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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第三部「極東戦争編(2)」

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168 「ボルジヤ会戦(3)」

 ・竜歴二九〇四年十月十日



 戦況は、アキツ軍、タルタリア軍双方にとって不本意なものだった。

 そもそもの齟齬は、10月8日午後にアキツ軍左翼後方で一部の騎兵が動き出したのが原因だった。


 アキツ軍としては、タルタリア軍の後方での破壊活動、特に移動中の竜の御子である三之御子襲撃を阻止する為の当然の動きだった。

 だがアキツにとって重要で大切な三之御子を守るべく、少し過剰に反応していた。


 前線から後方へ向けて、最初に動いたのは騎兵3個中隊だった。だがその後、さらに6個中隊が後方に侵入した敵の捜索を命じられて移動を開始。

 乾いた大地は、これらの騎兵の移動でかなりの土煙を上げる。しかもタルタリアが、アキツ軍左翼を迂回するべく西を大きく回ってきたので、秋津の騎兵も後方の南ではなく、西や南西に移動。


 その動きをタルタリア軍は、本格的な攻勢前の優位な位置を占める為の移動と判断。

 いや、誤断した。

 騎兵は本来の数よりも見た目が大げさに見える事があるが、この時も同様だった。


 タルタリア軍も、彼らから見て右翼の西側後方に配置していた騎兵部隊の移動を開始。

 アキツ軍が西ではなく、前進に当たる北へ向かわない限りは戦闘は避けようとしたが、移動だけなので大きく動くことになる。しかも動いた騎兵部隊は、1個師団、12個中隊。

 アキツ軍が動かした数よりも多かった。

 しかも騎兵の移動に連動して、騎兵が動いた戦線後方の配備地域の穴を埋めるべく、予備部隊の歩兵旅団の2個歩兵連隊が西側に移動を開始。


 そしてこれらの動きを、アキツ軍は半獣(セリアン)の高い知覚力や、様々な魔法による探知で掴んだ。

 半獣の知覚力は、近代科学文明の産物である望遠鏡や双眼鏡により只人(ヒューマン)以上に強化される。

 タルタリア軍は一部に国内のスタニア出身の半獣を用いているが、国民全てが亜人(デミ)のアキツが圧倒的優位にある。

 さらに魔術の中にも知覚力を高めるものがあるなど、その差はさらに大きい。


 だからこそアキツ軍は、いち早くタルタリア軍の動きを掴んだ。一方で、自分たちの小さな動きが発端だとは気付けず、タルタリア軍が先んじて動いた事に少なくない混乱が見られた。

 しかもアキツ軍の攻勢前日だったため、混乱は大きかった。

 最も混乱したのは、アキツ軍の総軍司令部だった。


「やはり、先に動かれたのが痛いな」


「はい。戦線は平原地帯の西へ伸びるばかり。タルタリア軍が先んじている上に騎兵が多く、北に伸ばせません」


 大隅大将と北上中将が、いつものように地図を前に相談する。周りでは参謀達が忙しげに動いているが、戦況の進展が見られないので半ば雑談をしているようなものだった。

 だが、打開策を探すのが参謀長の、決断するのが司令官の任務だ。

 北上中将が、指示棒を動かし地図上を示していく。


「一方で、戦線右翼の東側は緩やかとはいえ山地。しかも前進するには、強固な野戦築城に陣取っているタルタリア軍を撃破する必要があり、地形も考えると迂回や戦線を伸ばすのは非常に難しい状況です」


「うん。だからこそ、右翼を軸に中央で圧迫しつつ左翼から包囲していく、というのが作戦の基本だったな。だが既に成立しない」


「はい。現状では、左翼で牽制して戦線を伸ばして全体を薄くし、中央突破を図る方が成功する可能性は高いでしょう」


 「フム。それも悪くないな」。顎にごつい手をあてつつ、大隅大将が北上中将を見る。



「総攻撃に転じ、御子様に加護をいただくか? タルタリアが先に動いたせいで初手で加護をいただくわけにもいかなくなったからな」


「その策を行われるなら、魔動甲冑も投じるべきでしょう。ですが、今ではないと考えます。予定通り第1軍を待つべきです」


 一つの雑談の結論が出そうにないので、首を傾げてから「そういえば」と大隅大将は続ける。


「そうだなあ。……そういえば、特務の連中は敵戦線の後方にどうやって抜けた? 幻影の術でか?」


 問われた北上中将は、「少々お待ちを」そう言って手元に置いていた書類をすぐに探し出す。


「何より少数です。浸透したのは、蛭子のみ合計84名。総員が4級以上の術が使え,夜目も効き、何より身体能力が他者を懸絶しています。夜間のうちに、徒歩というより走り抜けています」


