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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第二部「極東戦争編(1)」

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087 「平原への再展開」

「状況は分かりました。タルタリア騎兵が押して来ない限り、我々は騎兵の支援を命じられております。まずは野営地の設営に入ります」


「了解です。他の連隊へは?」


 甲斐達が第11騎兵連隊の連隊長とその副官から平原での現状を聞き終えると、半ば雑談の時間となった。

 部隊同士のこうした雑談という形での非公式の情報交換は、それぞれの生存率を上げる為にも欠かせないものだった。


「待機中の第9騎兵連隊へは、野営地設営中に挨拶に伺う予定です。この乗り物は、あまり見せて回るものでもありませんので」


「移動方法は素朴というか単純ですが、地面から浮くというのは凄いですね」


「それに1台当たり最大10トン程度積載出来るので、輜重いらずで身軽ですよ。荷下ろしは自分達でしないといけませんけどね」


「10トン。それが5台、いや5艘ですか」


 どの程度の物資を実際に運べるのか、田中騎兵大佐が目算するような表情で少し離れた場所の物資を満載した『浮舟』を見る。

 兵士1人当たり、1日に6から7キログラム程度の食料、飲み水などを消費する。水が現地調達できても、食べ物だけで1日2キログラム程度を運ぶ必要がある。そうしたところから、目の前の物資の量が分かればどの程度の作戦を予定しているのかが見て取れる。

 もっとも、甲斐の口は田中騎兵大佐が思ったよりも軽かった。


「実際は7トン程度ですね。おかげで弾薬や食料に加えて、大型の天幕など色々積んでます。米や乾パン、缶詰の量を考えると、半年は帰ってくるなと言われているようなものですよ」


「ハハハ。それは自分らもです。まあ、冬までには、この辺りにも友軍が溢れて欲しいものです。ですが合わせて35トン。それに兵員輸送用にも色々と積んでおられますね。実際にはどの程度の物資で、どれくらいの活動予定ですか?」


「物資の量は、合わせて駄馬400頭分くらいでしょうか。確か1頭当たり90キロくらいでしたよね」


「そうですね。駄馬の背には、荷物によりますが最大で90キログラム程度載せます。騎兵が言っては駄目なんですが、可能なら馬車を連れたいところですよ。まあ、この辺りは馬が食べる草には不自由しないので、飼葉を運ぶ手間がいらず助かりますが、雇った遊牧民と合わせて1000人。身軽で羨ましい」


「大隊と言っても支援を入れて90人ですからね。荷物のかなりも、弾薬、爆薬、それに魔法関連の道具なので、実際の活動予定期間は最大で4ヶ月です」


「つまり上は、秋までにケリをつける目算なんですね」


「どうでしょうか。我々は色々な事をさせられます。戦況によっては予定より早く引き上げ、別の任務を命じられるという可能性もありますね。開戦してからこっちも、移動ばかりです」


「移動ばかりと言われるが、騎兵を輜重込みで3000騎を各個撃破で殲滅したと聞いています。今回も期待させて頂きますよ」


「我々としては、敵が出て来ない事を祈ってますよ。その方が楽でいい」


「ハハハッ、違いない。それでは!」


「ええ、それでは!」




「やっぱり、騎兵は騎兵だな」


「と言うと?」


「気概というか気質が」


 『浮舟』で移動しつつ、大隊本部小隊の司令部型内に設けられた作戦室で、甲斐と鞍馬が半ば駄弁っていた。

 『浮舟』の移動中の操作は第4中隊の兵が交代で行うので、乗っているだけの大隊長、大隊副長は正直暇を持て余していた。


 周囲の警戒も、司令部型の屋根の上で本部小隊に属する朧と吉野が行なっているので鞍馬もする事がない。今後の方針を話し合ったり確認したりするという名目で、甲斐と駄弁っていた。

 他の将兵としては、ただ移動するだけで何事も起きないのなら、こんな時くらい忙しい上役が多少は楽をしていても構わないという程度には思っているので、それに甘えている形でもあった。


