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第10話 地下基地進入(2)

「いやーごめん、待った?」


 なんてデートに遅れてきた人間のようなセリフを吐いたが、ここはそんな甘い空間ではない。アリの巣の中である。充電と補給が終わったので隊列に加わったのだ。


「一人でワンフロア制圧してくれた奴に誰が文句を言えるんだよ。気にするな」


 そりゃそうか、と笑って陣形の先頭に立つ。敵はフロアを移動するごとに出てくるようなので、次の扉を開ければ多分また戦闘だ。今のうちに気合を入れなおさないと。

 フロアの端。奥へと続く扉の前に立つ。後ろでは距離を取りつつ、武器を構えた三人が待っている。今度は接敵まで十分な距離がある、被害を受ける前に倒せるだろう。

 ゴゴゴ、と音を立て、埃を舞い上げながら重い扉が持ち上がる。その向こうから、蟻の群れが押し寄せて……


「こないな」


 肩透かしを食らった気分。しかしここがアリの巣の中ということを忘れてはいけない。気を抜けば「突撃! お前が晩御飯!」になるのだ。

 扉の向こうには、さらに地下深くへと伸びるスロープ。その奥に敵は……今のところ見当たらない。


「敵影ナシ! 前進!」

「まさかさっきのでザコ戦おしまい? 次でボス? やったぜ。ようやくこの地獄からオサラバできる」

「そりゃないだろ。短すぎる」

「短いダンジョンがあってもいいじゃない」


 気を緩めるナメクジ君をボンバーマンが諫める。その通り、ダンジョンというのは何度も潜って、少しずつ調査して対策を立てて……というのはソロでのやり方だな。うん。チームならガンガン進むのが正解なのかもしれない。

 とにかく、これで終わりではないのは確かだ。


地下三階に到着。めちゃくちゃ広いし深いところにある地下基地だけど、一体どうやって掘ったのやら。バーチャルだから細かいことを気にしちゃダメ? それもそうか。


「扉を開くぞ。警戒! ……また敵影ナシか」


 さっきのフロアと同じ罠か? あの大立ち回りをもう一度やれと? いいけども、他の人の活躍が見られないのは残念だな。そう思って、一応聞いてみる。


「どうする。先に行こうか?」

『一人にばかり押し付けるのは悪い。ここはみんなで行こう。一人だけ戦闘に参加しないヤツが言うのもなんだけど』


 しかしその意見に異を唱える者は一人も居ない。隊列を圧縮して前進。しかし何も起きなかった。


「……気を抜くなよ。油断させるための罠かもしれない」

「わかってる。わかってるとも」


 天井を見上げる。大丈夫、何もいない。


『集めたデータじゃあ、このフロアは武器庫と実験室につながっているらしい。どっちへ行こう』

「武器庫でキーアイテムを拾って、実験室でボス戦ってパターンじゃねえの」


 ゲームにはそういうお約束的展開が付き物である。


『じゃあ武器庫かな。それでいいか皆』

「いいとも。ただしそういうのは罠とセットの場合が多い」

「さっきみたいな? 大丈夫だろ、変態野郎も居るし、四人で行けばどうにかなるって」

「……優秀なメンバーの援護があれば、どんな敵でも切り抜けられるさ」


 ナメクジ君に釣られてちょっとカッコイイことを言ってみたけど。実際にはどうなるやら。パーティープレイやるのは今日で二回目だし。足を引っ張らないのが精々かもしれない。


「いいこと言うねえ二人とも」

「そうだそうだー」


 互いに盛り上げてこそパーティープレイ、ってことなのかな。適当なことでも言ってみるものだ。


『頼りにしてるよ、新入り君』

「任された」


 陣形を維持したまま、進路は武器庫へ。開いたままの扉から通路へ進入、変わらず敵の姿はナシ。


「ところで武器庫には何がある?」

「原作で言う骨董品とか、光学兵器とか?」


 ちなみに原作とは、核戦争から百年くらい経った世界で生きる人々が、ロボットに乗って殺し合いをする話だ。上司とロリとの三角関係に振り回される主人公が、最終的にコロニー崩壊のトリガーになって死ぬ。

