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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第三部「極東戦争編(2)」

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159 「先遣隊展開」

「ご苦労様です、雷さん」


「まったくだ。偵察とか警戒はお前の方が向いてるのにな、甲斐」


 そう言った雷は、熊の獣人(ビースト)らしいゴツい手を広げて出す。それに甲斐も合わせると、勢いよく甲斐の手を叩いた。


「それじゃあ交代だ。眠くてかなわん」


 そう言って大あくびまでして、ノソノソと歩き去っていく。甲斐に敬礼したのは、第2大隊の大隊副長の年嵩の天狗(エルフ)だけ。雷の方は最初に一回交わしたので、敬礼もなしだ。

 一方の大隊副長は、普段よりも上機嫌に甲斐には見えた。それを甲斐は、鞍馬がいないからだろうと察する。


 場所はタルタリア帝国に入ってすぐの国境の街ダウリヤ。今やアキツ軍タルタリア極東遠征軍の事実上の前進拠点となっている。

 最前線はここから約60キロメートルほど先。さらに20キロほど先のボルジヤに司令部を置くタルタリア軍と対峙していた。


 ただしアキツ軍の前線には町どころか村もなく、進軍したアキツ軍の工兵隊が野戦設備をせっせと作っている状態。このため、後方に置いても構わない部隊や設備は、タルタリアが様々な物を揃えたダウリヤに置いていた。


「ここも久しぶりですなあ」


「2ヶ月前に来たばかりでしょ」


「だが、感慨深くはあるな」


「出来れば通過してしまいたい場所ですけれどね」


 雷が去ると、少し後ろに待機していた第1大隊の幹部達が口々に感想を口にする。

 そして言葉通り、ダウリヤの特に軍の野営、集積施設は、彼らが2ヶ月前に戦闘を行った場所だ。特に鉄道を視野に収める古い方の堡塁は、彼らにとって印象深い場所だった。


 自然と堡塁に目が行くが、そこは現在、アキツ軍の工兵の一部が万が一に備えて修復と強化工事を行なっている。

 また、工事はダウリヤの各所で精力的に行われており、そこかしこに蒸気で動く建設重機がうごめいていた。


「ダウリヤは、2ヶ月前とはもう別物に近いそうだ。軍事施設は5キロ四方に広がっている。後備旅団が警備もしているし、僕らの仕事先は予定通りここから前線にかけての約60キロメートルの鉄道沿線となる」


 歩いて近づきつつ、甲斐が部下達に伝える。

 第2大隊からもらった資料を目に通しつつだが、蛭子の高い知覚により足取りはしっかりとしているし、幹部達も捉えている。

 そして幹部達も、甲斐に雑談まで把握されている事を知っているので驚いたりしない。


「『浮舟』にしろ徒歩にしろ、自分らなら1日かからない距離ですな。どのように配置を?」


「敵の動きは?」


 磐城と嵐、二人の年長が質問する。


「第1、第4中隊は、ここで三之御子様を出迎える。第2、第3中隊は線路の南北に分かれて、小隊単位で偵察を実施。『浮舟』、機関銃は使わない。軽装備で走って調べる」


 そこで「もっとも」と言葉を挟む。


「鉄道沿線は2個後備旅団が警備している。線路上も、何本かに1本の列車に線路を監視する警備兵が乗る。当然呪具(アイテム)による警戒も。また、ここと前線それに山岳要塞は無線と電信で連絡を取り合うし、各部隊は『念話』する。僕らは線路から少し離れ、敵が潜みそうな場所を探して回る」


「村落や民家ですか?」


 天草は問うが、口にしたものは無いだろうと顔に書いてある。

 何しろここは、見渡す限り乾いた平原だ。


「ダウリヤ以外、固定の民家はない。この先は、300キロ先のチハまでないそうだ。あってもタルタリアの政府か軍の施設だ」


「アレ? 敵の陣取るボルジヤは軍隊だけですか?」


「そうだ。あっても全て軍用と考えろ。そして鉄道沿線から幅20キロは、出会った遊牧民に接近禁止が通達されている。始めてから2ヶ月経っているから、今では近寄る遊牧民はいない。敵が潜んでいるなら、その向こうだ」


 甲斐はそこで言葉を切るも、誰かが口を挟む前に「ただし」と続ける。

 

「ただし、タルタリアに虐げられていた現地の半獣(セリアン)が保護を求めてくる場合がある。そして注意するべきなのは、彼らの中にタルタリアの間諜(スパイ)が紛れ込んでいる可能性だ。実際、既に2度確認された。また」


「敵騎兵でも出るんですか?」


 最後まで聞かずに先回りした不知火を、甲斐は少し見たあと続けた。


「また、不知火が言った通り、敵騎兵の動きが活発だ。さらに、タルタリア軍に編入されている半獣の部隊も少数だが確認されている。敵騎兵は30個中隊以上、3個師団あり、我が軍の騎兵では抑えきれない。前線を迂回しているのは一部だが、鉄道沿線にも出現している」


「我々、もとい、我が軍がやった事をやり返そうとしているのでしょうか?」


 嵐の言葉に甲斐は頷く。


「総軍司令部もそう見ている。だから今回、僕らは先に進む事はない。三之御子様の護衛のついでに、前回とは逆に鉄道沿線の警備を行う」


「せっかく魔動甲冑を持ってきたのに、宝の持ち腐れですな」


 磐城が軽く肩を竦めながら軽口を叩くと、甲斐も他の幹部達も苦笑するなどの反応を見せた。


「警護に使えばいいだろう。その勇壮さに、三之御子様も喜ばれるだろう。それに無茶な後方襲撃など命じられずに済むから、僕は気楽でいい。雷さんは相当イライラしていたがな」


