第26話 模擬戦闘 四脚ナメクジ戦
チーム戦も終わって、反省会も終わったなら、さあ次は何をしようか、という話になるのは自然な流れだ。それでは皆さん次は何に行きましょう。
リーダー、一戦やって満足げ。一休憩挟む。
ガンナー、たんまりガトリング撃って満足。同上。
ボンバーマン、たんまりグレネード撃って、メイスの出番もあり満足。同上。
俺、オペレーターだったので次は撃ち合い殴り合いがしたい。
ナメクジ君、もうちょっと遊びたそう。
ということで。
「久しぶりにタイマンしようぜ」
元気の余ってる二人で楽しみましょう。ナメクジ君に模擬戦の申し込みをする。模擬戦なら修理費も弾薬費も発生しないから気軽に送れるのがいい。ゲーム内通貨の消費なしで戦闘経験を積めるのが、チーム加入の最大のメリットらしいけど、なるほど確かに。
大半の出撃で全員ぶっ殺しての勝利を重ねてるから、クレジットが足りなくなったことなんてないけど。足りないって人にはありがたいだろうね。
「いいぞ。やろう」
「やったぜ」
「でも新パーツ使った機体組むからちょっと待って」
「オッケー。先に行って待ってる」
ガスマスクとコートを装備したら、模擬戦用フィールドにつながる扉を開く。着ける必要はないけど、その方が雰囲気が出るから着けているのだ。せっかくここまでリアリティある世紀末世界を用意してくれてるのだし、ロールプレイを楽しまなくては損だ。
一歩扉の向こうに踏み出せば、そこは廃棄された都市を模した、コロニーの一角。規則正しく並んだ朽ちたビル、横転した錆びまみれの車だったもの。ひび割れた道路。無人の町。風が吹いて、砂だけが舞い上がる。
そんな中に一人で立っていると、終わった世界に一人だけ取り残されたような感じがして。何とも言えない侘しさを感じる。そんな中で頼りになるのは、自分の愛機一つだけだ。振り返ればそこにある。全高3~4mのロボット。左手に剣を、右手に杭打機を。そして背中にはバッテリーとブースターの図太いノズルがついた、物を言わない鉄の塊。
一言でまとめると、ロマン。そう、ロマンがある。こんな世界観に、こんな無骨なロボットに乗り込んで戦えるだけでしびれるほどのロマンがあるのに、そこへさらに射撃武器の一切を廃した近接武器限定機だ。最高じゃないか。
射撃重視の敵に、格闘武器で挑む。それは銃に騎兵で挑むことと同じ。信長が長篠で武田騎兵隊を打ち破って以来、銃は剣よりも強しとされてきた常識への挑戦。機動力を駆使して銃弾の間を抜け、敵の懐に飛び込み、踏み潰すのだ。想像するだけで興奮してくるのに、それを実戦で実践できた日の感動ときたらもう……
「お待たせー」
ぶるぶる。震えているとナメクジ君と四本脚の機体が現れた。締まりのないところは見せられない、と背筋を伸ばし、震えを止める。
「どうよ」
ナメクジ君が腰に手を当てて、胸を張って一言。ガスマスクのせいで表情は見えないが、あの下は多分ドヤ顔だ。
発言の意図は……多分新しくなった機体の感想かな。新しい服を見せて感想を尋ねるようなもんだろう。
「パイルがあれば100点だったな」
「あんな産廃使うのアンタくらいだよ」
「産廃じゃない。パイルはロマンだ」
「はいはいロマンロマン。男性プレイヤーはロマンってよく言うけど。ロマンの正体がいまいちわかんないんだよねー」
「わからなくても、楽しめていればいい。ゲームは楽しんでこそだ。あと男の声でリアルの喋り方されると脳がバグる」
声の高さは全然違ってもリズムと抑揚がな。
「そいつはすまん。じゃあ始めよう」
「おっけーい」
機体脇腹、装甲の隙間にあるハッチ開放スイッチを押して、正面装甲を開放。背中を預けるように乗り込んで、機体の腕に自分の腕を、袖を通すように差し込む。自動で正面装甲が閉まり、モニターが点灯。上から下へとプログラム言語が走り、最後に各種警告が表示されて完了。鉄の巨人が立ち上がる。
「いきなり攻撃はやめてくれるか。まず動きの確認をしたい」
「わかった。準備ができたら言ってくれ」
機体の操縦はモーショントレース方式、という設定だし。二本足の人間が四本の足をどう動かすのか。気になるところではある。
「でもその前に、最新型に乗ったなら言ってみたいセリフがあるんだよ。わかる?」
「ああ、アレか」
「そう。アレだ。いいか?」
「もちろん。お約束だろう」