 蟻や地下基地なんて欠片も出てこなかったけど、シナリオなぞるだけじゃマルチプレイの意味がなし。


「とうちゃーく。うひょー、宝の山だぜ」

「すげーな。Bタイプフレームがこんなに」


 Bタイプフレームのアースとは、簡単に説明すると高級機。発掘品とも言う。核戦争以前に使用されていたアースで、見た目は以前出てきた無人兵器を小型化し、各部の突起をマイルドにした感じ。曲線を描く装甲は高い加工技術を想像させる。

 発掘品は希少なだけに、修理費が高額なので乗り回すプレイヤーはなかなか見ない。

 俺たちが今使っているのがAタイプフレーム。どことなく角ばったデザインで、戦後コロニーの工場で生産されたもの。戦後の劣化した技術で生産したので性能も劣る。ただし量産しているので修理費はそこまで高くない、というワケだ。


「回収しようとしたら襲ってくるパターンだな」


 ミミックの変化球バージョン。お宝を前にした時こそ冷静に。


「お約束だしな。とりあえずフロアの探索といこう」


 冷静なボンバーマンと手分けしてフロアを探索する。それ以外のお宝は、ロックのかかったコンテナが一つ。本命はきっとこれだ。


「ロックを解除するには?」

「データ端末があった。多分それだろう……が、触れば出てくるぞ」

「……皆さん心の準備はオッケー!?」

「オッケー!」

「嫌だー!!」

「よしやってくれ」


 ナメクジ君の悲鳴は無視して操作開始。コンテナのロックを解除、アース生産用データを入手。なるほど、これを持ち帰ればコロニーでBタイプフレームを生産できるようになるってことか。


『通路から蟻の群れだ!』

「中からも湧いてきた! 畜生、やめてくれって言ったのに!」


 全く予想通りの展開だ。さてどうしよう、考える時間はあまりない。湧いてきた蟻は既に戦闘態勢で、こちらを押しつぶそうと寄ってくる。指示がなければ好きに動くけど。


『装甲車の護衛はしなくていい! ナメクジ君と新入り君はフロア内、あとは通路! 戦闘開始!』


 オーダーがあったので、そちらを優先。ちなみに何も言われなければ通路へ突っ込んで退路を確保するつもりだった。


「そういうことで。ひとつよろしくナメクジ君」

「畜生! 足引っ張んなよ!!」

「もちろん、がんばるよ」



 その後しばらく。何とか敵を全滅させて、フロアを制圧できた。


『やれやれ。こっちは装甲がどろどろだな、修理も補給もできん。みんな生きてるか』


 コマンダーからの号令。格納車両がひどいことになっている。


「すまん、やられた」

「撃墜寸前だが、なんとか生きてるよ」


 ボンバーマンが生身のアバターで、蟻の死骸の群れをかき分けて出てきた。ガトリング君は片腕がもげて、正面装甲が剥がれ落ちてパイロットがむき出しになっている。満身創痍って感じだな。

 それから俺は……頭部カメラがもげた。


「ナメクジ君の誤射だけだ」

「ゴメン! マジでゴメン許して!」

「いいよ、射線に入った俺が悪い」


 連携不足からの事故。パーティープレイだと味方の位置も意識しないとだめだな。反省、次はこうならないよう気を付けよう。


『回収できるものは回収して、出直そう』

「了解」


 と言っても。戦闘の余波でたくさんあったお宝は大半がボロボロのスクラップ。持ち帰れるものと言えば、コンテナの中身。梱包されていて、ソレが何かはわからなかったが、サイズと重量からして、武器であることは間違いなさそう。

 詳しいことは帰ってから調べよう、ということで、拾い物を積載量に余裕のある人に持たせて地下から脱出開始。背中に気を付けながら来た道を戻っていく。



 本日の収穫

 拡散レーザー砲

 弾薬費:いっぱい

 修理費:いっぱい

 報酬:0(任務途中で撤退のため)

 Bタイプフレーム生産用データ。ショップでBタイプフレームがアンロックされました。


 結果、大赤字。あとで聞いた話、リーダー曰く、貯めてあったチームの軍資金がごっそり減ったのだとか。特に装甲車が高かったらしい。


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