 甲斐がそう結ぶと、愛想笑いを含めて笑顔で簡単な打ち合わせは終わった。



 その後、四半日ほど甲斐たち第1大隊が周辺警戒などを実施していると、三之御子を乗せた御座列車がダウリヤへと入ってきた。

 その後ろには特務旅団の本隊を乗せた列車が続いており、予定通り到着予定だった。


「竜の御子、三之御子のおなーり!」


 先に客車を降りた紙の面をつけた神祇省の官の一人が、厳かに叫ぶ。

 客車の前にはダウリヤにいる軍の幹部達が整列して出迎える。甲斐達は護衛でもあるので、列車の側で配置についたり、それぞれ護衛に等しい位置を取る。

 目の良い朧は、監視哨の上で周囲を警戒しつつも、頭上から式典のような情景を見物していた。


「あれが、甲斐さん達がよく会ってるって言ってた三之御子様か。ツノ以外は普通の可愛い子だなあ。可哀想に」


 朧が三之御子に関心を示したのはそれだけで、魔力により大幅に強化された視覚で周囲の変化を逃さず見る。

 朧の目は単に目が良いと言うだけなので、魔術による幻影で完全に欺瞞されると見抜くのは難しい。


 だが相手が魔法的対策をしていても、魔術によらない上に望遠鏡や双眼鏡も使わないので、第六感でも無い限り見られた場合に気づくのが難しい。

 普通の視力だと、数百メートル離れれば監視哨にいても見られているとは気付けない。

 そうしたところも、甲斐が朧を買っている理由だった。

 そしてその期待に彼女は十分に応えていた。


(アララ、覗き魔がいっぱいいるなあ。……あの人は隠れているつもりだろうけど、魔力を隠してない。諜報活動は素人かな? あの動きも素人だね。狙撃だったらいい的だ。あっちはアキツの軍服だけど、動きが怪しいなあ。……あれは玄人だね。しかも天狗(エルフ)だ。まあ何にせよ、どれも距離があるから魔法は届かない。銃も持ってない。新型の手投げ爆弾を投げるにしても遠い)


 確認しつつ、この場所の簡易地図に印をつけ、そして待機している別の下士官に渡す。

 怪しい人物のいる場所を記したものだ。

 もっとも、全員が間諜や暗殺者とは限らない。

 従軍記者、観戦武官はこの場に居合わせないよう通達が出されているので、潜り込んできた可能性の方が高い。

 そうした人を探し見つけるのは朧だけではなく、一般の憲兵や他の蛭子で任務を与えられた者達も、捜索とそして声がけ、場合によっては捕縛や射殺を行う。


 一方、当事者の側でも同じような行動をしている者達もいる。鞍馬、陽炎、霞だ。鞍馬が魔術的に探し、陽炎、霞は二つ名の通り何か起きた場合に備える。

 もっとも、盾となって三之御子を守るのは神祇省のゴツい護衛の役目。だから三之御子と共に車外には出ず、窓や扉の側、連結箇所の辺りに潜んでいた。


 そうして到着の簡単な催しまがいの事が終わり、三之御子は厳重に警備された滞在場所の建物に入り、いったん鞍馬達はお役御免となった。

 護衛のさらに外周を守るのが、本来の配置だからだ。


「任務、ご苦労様」


 そうして神祇省のお側付きなどに追い出されたような3人を、甲斐が出迎える。

 旅団本体の列車の到着がまだ先なので、陽炎と霞を第1大隊の臨時の駐留地に連れてきた。


「私ら、ただ御子ちゃんと喋ってただけですけどね」


「豪華なお弁当とお菓子ももらったよね」


「うん。美味しかったー」


「と言ってますが、3交代で警戒および警備任務は滞りなく遂行しました」


 苦笑気味な鞍馬に、真面目に甲斐は頷き返す。


「うん。信頼している。でも、金剛様だったらずっと側にいられたのにとは思うがな」


「はい。ところで、出迎えのそこかしこに妙な気配を感じましたが、対処は?」


 一瞬表情に出た鞍馬だが、すぐに真剣な表情に戻る。


「ここの憲兵と、朧をはじめとした僕らも見つけた。大半は、一目三之御子様を見ようという主に海外の従軍記者だ。前線がまだ暇だから、観戦武官も何人か。だが、不審な者も数名確認して、今、追っている」


「間諜ですか?」


「一人は朧と第1中隊の数名が追ってるが、さっきあった『念話』の報告だと余程の手だれだ」


「朧から逃げられるなんて、うちでも不知火くらいでしょう。タルタリアにそんな手だれが?」


「例の秘密結社の人なら、十分に準備していればあるいは。でも、覗き見する必要性はないから違うだろう。とはいえ、タルタリア帝国の政府、軍に蛭子がいるという情報はない。まあ、あいつらだろ」


「あいつら?」


 横にいた陽炎が釣られて聞いてしまうと、甲斐は人の悪い笑みを陽炎に向ける。


「知らないか? 覗き見好きな二枚舌の白い物怪だ」


「ああ、アルビオンの魔術師か」


 答えたのは陽炎ではなく霞。その言葉に、陽炎も手をポンと叩いて納得する。


「だから朧らには、こちらは本気を見せずに逃せと命じておいた。あいつらに、手の内を見せ過ぎるのは考えものだからな」


「賢明なご判断かと」


 鞍馬はそう返し、子供二人は「大人の世界は面倒だなあ」という表情を浮かべた。


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― 新着の感想 ―
この世界でも二枚舌なのかw
ここでも勾玉式蒸気機関による重機が活躍しているようですが、第143話で出ていたような牽引車や排土車などを装甲化した上での軍用車両化なんてしないんでしょうか。重機を動かすパワーが生み出せるなら、軽装甲を…
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