アレとは。某大人気戦闘ロボアクションゲーム、その中で出てくる敵キャラクターの、登場シーンに言ったセリフ。
「扱いにくいパーツだって話だが、最新型が負けるわけねえだろ! 行くぞぉぉぉぉおおお!!」
新型パーツ手に入れると言いたくなるよね。わかるよ。元ネタだとまっすぐ突っ込んでくる射撃の的の噛ませ犬だけど。
「よし満足。練習するぞー」
その後すぐにぐるんぐるんと一回転したり、前後に動いたり。そして四足最大の目玉である壁登りにも挑戦。後ろ足二本で立ち上がって、廃墟になったビルの壁に前足の爪先のアンカーを突き刺して。後ろ足も壁につけたら、クモほど滑らかではないが、そんな感じで垂直の壁を登っていく。
「使い心地はどうだ」
「動きにクセがあるけど、思ったほど難しくないな」
そうかー。よかったねー。と思ってたら、ビルに対して直角に立った上半身を半回転、下方向に、つまり俺の方に向けた。銃口、ロケットランチャーの発射口もこちらを向いている。直後噴煙、ブーストを使って緊急回避。一瞬前までに居た地面にロケット弾が突き刺さり、盛大な爆発が上がる。
滞空中にローラーを起動し、着地時に速度を落とさない。
「ちっ、避けたか」
「おい。今のは宣戦布告の合図でいいんだな?」
「来いよここまで。お前にその力があるなら!」
「よし殺ってやる」
開戦の合図、ライフルと機関砲の弾丸が降ってくるのをローラーで複雑な軌道で動くことで回避。弾丸の雨が地面を叩く、いくらかは機体にも掠るが、いつもよりも被弾率は低い。慣れない視点からの攻撃が効率を下げているのだろう。
向かいのビルに突っ込んで、壁に足をつけ、ブーストで機体を重力に逆らって持ち上げて、ローラーを回して駆け上がる。
高度合わせ、このくらいでいいだろう。
「二脚でも壁を登れるって、忘れてないか」
壁を蹴り、空中に躍り出て、横方向へブースト。ナメクジ君の方向へ一直線に飛んで……
「……そんなことするのお前くらいだよ」
呆れとあきらめの混ざった声を聴きつつ、速度の乗った蹴りをぶちこんで、衝撃で壁から引き剥がし。
「ひ、ひゃあぁぁあ!! 落ちるぅ!!」
男の悲鳴なので興奮しないが、リアルのナメクジ君の声だったらやばかったかもしれない。操作ミスってそのまま落ちてたかも。
宙に浮いた相手の足一本を掴んで、自機の下に抑え込んで。そのまま地面へ直行特急便のフリーフォール。
「お客さん終点ですよ」
落下ではダメージを受けない不思議メカだが、衝突ではきっちりダメージを受ける。例えば蹴りとか。落下速度が乗った蹴りがもう一発、機体胴体に突き刺さる。蹴り二発でも撃破されないなんて、四脚は脆いなんて大嘘じゃないか。まあ攻撃してるの胴体なんだけど。
「さ、おかわりどうぞ」
落下の衝撃と二回の蹴りで中の人は大変なダメージを受けているだろう。もしこれが現実なら機体より先に中身が死んでる。でもこれはゲームなので生きてます。生きてるなら反撃される危険があるので、しっかり殺しておきましょう。
というわけでパイル一発。胴体の真ん中にしっかりと突き刺さり、きれいな穴が空きました。
「オーバーキルひどくない?」
「武器がこれだから仕方ない」
撃破された機体から、何事もなかったようにナメクジ君 (ヴァーチャルの姿)が出てくる。現実なら中身も機体も死んでるが、これはゲームなので細かいことは気にしない。
「使い心地はどうだった」
「動かし方は二本足と対して変わらないよ。重心を傾けた方向へ動く。歩きは自分の足を動かせば勝手にしてくれる。あとは、支えが四つあるだけに安定感があるな」
バイクより車のほうが安定してるからね。その割に安定性を活かした攻撃はしてこなかったけど。もっと地面を走り回りながら攻撃とかすればよかったのに。でも壁のぼりも試したかったんだろうな。新機能だしな、使いたかったのもわかる。
「気を取り直してもう一戦いいか? あと射撃武器使ってくれ。普通の相手を想定した戦いがしたい」
「仕方ないなぁ」
この後もう一戦して、結果は負けであった。まじめに撃ち合うと独特の機動性と、安定性の高さからくる命中率に大苦戦させられた。バック走行も四本足の特性なのかかなり素早いし、追うにも一苦労。
こちらが慣れていない装備で、ナメクジ君の腕がよかったのもあるが。四脚もなかなか強力な敵になりそうだ。これからはいろんな機体が戦場で活躍する姿が見られそうだと思うとわくわくしてくる。




