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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第三部「極東戦争編(2)」

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164 「魔物の襲撃(3)」

 タルタリア軍がアキツ軍の後方、アキツが最も密度の高い守りを固めていた存在に迫るも、潰えつつあった。

 人の手による化け物が難なく倒されているように思えたのは、相手が規格外の蛭子だったから。


 だがその化け物は、西方の只人(ヒューマン)にとって非常に脅威だと考えられていた。だからこそ、多少制御に問題があっても、化け物を生み出すのはゲルマンにとって金と手間をかけただけの価値がある為だ。

 しかし規格外の存在にまで及んでいなかったのが、今回の結果と言えるだろう。


「村雨旅団長より通信。接近中の魔狼(ワーグ)の集団の殲滅を確認せり。捜索を続行するも、他の集団は確認出来ず。また、魔狼出撃地点を発見。現在調査中」


「なーんだ。やっぱり皆んながやっつけちゃったのか」


 鞍馬の報告に、陽炎が両腕を頭に回してつまらなさそうに返す。

 既に3人は停車した列車の客車から出て、戦闘体制も整えている。他にも数名、守りよりも攻撃を目的とした護衛も各所に展開していた。

 そんな中、静かに佇む霞は目を閉じて真剣な面持ちのままだ。


「霞、何か感じるの?」


 客車の屋根の上で視界の隅で認めた陽炎が問いかけると、それで客車内の視線も自然と霞に集まった。

 もっとも霞は、目を閉じたままだ。

 鞍馬はそれが警戒の証だと考え、三之御子が何かを感じ取ってから放った4体の式神(サーヴァント)に意識を向ける。

 式神は警戒用のもので、魔力と動くもの全てを捉える事ができる。


(式神は何も見付けてないわね。御子様は今は無表情のまま。まだまだ子供なのに……おいたわしい)


 感情的になったのは一瞬のことで、すぐにも注意を式神と視界に入る景色、加えて高い魔力に裏打ちされた、魔力を感じ取る能力と言える感覚を研ぎ澄ます。


(仮に幻影の術で隠れていても、魔力は放つ。ましてや相手は、闘争心むき出しの魔狼。他にいたとしても、私が逃す筈はない……きた)


 式神が何かを捉えて鞍馬がそちらに意識を向けた瞬間、霞も目を見開き明確にある方向へ向ける。


「来るよ」


 断定の意志がこもった言葉に陽炎は客車を飛び降り、霞が見ている方角へと進む。

 当人も警戒感を高めており、何も見逃さない気配を漂わせていた。

 それを見つつ、鞍馬は前に出た二人の支援ができる位置へと移動する。


(方角は今までの2つとは違う方角から。しかも接近中だった集団とは90度近く別方向。二つはどちらも囮で、これが本命中の本命ってことね。合成獣(キメラ)は高価なのに、贅沢に使うわね。まあ、それだけ竜の御子様を脅威と認識しているということか)


 頭の片隅で少しだけ思考を巡らせつつも、彼女の式神が捉えた新たな敵へと意識を向ける。


「陽炎、霞、二人は前衛。私は後衛。客車は警護役が守るから、まずは前に集中。距離3000。速度70。数3。1体ずつ仕留めて。残りは私が対処します」


「「了解!」」


 若者らしい威勢の良い返事の二人に内心苦笑しつつ、鞍馬も戦闘体制を整える。右手に緋色の刀身の刀、左手には札を何枚か。

 大量の魔力の解放で、鞍馬の髪が黒銀から大天狗(ハイエルフ)の虹銀へと鮮やかに変化する。

 そして札を数枚使い、豊富な魔力で術を行使していく。


 使ったのは守りの札。『防殻』の術として普及している魔術だが、鞍馬の用いるのはより高度で高い能力を持つ。

 体にではなく術者の周囲に展開されるので、大きな盾としても使える。そして鞍馬としては、自身を守るよりも突破されそうな場合に術で体ごと止めるつもりだった。


(数で押されない限り二つ名持ちが苦戦するほどの合成獣がいるって話は聞いてないけど、水無瀬に最新情報を色々聞いておくんだった。いつまで経っても視界に入らないって事は、幻影の術で姿を消しているのよね……)


「土煙!」


 鞍馬がそこまで考えたところで陽炎が叫ぶ。

 ネコ科の半獣だけに視力が高く、鞍馬にはまだ見えなかった。

 一方の霞も、見えていない筈なのに明確に何かを視線で追っている。

 そして二人が示し合わせたように駆けた。


”ザンッ!”


 同時に何かを斬り裂く音がしたかと思うと、次の瞬間に「ドサッ!」と何かが地面へと落ちる。

 どちらも首を落とされた大柄な魔狼だ。

 しかし同時に、首を落とされた魔狼のすぐ後ろから別の何かの影が飛び出す。

 迎え撃った二人はといえば、すぐさま別のもう1体へ同時に飛び掛かろうと動いてしまい、その影への対応が遅れた。


「抜けられた!」


「後ろに!」


 その状況を見極めていた鞍馬だが、鞍馬も一瞬出遅れる。

 半ば重なっていたので見落とされていた2つの影が、斜めの左右に分かれたからだ。

 それでも鞍馬は、抜けられた場合に備え準備していた札を2枚投げつける。魔術で鋭い刃となる札で、拳銃よりも早く威力も大きい。だが、肉体を持つ大柄な化け物には十分ではなかった。

 しかも一瞬にも満たない時間なので、札が命中する前に鞍馬は決断を迫られる。


(最悪、一体なら誰かが御子様の盾になってくれる)


 躊躇うことなく彼女に近い方を迎え撃つと決め、緋鋼(オリハルコン)の刀を構えて地を蹴る。

 同じ刀は既に陽炎と霞も所持し、その威力は折り紙つきだ。魔力により通常よりはるかに強靭な肉体と皮膚、それに毛で覆われた魔狼を、豆腐のようにとはいかなくとも、普通の肉程度に斬り裂いていた。


 そして鞍馬の方が、二人の子供たちより剣術の技量は上だった。

 一瞬の刹那で、魔狼の影から飛び出した魔虎と交錯。

 繰り出された鋭く長い爪を剥き出しにした前脚を斬り払い、さらに軌道を変えつつ首ではなく胴を両断する。

 だが、魔虎に前脚を先に出されたせいで、彼女が考えていたようにすぐさま別の1体へ対応するのが一瞬遅れた。

 陽炎と霞も、まずは二人でもう1体の魔狼を倒している。


 最後の1体は、その間に猛烈な速度で客車へと迫る。

 客車との間には、紙の面をつけた神祇省の護衛がいるが、彼らは噂されていたような前線を退いた熟練の蛭子ではなかった。

 単なる護衛で、術こそ使って守りは固めていたが、立ち塞がって盾になるどころかすり抜けられてしまう。


「なっ!」


 すり抜けたのは魔熊。

 次の大きな跳躍で、一直線に客車内の三之御子を目指す。

 熊を狂わせる魔力を与えられた大柄な魔熊の力は、客車の外壁を破壊するのも容易い。

 同じような事は他の合成獣でも可能だが、中でも魔熊は元の獣を反映して力が強かった。

 そして三之御子に迫る魔熊も、ぶつかるように客車の壁を砕いた。


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