「ハハハハッ、力技か。流石は蛭子と言ったところだな。それだけ出来て、偵察に使うのが精一杯とは勿体無い話だ。だが、御子様の護衛は大丈夫なのか?」


「三之御子の警護には、神祇省の護衛以外に特務旅団の本隊と海外領から派遣された蛭子が当たっています。場所もこの総司令部の近く。結界も十分に展開済み。念の為、観戦武官と海外記者の滞在地区からも離してあります。問題はないかと」


「そうだったな。だが、タルタリアが早々に目を付けて、あまつさえ移動中を襲撃してくるとはな。だが、もうその余裕はあるまい。……よしっ! 特定箇所に攻撃を集中し、敵の戦線に綻びを作る。第1軍の状況次第で、明日に総攻撃を開始する。その際、御子様にお力をお借り頂く」


「はい。了解しました」



 一方のタルタリア軍は、アキツ軍の司令部ほど精神的なゆとりはなかった。

 なにしろ、単純な兵力差でアキツ軍に対して劣勢なのは明らかだった。しかも、一度崩壊した部隊をほぼ一から増援を受けて再建したばかりで、統一した指揮が十分出来ないでした。


 何より攻め込んだ先の大軍が、殆ど殲滅という形で失われている影響で、将兵の士気が十分ではなかった。

 半ば偶然に敵の機先を制したが、互いに敵の横、可能なら後ろに回り込むべく、戦線が不気味に西に伸び続けていた。

 そしてそれは戦力密度の低下を意味し、兵力の少ないタルタリア側に不利だった。


「現状は西への延翼運動以外、戦線は膠着か。参謀長、何か意見は?」


 総司令官のフョードル・ウダロイ上級大将が参謀長のナストーイチヴイ大将へと問いかける。

 判断材料を求めてのことだ。


「現状は敵12個師団に対し、我が軍は8個師団。陣地を十分に構築している我が軍が防戦する限り優位は崩れません。このまま、予備兵力を投じつつ戦線を維持するべきです。砲弾が切れれば、敵は攻勢が取れません」


「だが相手は魔物だ。疲れを知らんともいうぞ」


「一部の例外を除き、銃砲撃で倒せます。敵が砲撃を重視し、銃撃を恐れて突撃してこないのが何よりの証拠です」


「そうだな。しかし、前の戦いの終盤で登場した甲冑の化け物の部隊はどうだ? 銃撃、しかも機関銃すら通じなかったと報告にある。銃砲撃で防げるか?」


「情報が不足し、未知数です。これは春から夏にかけて、各所で出没して我が軍に多大な損害を与えた、謎の精鋭部隊についても同様です。なればこそ我が軍は、野戦陣地を入念に構築しました」


「そして今のところは上手くいっている、か。そういえば、我が軍の化け物はどうした?」


 自ら命じておいてと参謀長は頭の片隅で思うも、無表情のまま近くにあった資料を手にする。


「2日前の10月8日に、これより作戦開始するという伝令の報告が最後です。敵戦線の後方を大きく迂回したので、報告がないのは当然かと。ですが、未確認情報ですが、8日に一時的に敵の鉄道が不通になった可能性がありました」


「そんな報告もあったな。それに、前の戦いで見られた謎の大規模かつ広範囲の魔力感知もされていない。ゲルマンから高値で買った化け物は、上手くやったと考えるべきか?」


「現時点では不明です」


 ごく短く返答したが、本当に何の情報もないので答えようがない。それが分かっているウダロイ上級大将だが、皮肉げな口元のまま言葉を続ける。


「成功したのか、敵がそう見せかけて偽装しているのか、何らかの損害を与えたのか。情報提供者からも、何の情報ないのだな?」


「はい。これ以上はアキツ軍に察知される危険性が高いと、8日を最後に魔術による通信は行なっていないと聞いています」


 「耳長の臆病者め」。小声で侮蔑の言葉を吐いたウダロイ上級大将だが、すぐに意外に上機嫌な表情を見せる。


「まあ、化け物同士のことは今はどうでも良い。この巨大な近代戦争を楽しもうではないか」


 どこか他人事だと思う参謀長だったが、軽く頭を下げる。


(成功の報告がない以上、最悪の想定を考えねば。私の権限内で出来ることは進めておくか)


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