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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第三部「極東戦争編(2)」

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163 「魔物の襲撃(2)」

 タルタリア軍のアキツ軍後方の鉄道路線への襲撃は各所で散発的に発生していた。

 数は多くないが、合成獣の魔狼、半獣の騎兵による襲撃で、アキツ軍の一部は苦戦を強いられていた。

 だが数が違う上に通信伝達も密で、加えて後方の襲撃を想定していたので、2ヶ月前のタルタリア軍と違って十分に対応できていた。


 そしてその中でも、三之御子の警護を固めていた特務旅団の活躍は顕著なものだった。


「ウッヒョー! 大物がいっぱい!」


 目標を先に見つけそれなりの射撃点を確保した朧が、目を輝かせつつも素早く射撃体制に入る。大きな銃だがまるで手足のようで、加えて機械よりも正確かつ繊細だ。

 すぐにも伏せた射撃体制を取り、素早く狙いを定めると初弾を送り込む。


 すると、狙撃位置から500メートルほど先を本来の獣以上の速さで突進する熊の頭の一部が弾ける。

 大きく威力があり、加えて貫通力も高い魔鋼(マジックメタル)製の銃弾が命中したのだ。大鬼(デーモン)を銃撃する為に開発されたと言われる銃と銃弾だけに、その威力はまるで砲弾のようだ。

 何しろ、距離500で2センチの鋼鉄の装甲板を易々と撃ち抜く。


 欠点は銃の扱いそのものが難しく、熟練者でないと命中が期待できないとされる点。だがそれよりも、朧にとっては1発しか装填できない事の方がもどかしかった。

 だが銃撃の時は異常なほど冷静になるので、動きに全く無駄はない。次々に銃弾を装填し直し、正確に目標に放ち、確実に粉砕していく。


 それが30秒ほど続いた時だった。

 何枚か側に置いていた『念話』の札のうち1枚が淡く光る。どこからか『念話』の通信だ。

 朧は渋々手に取る。


『今忙しいの! 現在、遭遇した敵と交戦中。これでいい? はい、一丁あがり。次!』


『次じゃない! 何をしている、朧!』


 『念話』の相手は不知火だ。

 だが朧は、『念話』の札を左手の小指と人差し指の間に挟みつつ銃の操作を続ける。また1体の合成獣に命中した。


『大隊長から僕がそっちに合流するって聞いてるでしょ。で、途中で敵を発見。その報告もしたよね。だから、迎撃してるの!』


『そのまま合流してくると思っていたのに、勝手に始めるやつがあるか。しかも早く始めすぎだ。こっちの都合と算段も考えろ! 潜伏で待ち伏せ予定だったんだぞ』


『潰せそうなら構わないって、大隊長から一言もらってあるよ。緊急だし。あーっ、気が散るから外した!』


『全く、あの人は朧に甘い。もういい。じゃあそのまま狙撃を続けてくれ。だが、第3中隊は敵と接触して白兵戦を挑む』


『りょーかい。白兵戦に入ったら邪魔はしませんよ。あ、僕も側面から白兵戦していい、ですか、不知火特務中佐殿?」


 朧は真面目に、それでいて少し媚びた調子で問いかける。

 それに対して不知火には怒りの波動のようなものはなく、少し考えるような間もあった。


「それもありかも……いや、朧は周囲の捜索をしてくれ。あの数の合成獣のせいで魔力も乱れて魔力による探知が難しい。漏れがあったら事だ」


「重ねて了解。意外に堅実だね」


「意外は余計だ。じゃあ頼むぞ」



 朧と『念話』でやり取りした不知火だが、終えると「数が多すぎる」と呟く。

 しかしその言葉は誰にも聞こえず、彼の中隊の副長を小さく手招きで呼び寄せる。


「どう思う」


「交戦規定では1体を2人で仕留めますが、手数が足りません」


 副長の返答に、不知火はいつもの糸目のまま前を見続ける。


「朧が先に5、6匹倒したが、それでも2対1だからな。でも、後詰もいるから僕らは無理はしない」


 無理をしないと聞いて首を傾げた副官に、今度は不知火は彼の方を向く。


「一度ぶつかった後は、側面を並走しつつ銃撃を続ける。合成獣は闘争本能しか残ってないから、上手くいけば引きつけられる。三之御子様と線路に向かわせなければ、僕らの勝ちだ。全滅させる必要はない」


「ハッ。で、南北どちらに逸れますか?」


「逃げてくれることを期待して、第3中隊は南側に回り込む。まあ、逸れてくれなくても、外地組と挟撃して潰せるだろう」 


「はい。朧特務少佐が拗ねそうですね」


「もう一番多く倒しているんだ、放っておけ。それに見ろ、また1匹仕留めた。朧の援護射撃の間に、優位な位置を占める。時間があれば銃撃。その後白兵を仕掛ける」


「了解」


 不知火の言葉通り、その後第3中隊は素早く位置に着くと銃撃を開始。しかし最初に装填した5発を撃ち切る前に、猛烈な速度で突進する合成獣の群れが迫り、白兵戦へと突入。

 朧と合わせて20体近くを倒すも、無理はせずに合成獣の群れを押し通させた。

 そしてそこからは、最初に命じた通りに銃撃しつつ追撃を開始する。



「あの糸目、器用なことをするなあ。それで、外地組との挟撃は?」


 三之御子の1つ後ろを進む列車の客車内に設けた臨時の指揮所で、旅団長の村雨特務少将が参謀に問いかける。


「外地組、暁特務中佐の指揮で位置につきました。まもなく迎撃を開始します」


「これで挟み撃ちか。残り何体確認されている」


「10から15。第1大隊からは追加の発見報告はなし。ただし、広く斥候している第2中隊が、10キロほど離れた位置に怪しい魔力の反応を探知。現在、確認のため急行中です」


「それはさっき報告があったやつだな。半獣の騎兵も逃げたし、(ヌエ)の追加がおらず殲滅が完了すれば、後の問題は移動か。鉄道はどうなっていた?」


「はい。10分前の報告以後はありません。既に復旧作業を開始。完了時間は不明。定刻通り到着は不可能ですね」


「それでも日が暮れるまでには入っていただかないとな。『浮舟』で送れないか、神祇省の連中と掛け合う。タルタリアに追加の手駒がないなら、もうこの方が楽だろ」


 そう言い切った村雨は、そそくさと指揮所を後にしていった。



「落ち着いて、対処して下さい。それと新型の刀の扱いには注意するように。魔狼を倒せても、自分の手足を切っていては意味がありませんよ」


 村雨が次の算段のために動き出した頃、第3中隊と戦いつつも非常に速い速度で突進を続けていた合成獣の群れは、目的が確かなだけに簡単に次の防衛線に捉えられていた。

 そして第3中隊と呼応した外地組の蛭子達は、挟み撃ちで確実に殲滅していく。


「三之御子様のお側の陽炎と霞も実戦の機会を逃して残念がるでしょうが、見ているだけの私も似たようなものですね」


 暁は軽く苦笑しつつ、一方的となった友軍の活躍に目を細めた。


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