し寄せる。

二度の爆破・砲撃と、数えるのもばからしくなる量の砲弾をぶつけられていながら、群れはいまだ健在。数は確実に減っているはずなのだけど、勢いはまったく衰えない。恐ろしい物量。山火事をじょうろで消化しようとしてる気分だ。


 でも、楽しいかそうでないかでいえば。もちろん楽しい。やることは単純で、撃ちまくって敵の数を減らす。このままいけば勝ち目はある、しかし手を緩めれば押し切られる。難しくはなく、簡単でもなく。絶妙な難易度だ。


「こんなに楽しいならナメクジ君も来ればよかったのに。近くまで寄られることはないんだし」

「これが毛虫だったら絶対参加しなかっただろ? あいつにはそのくらい気持ち悪いのさ」

「なるほどな」


 遅れ気味のガンナーを援護するように、レーザーと40㎜砲弾がアリを貫いていく。ガンナーもただ援護されるだけでなく、最後尾に居るからには当然一番狙われていて、彼を囲むようにアリが寄っていく。それを両手に持ったガトリングで散らしながら後退を続ける。

 大きな積載量と、重量からくる安定性が可能にするガトリング二刀流。少し援護するだけで大群とも十分に渡り合える火力は、とても素晴らしいものだと思う。

 まあそれだけでは一か所だけしか抑え込めないので。リーダーとボンバーマン、もちろん俺も。その他大勢のプレイヤーたちが並べる大量の銃口が重厚な弾幕を作り出し、幾万のアリを殺しつくさんと全火力を戦線に投射し続ける。

 弾丸の嵐対アリの津波、災害の正面対決の模様は若干ながら前者が押され気味。

 だが勝負の結果はまだわからない。相手の数は減り続け、こちらは一人の脱落者もいないし、防衛ラインもあと二つ残っている。地雷原と砲撃支援も同じだけ。


 今度は後退の速度がバラバラだったおかげで補給のタイミングもずれて、攻撃が途切れることもなく、アリの進軍速度が急激に上がることもない。


「そろそろ補給だな。ちょっと下がる」

「ここは任せろー」


 ボンバーマンがグレネードで前線を爆撃、その横を通り過ぎて補給車両に近づく。中からNPCがワラワラと出てきて機体に群がり、あわただしく弾倉を交換、バッテリーも充電されて。十秒足らずで補給完了、再び戦列に加わる。


「ヒィ、やっと合流できた。死ぬかと思った……補給に行ってくる」

「おっと、こっちもだ」


 入れ替わりでガンナーとボンバーマンが後退して。二人が抜けた穴を埋めるべくロケットランチャーとガトリングを乱射する。狙わなくても前に向けて撃てばどれかに当たる。


 そこで、敵の動きに変化があった。兵隊アリどもの津波が割れ、奥から巨大な女王が何体も。これまたでかい頭を振り回し、横倒しのビルのような腹を引きずって、速度を上げて進み出てきた。そして群れの先頭を巨大な腹で隠すように。あるいは守るように横向きになり、ヨコ歩き。


『わぁうぜえ』


 どこかの誰かの声に同意する。あの巨体を排除しない限り、連中の進軍を止めることはできないし、大量の敵を無傷で近寄らせることになる。火力を集中するのは当然の展開。

地下で出会ったときはめちゃくちゃタフな奴だと思ってたが、総勢50機からの集中砲火を受けていつまで生きていられるか。


『やることは変わらないぞ。撃って殺せばいいんだ』


 やれることも、だ。アイツが死ぬまで集中砲火を浴びせる以外に方法はない。残りはその後。

 広く疎らだった火力が集まり、レーザー、テルミット入りロケット、40mmに30mm砲弾、アリだけにありったけの火力が叩き込まれて、あっという間にズタボロの穴あきチーズになっていく。それでもアリは止まらない。体液と肉片を大地に撒き散らし、敷き詰めながら進んでくる。


 あえて言おう。きもい。虫はそんなに嫌いじゃないんだけど、今日で嫌いになりそうだ。

 というかちょっと。いやかなりタフだ。地下基地で出会ったときよりもずっと。イベントだからって強化されてんじゃないよ。


「アレの頭にパイル刺したら止まるかな」

「味方の攻撃に巻き込まれてスクラップになりたいなら試してみればいい」

「だよなぁ。今はやれることをやろうか」

「そうしよう」


 俺にできることはひたすらガトリングを撃ち続けることだけ。そろそろパイルを使いたくなってきた……禁断症状だな。この戦いが終わったらパイル縛りでバトルロイヤル部屋に飛び込もう、そうしよう。


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