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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第一部「極東戦争開戦編」

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054 「謀略阻止の始末(1)」

 いつしか喧騒と悲鳴は聞こえなくなっていた。

 殺戮と言える一方的な戦闘は、時間にすれば僅かな時間でしかない。

 そこからさらに短い時間が過ぎ、静寂が訪れた。


 生き物の気配があるとすれば、主人を失うもその場にとどまった馬のもの。その馬達の大半も、どこかに逃げ散りつつある。

 しかしその殺戮現場に、一人だけ立っている影があった。

 その影は戦闘の最後の瞬間に突然のように現れ、最後の一人を赤い刀身で切り裂いた。


 そしてその影は、最後の一人の絶命を確認すると、周囲を油断なく確認してから抜き身の刀を鞘へとしまう。

 だが影は影ではなく、襲撃者と同じ黒装束だった。というよりも、黒に銀をあしらった派手めなアキツ陸軍の軍服。各所には特務大佐の徽章が施されている。

 鞍馬だった。


 天狗エルフなので十分夜目が効く鞍馬は周囲を観察して戦闘が終わったと確認すると、一瞬だけ眉間にしわを寄せ深い憂いの表情を浮かべる。

 だがそれも一瞬のことで、ゆっくりとした拍手と共に別の人影が姿を見せると、毅然とした表情を向ける。

 視線の先の人物は、襲撃者達と違って黒い軍服は着用していない。動きやすそうな野外着と言える服装と、頭の上に耳を持つ半獣セリアンの女性だった。


「メグレズが言っていた以上の化け物ぶりだな。しかもあんた、全然余裕だろ」


「我々は、亜人デミ同士で戦い続けてきた歴史がありますから、相手をするのに慣れているだけです。でも、あなたも相当だと思うんですけれど? アリオト殿」


 黒髪の天狗の鞍馬が言葉を返すが、イヌ科の耳を持つアリオトは軽く肩を竦める。


「その髪の虹彩と魔力、本当は大天狗ハイエルフだろ。しかも蛭子デビルの。俺じゃあ歯も立たないよ。だから黙って見ていただろ」


「それがお役目だからでしょう。もっとも、さっきまで今にも動き出しそうに見えましたが?」


「突っかかるなよ。そもそもこいつらの部族は裏切り者で、俺たちの仇だ。見届けに徹したのは、むしろ褒めて欲しいくらいだ」


 アリオトが、血の海に沈む死体に憎しげな視線を向ける。だがそれも一瞬で、おどけた態度に戻る。


「はい。お役目ご苦労様です。あなたの主人ポラリスは相当な人物の様ですね」


「俺の恩人だからな。言う事は聞くさ。そして今回はメグレズの連絡を受けた、連絡人とこの一件での見届け人だ。それより、俺たちの言った通りだっただろ」


「はい。我が国の名誉はこれで守られるでしょう。深く感謝します。それに捜索の協力も感謝します。アリオト殿のお陰で、完璧に待ち伏せできたました」


「ついでに信頼してくれても良いと思うんだが?」


「それを判断するのは、取り敢えずは我が大隊長。それに我が軍と我が国。私は報告するだけ。ですが、正しく報告、助言させて頂きます」


 そう言って鞍馬は、大隊主力がいる辺りへと視線を向ける。それにつられてアリオトも顔ごと視線を向け、そして口元を歪めた。


「まあ、頼むわ。だがよお、あんた達の隊長さんって、あんた以上なんだろ。どんだけ化け物なんだよ。もう、あんたらだけで、タルタリア軍を殲滅できるんじゃないのか?」


「そうですね。体の魔力が常に保たれ、疲れる事もなく、傷もつかず、お腹も空かず、喉も乾かず、眠る必要もなければ、それも可能かもしれません」


「アハハハ、もう化け物を通り越えているな。それより、今更だが全員殺して良かったのか?」


 アリオトに聞かれ、鞍馬は視線を自らが作り出した血の海へと戻す。


「この場の者は。情報収集の為に、大隊長達が何名か捕らえる手筈です。ですが、我が軍だと偽った時点で全員処刑で構わないんですけどね。近代の法の上では、軍人ではなく犯罪者ですから」


「情報ねえ。こいつらが持っているとは思えないが?」


 アリオトは他にも思うところはあったが、聞きたいことだけ口にした。


「いざという時に、何かしらの証言をしてくれる人が必要なんですよ。それより、知った顔はいましたか?」


「どうかなあ。スタニアって言っても随分と広いからな。ただ、ここに知った臭いはない。多いところに行こうぜ。向こうならいるかもしれない」


「そうしたいところですが、今回は遺体は全て回収しないといけません。『何事も無かった』のですから」


「そう言えばそうだったな。じゃあ待つか。死体は逃げはしない」


 そう言ってすぐ二人が視線を向けたところで、鞍馬が使役している式神が遺体の一体に噛み付く。半獣は頑健なので、完全に殺して回っていた。



 そうして女二人が血の海のそばで少し待つと、追撃していた部隊の一部が追いついてきた。彼らは、念の為取りこぼしがないか周辺の捜索を行っており、その途中で一部が追撃も兼ねた形で鞍馬達の元へやってきたようだった。

