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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第二部「極東戦争編(1)」

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095 「第一次総攻撃の最中」

「機関銃陣地に被弾!」


 様々な音で埋め尽くされた戦場で、危急を告げる悲鳴にも似た声が響いた。

 声は数多くある中隊司令部の一つから。そこからは直接見えない天蓋付きの小さな陣地は、砲弾を受け半ば崩れていた。陣地の上を覆う天蓋部分はまだ無事だが、前に面した半分ほどの箇所が爆風で半ば吹き飛ばされている。


 その小さな陣地は主な陣地から少し離れていたが、交通壕と呼ばれる上から見ると細長い凹凸のような形の塹壕で堅く結ばれていた。中隊の大半も、その塹壕に沿って陣取っていた。

 そしてその陣地には、中隊に支援として師団から派遣された機関銃が配備されていた。

 機関銃は中隊最大の火力で、通常は歩兵全員が装備する小銃が主力火器となる。小銃以外は、将校の拳銃と魔鋼で誂えた刀、兵士達の銃剣、それに若干数の手榴弾を装備する。


 そして機関銃による火力がなくなると、前面にいた青鼠色の軍服を着た兵士達が活気付き、陣地に殺到しようと動き出す。

 各所で続く歩兵達の小銃による射撃、他の陣地からの援護射撃はあるが、周囲にまとまった数の兵士はおらず、一時的であれ陣地に殺到されるのは時間の問題だった。

 そしてそれは、線状になった陣地群に綻びを作りだす事となる。


「軍曹、機関銃の射撃を再開させろ。また、可能ならあそこの兵を救援だ。魔術兵と衛生兵、それに予備隊から必要な数を連れていけ。それと、射撃の再開が無理な場合、即座に報告しろ」


「了解しました。機関銃陣地の再射撃と救援に向かいます」


 命令を受けるや予備隊の一部指揮を任されていた中隊専任軍曹は、すぐにも行動を開始する。

 一方で中隊長は、「機関銃の射撃の再開が無い場合、手榴弾を一斉投擲し敵の突入を阻止する。準備させろ」と別の兵士に命令を出していた。


 そして機関銃陣地の救援と射撃の再開を託された軍曹が連れて行くのは、衛生兵と魔術兵を含めて7名。

 腰を曲げ姿勢を低くし、それでいて素早く救援へと赴く。

 問題は指示された陣地。視認した限りでも、陣地が半ば崩れ敵の側で敵の銃撃が壕の一部に撃ち込まれている。

 

「伍長、術で何秒防げる?」


「防殻術は10秒は確実です。15秒以上は期待しないで下さい。自分は消耗回避の事前命令で下がらねばなりません」


「10秒あれば十分だ。聞いたな。まず俺と伍長が飛び込む。後続は伍長の術の影から入り、銃撃再開を図る。衛生兵は銃撃再開に邪魔な負傷兵を壕まで引っ張れ。行くぞ!」


 軍曹が説明する間に、魔術兵の伍長が腰の革帯に付けられた革鞄から複雑な文様や文字が描かれたカードを取り出す。

 そして何か念を込めるような仕草を見せると札が淡く光り、直径2メートルほどの半透明の何かの殻や膜のようなものが形成される。本来は視認できない術だが、こうした場合用に他の者が視認できる細工がされていた。

 そして殻に銃弾が命中すると弾かれる。


 魔術兵が多用する一般的な防殻術で、小銃弾やある程度までの砲弾の破片や爆風を防ぐ事が可能だった。

 ただしかなりの魔力を必要とし、一般的な術者だと1日に合わせて数十秒展開するのが限界とされている。


 天狗エルフ魔人デーモン系の種族など、魔力豊富な場合はより硬く広くでき、長時間の使用も可能だが、それでも術があるとないとでは大違いだった。

 事実、鉄板のように銃弾を弾き、その影で兵士達が負傷した友軍の兵士の救援作業を行い、それまで銃撃を受けていた元いた兵士達と共に機関銃の射撃再開を試みる。


「こいつとこいつは交通壕に。あっちはもう駄目だから、そのあとで」


 魔術兵とは違う応急処置のための治癒用の札を負傷した箇所に貼り付けつつ、衛生兵の徽章と腕章を付けた兵士が他の兵士達に矢継ぎ早に指示していく。

 治癒用の札は、貼り付けられた者の魔力に反応して淡く光り、貼られた箇所を中心に魔力の反応が強まる。

 その傍らで、軍曹と元から塹壕にいた兵士数名が、機関銃の再射撃を急いだ。


「あと5秒保たせて下さい。射撃を再開します!」


「だそうだ、伍長。行けるか?」


「10秒保たせます!」


 近くの崩れた土嚢を積み上げ直しつつの軍曹の声に、魔力を消耗して少し苦しそうな魔術兵が健気に返す。

 その後ろでは、2人一組で負傷兵を安全な交通壕へ移動させ、早い者は移動を開始している。そして戦死者も交通壕に移したその時、軍曹が心の中で4つ数えた時、機関銃の頼もしい射撃音が壕内に響く。


