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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第一部「極東戦争開戦編」

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019 「閣議(2)」

 その日の甲斐は、休暇中ながら黒を基調とした他より少し派手めな軍服を着用し、竜皇の住まう竜宮のそばにある政府施設に来ていた。


 もっとも、甲斐の属する『蛭子』と呼ばれる『忌み子』を集めた蛭子衆、正式には『太政官特務隊』は、その名の通り太政官、つまりこの国の首相直属の組織だった。

 軍服が他と違うのものその為だ。

 形式上、蛭子は国ではなく『竜皇』に仕える軍人だが、太政官が『竜皇』の代理とされている。

 蛭子が『竜皇』に仕えるのは古来からで、政治と軍が近代化されて以後も維持されている形になっている。それは彼らが近衛ガーズではなく、裏もしくは陰の存在だからだ。


 当然甲斐も太政官を上官としており、この建物には何度か足を運んだ事があった。それでも、直接太政官と会ったり話した事はない。太政官を補佐する者などから、何かしらの命令や話を受けるのが精々。しかも余程のことがない限り、蛭子衆の長から命令を受け、話を聞く。

 この為、階級章の下地の色は竜の配下を示す緑になる。


 もっとも、巨大な政府や軍の組織から見れば、特務大佐と言っても木っ端軍人に過ぎない。しかも蛭子は日陰の存在。不満を持たないように給与や待遇は良いが、それだけだ。

 だから甲斐も、政府、軍首脳が集まる閣議への参加は初めての事だった。

 だから参謀総長の後ろの席でまずは人物観察をと考えていたが、すぐにもお鉢が回ってきてしまった。


 先日の参謀総長との話とこの場の雰囲気から考えて、お茶を濁すような事はできそうにもない。

 また、主な参加者がどんな人なのか全く分からないので、空気を読んで合わせると言った事も難しかった。


 だから「了解しました。参謀総長閣下」と返事とともに壁際に置かれた椅子から立ち上がり、半歩前に出るも誰にも視線を向けずに前だけを見る。

 半ば法螺を吹くから証拠の紙面などは用意していないし、閣僚などを見回すのは失礼だから前を向くしかない。視線も、緩やかに遠くの天井に向ける。


「我々特務の選抜隊は、10月中旬から11月中旬にかけ、タルタリア領内の三日月湖を中心とした地域に対して長距離偵察を実施。主に、現地での鉄道敷設の状況を調査しました」


 そう言って始めた『報告』は、多くは見てきたままだった。しかし、先日の報告書の内容では閣僚の心に響かないと参謀総長が渋い顔をしたので、この場での『報告』は響く程度に話を盛った。

 国家中枢での閣議で、そんな事をしてはいけないのは当然なのだが、参謀総長だけでなく太政官も認めている以上、しないわけにもいかなかった。


 なお、この件で問題が出た場合、参謀総長が責任を取ると言ったが、何かあれば自分が切り捨てられるだろうと甲斐は見ていた。

 それでもするべきだと考えていた。

 甲斐は特務と名は付くが軍人だし、生まれてから今まで国に養われてきた。過分な禄も受けている。それに古い時代の考え方もある程度は持っていたので、尽くして当然という気持ちが強かった。