「気質? アキツ以外だと勇敢だが気が早いかしら?」


「歩兵は忍耐強いが命じないと動かない、砲兵は正確だが文句が多い、でしたっけ? 僕らはどうなんだろう?」


「蛭子の兵士は気質と言えるほど数がいないし、アキツだけだからそういうのは無いでしょう。それよりアキツの騎兵も、他国と同じって言いたそうね」


「アキツじゃあ日陰者とか言われるけど、僕には同じに見えるなあ。もっとも、僕らは敵騎兵を戦闘すらさせずに殲滅してきたから、何かを言える立場じゃないだろうけど」


「そうね。それじゃあ、今までの戦いと違って、騎兵と昼間に戦闘状態で鉢合わせたらどうする?」


「事前に何度も話したでしょう。移動可能なら戦闘は避ける。でも」


「でも?」


「今回受領した『浮舟』なら、逃げながら機関砲で反撃できるから、状況次第では戦闘を挑もうかと考えています」


「……」


 甲斐の言葉を受けて鞍馬は甲斐を見つめつつ沈黙するが、頭を高速回転させて考えを進めている表情だと甲斐はよく知っていた。


「答えは出ましたか?」


「多分同じ答え。でも、意見の擦り合わせをしましょうか、大隊長殿」


「うん、そうしよう。大隊副長。出来れば訓練の算段も」



 そして二人が議論したり、紙面や地図で検討などしているうちに、先ほど会った騎兵に聞いた野営に向いた場所に到着した。


「大隊ちょー、目的地が見えたよー。って、少しは休んでりゃあいいのに仕事熱心だね」


「そこがお二人の良いところです」


 天井から降りてきた朧と吉野に言われ、二人とも小さく苦笑で返すしかなかった。

 だが、二人が考えた案を叩き台に、大隊各員が野営地を設営している間、各中隊長ら幹部を集めての事情説明と、今後の訓練案の話を行なった。


「機関砲は要塞や陣地用の防御火器と聞いていますが、陣地防衛以外に使われるのですか」


 第2中隊を預かる山犬の獣人ビーストの嵐が、やや疲れたような調子で説明への半ば質問を返す。

 そうすると、他の幹部達も鞍馬以外は甲斐の言葉が欲しいという表情などを見せる。

 だから甲斐は頷き返しつつ口を開いた。


「『浮舟』に搭載されている上に水平での旋回も可能。防弾は自前になるが、陣地が移動しているようなものだろ」


「『浮舟』を水平に安定させつつ動かす訓練をした方が良さそうですなあ」


「磐城と第一中隊は、黒母衣の習熟と運用に力を入れてくれ。訓練は他の中隊で行う。場合によっては、機関砲は黒母衣の支援に使えるかもしれないから、その辺りも確かめておきたい」


「了解しました」


 緑の大鬼デーモンの磐城が、真面目なのに愛嬌を見せるギョロ目顔で敬礼まで返す。それに頷きつつ、他の中隊長へと顔ごと向けていく。


「天草の第4中隊は、搭載していない機関砲も合わせて運用するから、陣地戦と移動の双方の訓練を。第2、第3中隊は、移動しながらの射撃訓練の中核となってもらう」


「伏撃訓練は?」


 伏撃は第3中隊の得意とする戦法なので、山猫の半獣セリアンの不知火がネコ科らしい糸目のまま面倒臭そうな口調で問うも、甲斐は首を横に振る。


「機関砲の有効射程を考えると、従来の伏撃との併用には向いていないだろう。幻影術で最初は隠れて、そこから射撃するという類の伏撃は行う場合があるだろうが、恐らく機関砲の斉射だけで戦闘は終わる。何しろ分発500発だ。それを遮蔽のないところで6丁も浴びせられみろ」


「僕らでも多くの者が蜂の巣にされそうだ。了解しました」


 軽くおどけながら不知火が返すが、他の幹部達も納得顔だ。それを見つつ、甲斐は第4中隊を率いるオーガの天草の方へ向く。


「機関砲運用は第4中隊を中心とする。他の任務を圧迫するだろうが、そこは可能な限り他の中隊で補う。他の中隊も、その前提で行動するように。それとだ」


 そこで一区切りをつけ、視線を横に立っている鞍馬に向ける。

 そして鞍馬が軽く頷き、言葉も継いだ。


「『浮舟』移動中の運用は、あくまで実験的と考えるように。機関砲は敵を待ち構えて使う事になるだろう。野営地設営でも、機関砲を要所に配置するなど留意するよう」


「以上だ」


「ハッ」


 そうして甲斐達蛭子衆第一大隊は、野営地の設営、新装備の訓練をしつつの友軍騎兵の支援という動きを始めるも、その後数日は平穏だった。

 その一方で、大黒竜山脈の山岳要塞では大規模な戦闘が発生していた。


 

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