 勇敢な青鼠色の兵士達が陣地前面の斜面を登りきるまで、距離にして2、30メートル。なまじ近すぎたので多数の兵士が一斉に倒れ臥す。

 加えて、周りからの援護射撃も危機を感じ取って強まり、半ば破壊された機関銃の掩体壕が陥落する危険性は遠のいた。


 一方で機関銃陣地の側の交通壕は、緊迫した状況が続いていた。その中心の衛生兵が、矢継ぎ早についてきた兵士に指示を出したり処置をしていく。


水薬ポーションは飲めるか?」


「そっちは担架を持って来させる。負傷者の左腕がないから運びにくい」


 そんな衛生兵だが、他国とは違っていた。

 どういう経緯か歴史上でも分からないが、昔から世界共通で用いられる白地に赤い十字の腕章を付けているのは同じなのだが、用いている道具や方法が近代医学とは違っていた。


 基本は応急処置用のカードを用いる。これを傷口、患部に当てて負傷者の魔力を用いて止血する。もしくは水薬。飲むもよし、綿紗ガーゼや綿で染み込ませて傷口、患部に当てるもよし。これも主に止血に使われる。

 他国、というより魔法を使わないか軽視している国の衛生兵と同じなのは、包帯、綿紗、綿、あとは消毒液くらい。

 それ以外の道具は魔法由来のものばかり。針と糸は持っていない。

 負傷者の診断も、目視や触診もするが主に身体状況を調べる魔術を用いる。


 応急処置用の札(呪符)や水薬は、すぐに傷が回復、治癒するというほどの即効性はない。だが、大きな動脈を傷つけたり、余程大きな傷でない限り、短時間で簡単に死なない程度の止血と場合によっては傷口を塞ぐ程度の治癒効果が得られる。

 内臓が傷ついたり腕や足がもげていても、止血だけなら何とかなる場合が多い。


 それに、より酷い傷の場合は、希少性から術医や上級指揮官の使用許可が必要な霊薬エリクシルが使用される。

 霊薬にも様々な段階があるが、治癒効果の低いものでも即効性と高い治癒効果が得られる。

 また道具を使わずとも、衛生兵自身が簡単な治癒の魔術を使える者が一定数いる。


 そして負傷兵を運べる程度にするか、運んでも死なない程度に処置が済むと、後方の野戦病院へと送られる。

 野戦病院には高度な治癒の魔術が使える術医がいて、本格的な治癒が施される体制が取られている。

 さらにより治癒効果の高い水薬、霊薬が準備されている。

 加えて近代医療の治療手段も用意されており、負傷者や病人の状況に応じた様々な治療、治癒が行われる。


 そうした治療、治療の体制なので、負傷者となっても応急処置さえ間に合えば死ぬ可能性は非常に低かった。

 しかも体に欠損が出来ても、小さな欠損程度なら野戦病院で、手足や内臓を失うなどの大きな欠損でも後方の病院での、時間をかけた再生魔術で完治できた。

 治癒魔法の弱点は病気関連だが、それでも近代医療より高い治癒能力、対処方法がある。加えて、水を清浄化する魔術に始まり様々な清浄化の魔術があるので、魔術があるとないとでは大きな違いがあった。



 そして最前線から少し下がった安全な場所に設置された野戦病院には、次々と応急処置された負傷者が運び込まれていた。

 しかし、他国の野戦病院とは大きく違う情景だった。

 似ている国や地域を探すなら、魔法が盛んな国しかない。


「もう痛みが殆どない? あれだけの傷だったのに……」


「気がつきましたか。あなたは魔力がないので札は使えませんでしたが、水薬がうまく効きました。銃弾は既に除去し破片などもありません。傷には最初に治癒術を施しています。魔力がないと多少時間はかかりますが、1週間もすれば完治するでしょう」


 寝かされた負傷者の間を忙しそうに動き回る天狗の女性の術医は、疑問を口にした兵士に話すと足早に次の場所へと歩き去る。

 疑問を口にしたのは、敵陣に踊り込むも大きく負傷して捕虜となったタルタリアの兵士。かなりの熟練兵で毛むくじゃらな大男だが、右の肩と腕に大きな傷を負っていた。普通なら死んでもおかしくないと、当人が感じたほどの傷だ。

 だが、負傷して捕虜となり応急処置を受け運ばれ、監視の兵付きだがこうしてアキツ兵と変わらぬ魔術を用いた治療を受けられた。


 また、彼のいる大部屋には、同じ境遇の負傷して捕虜となったタルタリア兵が多数いた。

 中には肘から先の腕を無くしたり、他にも大きな傷を受けた兵士が横たわっていた。だが、熟練兵で他の戦場、野戦病院を知る彼から見れば、凄惨さや悲惨さはない。

 消毒液や血の匂いはするが、負傷者のうめき声も聞こえてこない。


 負傷兵達は落ち着いて横になっており、軽い痛みを訴える者がいる程度。

 痛みまで魔法の技で消すのは難しいが、応急処置から治癒に至るまでの状況が彼の知る医療とは違いすぎて戸惑いそうになる。

 そして彼は痛感させられた。


(これが将校連中が馬鹿にしてた魔法の力か。なんてこった。……この戦争、俺にとってはもう終わりだが、我が国は勝てるのか?)


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