 だから全く法螺を吹いているという良心の呵責かしゃくも感じさせず、淡々と話し続けた。

 主に語った内容は、おおよそ以下の通り。



 タルタリアが大陸横断鉄道の敷設を急いでいる。

 鉄道工事促進の為に、現地もしくは国内の半獣セリアンを労働力として大量に動員している。

 冬になろうというのに工事は続いている。

 冬の間に周辺施設を含めて多くが完成する可能性が高い。

 アキツとの境界線まで完成する可能性がある。

 すでに機関車や車両が大量に運び込まれている。

 機関車はゲルマン製。ゲルマンが深く関わっている可能性が高い。

 兵士はともかく、物資の輸送は既に始まっている。



 要するに、春までにはタルタリアは国内の大陸横断鉄道を完成させ、アキツとの戦争に備えることができるというものだった。

 大半は事実を含んでいるが、誇張が含まれていた。

 しかもまだ行われていない事、つまり嘘もあった。


 そして甲斐が話終わると、参謀総長の周防スオウが補足説明として、春にタルタリアが限定的な戦争準備を終える可能性が高いと別方面の情報から指摘。

 さらに甲斐達も関わった、タルタリア側のアキツ領内での情報収集活動についても話を膨らませて伝えた。


 そしてこれを、同じ軍人の兵部卿の叢雲ムラクモ、実戦部隊を預かる総軍司令官大隅オオスミは否定しなかった。それどころか、肯定的な態度や雰囲気を見せている。

 好戦的と言われる赤鬼の大隅などは、今にもアキツから先制攻撃をするべきだと言いそうな程だ。

 そしてそれを老練で知られる叢雲が視線で押さえつけている、という演技すら見せていた。

 軍上層部の意志は統一されている証拠だと、話し終わった甲斐は見た。



「ちょっといいか。特務大佐に聞きたい事があるのだが」


 軍の側からのタルタリアの戦争準備について報告が終わったところで、質問が始まる。

 そして当然というべきか、最初に話した甲斐に白羽の矢が立つ。


 聞いてきたのは大蔵卿の山彦ヤマヒコ

 がっしりとした体躯ながら非常に短足という、いかにも多々羅(ドワーフ)といった外見と容姿の持ち主ながら、頭髪が後頭部の下の方ともみあげくらいしか残っていないのが玉に瑕という風貌だ。

 だから頭を逆にすれば自慢のヒゲが頭髪に見えるのではというのが、彼の悪口を言う時の定番だった。


「報告書は後で読ませてもらうとして、汽車などはどんな機材を使っていた? 儂が聞いた話では、ガリアがタルタリアに随分金を貸し出している。良い輸入車両を使ってなかったかね?」


「ゲルマンの最新型機関車がありました。それも多数」


「正確な数は? いや、それはいい。見た時の数を聞いたところで、あまり意味がなかったな。交易関連で商務省にでも調べさせよう。それにしてもゲルマンの最新型か。あれは相当馬力があるぞ。しかも石炭で動くやつと、勾玉ジュエルで動くやつがある。タルタリアが使うとなると、勾玉の方だろうな。厄介だぞ」


 金の事を推測したかっただろうに、技術に目が向いてしまうのは多々羅のさがというものだろう。

 彼ら多々羅は世界各地にいて、どこでも職人や技術者、科学者として暮らしている。特に石と金属に目がない。そして近代科学文明の担い手として様々な文物を発明し、作り上げてきた。


 山彦大蔵卿も、変革以前から造幣に携わってきた延長で金融を学び、そして大蔵卿に上り詰めたという経歴を持つ。アキツばかりでなく世界中探しても、彼より造幣に関して詳しい者、優れた技術を持つ者はいないと言われている。

 そして趣味も機械いじりだというのだから、徹底度合いが窺い知れる。

 質問の後も、半ば独り言で鉄道の技術面の事を呟いている。大声で言ったり、他者に聞かせないだけの分別があるとも言えるが、隣の席のものは少し迷惑げだ。


 そんな大蔵卿を半ば放置して閣議は進む。

 次に小さく挙手したのは、伯耆ホウキ民部卿。

 甲斐と同じくオーガ出身で、鬼としては既に老齢にさしかかっているが、この閣議に出席する首脳陣の中では年齢的には若い方だった。


「非常に素人意見で申し訳ないのだが、鉄道の話がそこまで重要なのだろうか」


「それはわたくしも聞きたいと思っておりもうした」


 続いたのは、白狐の獣人の東雲シノノメ神祇卿。

 今回出席した閣僚の中で唯一の女性。しかし他の種族から見ると、男女の違いがわかりにくい獣人ビースト。さらに言えば年齢も分かりにくい。経歴から200歳くらいだと言われるも、300年以上生きているという噂もあった。


 また出席者の中では、恐らく最も高い魔力量を誇ると見られていた。その証拠に、伝説の存在に匹敵する数の尻尾を持っている。獣人は魔力の量で尻尾の数が増えるので、魔力の高さは一目瞭然だ。

 このため蛭子との噂があったが、当人は肯定も否定もしていない。少なくとも、祭祀を司る神祇省を預かるに足るだけの魔力と知識、そして魔術の技量を持ち合わせている事は間違いなかった。


 本来はあまり閣議に参加しないのだが、『竜皇』に報告する立場にもあるので重要とされる閣議には顔を出している。

 ただ専門外の事には関心が薄く、仕事をしているのは後ろに控える顔を紙の面で隠した部下達だった。


 そんな二人の質問に、誰が答えるべきか一瞬の間がある。

 それを制したのは太政官の白峰シラミネだった。


「工部卿を呼ぶべきやろうけど、それやと時間がかかる。誰か詳しいお人はおるか? 多少雑でもかまへんで。せや、兵部卿が詳しいんやったか? 頼まれてくれるか」

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