 鞍馬に声をかけたのは、第2中隊長の山犬の獣人ビーストの嵐だ。

 感情の抑揚が少ない嵐だが、心なしか普段よりも意識が高揚しているように見えた。


「ご苦労様、第2中隊長」


「大隊副長こそお疲れ様です。それにしてもお見事です。的確な退路の遮断に加えてこの数の短時間での殲滅。我が『探りの第2中隊』は形無しです」


「足止めを命じられていただけなのに、戦果をとったみたいで悪いわね」


「はい。いいえ。我々の面倒ごとが一つ減って助かりました。すぐにも『浮舟』が1台追いつくので、死体回収は第4中隊が。我々は周辺の捜索を続行します」


「了解。では私は、このまま待ちます」


 互いに敬礼をかわし、数名の軍服は来た時と同じように常人にはありえない動きで、その場から姿を消していった。

 

 連絡の方は、先に魔術の『念話』で既に行ってあったので、確認するとそのまま捜索を続けるべく鞍馬達を追い越していった。

 そしてすぐにも嵐の言葉通り、『浮舟』が1台、兵士達と共に到着して素早く周辺の死体を回収していった。

 鞍馬とアリオトはそれを見届けてから、回収班と共に大隊本隊のいる場所へと移動する。



「以上、報告終わります」


「うん。任務ご苦労。アリオト殿も、捜索の協力並びに見届け感謝します」


「感謝されるのはまだ早い。こっちのも見せてくれ。何となく、覚えのある臭いがある」


「では早速。曹長」


「ハッ。アリオト殿、こちらへ」


 一人異なる服装のアリオトが、死体を山積みにした『浮舟』へと案内されるのを甲斐と鞍馬は見送る。

 10代の頃から実戦経験のある二人にとって、自分達が作り上げた地獄絵に感情を動かされたりはしない。訓練されているのもあるが、実戦を何度もくぐり抜けて来たからだ。


「第2中隊が捜索しているが、念の為だ。吉野は漏れはないと言っている」


「はい。魔力と臭いで追うのは鉄則かと。今回の任務は、一人も逃すわけにはいきません。それで捕虜、いえ、逮捕者は?」


「小隊長級を1名、下士官級2名、他重傷者数名。全員負傷しているので治療させている。霊薬エリクシルも使わせた。死にはしないだろう」


「霊薬まで?」


 霊薬は非常に治癒力が高く即効性もある。だが反面、生産が手間で費用もかかる。各部隊への支給数も少なく、高度な治癒魔法が出来ない場合の切り札とされ、場合によっては命綱とすら言われる。

 また一方では、魔力を持たない只人ヒューマンに対しても大きな効果があるのが特徴だ。


 それほど貴重で重要なので、甲斐は副長への報告を兼ねてあえて口にしたし、鞍馬も非難と言わないまでも口に出したくなるのは仕方ない事だった。

 だが甲斐は平然としている。


「生き残った者には、それくらいの幸運があっても良いだろう」


「……そうかもしれませんね。ですが半獣なら、術も有効ですし治癒の札でも対応できたのでは? それに第4中隊の術医は?」


「術医の手が足りなかった。何人か傷の酷いのがいてな。手足のない者もいる。もしかしたら、後送した後で再生してもらえるかも知れないが、それ以前に死なれたら手加減した意味がない」


「そうでしたか。それで、こちらの損害は?」


「戦死者なし。ごく軽い軽傷が数名。全員、3級の治癒札か簡単な治癒術で事足りる程度。明日には傷跡も消える。総員戦闘可能」

 

「当然でしょうな。止まった騎兵など歩兵以下。しかも半獣だけの騎兵など、特性を殺さんばかり。連中、我が軍の何を調べたんでありましょうな」

 

 二人のところに来たのは、当面の仕事を終えたらしい磐城。彼の率いる第1中隊も、今は第3中隊と交代して待機に入っていた。

 

「だが160名の半獣の騎兵相手にほぼ無傷。それに大隊副長は、撤退中とはいえ全速移動中の騎兵十数騎の相手。改めてよくやってくれた。退路遮断を君に任せて正解だった」


「恐縮です。ですが、最後までこちらの気配すら捉えられない相手だったので、正直拍子抜けです。アリオト殿からは、スタニアの草狼族は強いと聞いていたのですが」

 

「槍の使い方はまあまあでしたよ。もっとも、大隊長相手では振るう間もなかったようですが。ところで大隊長、この短期間にどんな訓練を?」


 それが聞きたかったんだろう。磐城は強面の顔に興味津々の表情を浮かべている。

 ただ、甲斐は軽く首を傾けた。



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