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【ネトコン12入賞】アキツ年代記 〜幻想世界と近代戦争〜【書籍化】  作者: 扶桑かつみ
第一部「極東戦争開戦編」

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011 「竜の国の民(1)」

「それじゃあ!」


 鞍馬の喜びように、甲斐は自分が自然と笑みを浮かべている事を自覚する。


「はい。帰投後の身体検査のついでに色々と調べてもらったら、正式に判定を頂きました。魔力の恩恵は、僕の寿命を随分と先まで伸ばしてくれるみたいです。勿論、天寿を全う出来ればの話ですけど」


「焦らさないで。どれくらい? 百年? 二百年? 三百年って事はないわよね。あ、でも私たち蛭子だから、もっと長いって可能性もあるのかしら」


「他の方、過去の記録などからも推測して、大鬼デーモンくらい。三百年は確定みたいです。それ以上は、僕の本来の血筋もあるから正直分からないと。ただ」


「分かってる。千代の命なのは大天狗ハイエルフだけ。私とあなたの子供が出来ても、大天狗に生まれなければ定命の定め。……でも、良かった。長生きしてね」


「はい。僕の為にも」


「二人の為よ」


 本当に嬉しそうに、天狗特有の切れ長の大きな目を細める。


 鞍馬がそうした反応を見せるように、様々な種族が共に住むアキツでは、異種族同士の結婚はよくある話だった。

 だが親や一族が決めた結婚が主流の時代で、伝統や習慣もあり同族同士での結婚が多い。それでも何人かに一人は異種族同士で結ばれる。


 ここまで至るのに長い年月が必要だったと歴史は記しているが、どの種族でも成人まではほぼ同じように成長し、どの種族同士でも子を成せるお蔭だ。

 かつては種族同士で諍い、争いの原因にすらなったが、数百年続いた天下泰平と変革以後の近代化で意識の面から変化していた。

 全ての民を示す「公民シヴィル」という言葉も、変革で新たに生まれた言葉だ。


 ただし異種族同士だと問題もある。

 種族による体格差も出る場合があるが、特に種族による寿命の差は避けて通れない。中でも千代の命、つまり永遠に生きる不老長寿の大天狗にとって、心理面で大きな壁になっていた。

 だから大天狗同士で結ばれるのが殆どで、なお一層大天狗の数が少ない要因になっていた。

 他の種族からも、大天狗の異種族婚は長命種の戯れや気まぐれと思われる向きが強い。


 なお、寿命の目安はおおよそ以下のとおり。

 人、只人ヒューマンは、近代科学文明による医療の進歩、魔法の薬を用いても平均で60年程度。これは、成人になるまで生きられない者を差し引いての寿命で、統計数字上での平均寿命で見ると50年を下回る。

 これでも昔と比べれば大きく伸びたのだが、まだまだ子供が死にやすい時代だった。


 亜人に分類されるオーガ半獣セリアンは人より2割から3割ほど長く、平均で75年程度。同じく亜人に分類される多々ドワーフが150年程度。天狗、黒天狗ダークエルフが300年程度。

 おおよそ二倍ずつ増える。


 亜人それぞれの上位種族とされる魔人デーモンは魔力豊富なので寿命が長く、獣人ビーストが150年程度、大鬼が300年程度といわれる。

 魔力の多さからも魔人に分類される大天狗は別格だが、数が非常に少ない。


 また、個人差で魔力が豊富な場合はこの限りではない。

 魔力は人の内から湧いてくるが、亜人、魔人の寿命が長いのも魔力の影響とされ、個人差が出る。

 中には平均的な寿命の二倍以上生きる者もいる。但し、寿命が大きく伸びるほど魔力豊富な者は珍しい。

 それでも鬼、半獣が人口構成の大半、約9割を占める為、社会的には混乱も問題もない。


 また全ての種族が只人より身体能力が高く、怪我や病に強い。このため乳幼児死亡率を始めとした死亡数が少ないので、平均寿命自体が長い。

 只人の平均寿命が15歳以上生きた者を対象としているのに対して、亜人、魔人は乳幼児まで計算に入れて計算されている。この為、鬼と只人の正しい平均寿命の差ですら、5割以上の差となる。


 アキツ以外では只人が世界で最も人口が多く、世界人口の8割以上を只人が占めている。

 これは、亜人、魔人の繁殖意欲が只人より少し低い為だと言われる。繁殖意欲が低いのは、赤子、子供が死ににくい事が影響している影響だと考えられている。

 時折、大きな戦争などを原因として種族の危機を感じて伸びる事はあるが、それでも長期的に見れば増加率は低くなる。


 それでもアキツの人口が多いのは、戦国時代に域内の只人が自然淘汰で消滅し、天下泰平時代に亜人、魔人による混血が進んだ影響が大きい。この為、国や地域で見た場合の人口の伸びは、只人の国と同程度になっていた。

 加えて「変革」以後の半世紀は『竜皇』、政府が強力に多産を奨励しているので、さらに高い人口増加率を示していた。

 また開拓地が多い本国以外の勢力圏での伸びも大きい。

 そうした状況が、アキツが大国として隆盛出来た大きな要因の一つとなっていた。


 なお、異種族間の結婚では、一般的だったが基本的に母体優位となる。また異種族婚の混血であっても、どちらかの種族として生まれる。

 魔力の高低以外で、両方の特徴を備える事はない。辛うじて、低い確率で隔世遺伝があるだけだ。

 一方で、只人と魔人に類別される種族の間に出来た子供は、かなりの確率で亜人として生まれる。もともとは只人と魔人から亜人が誕生し、その後亜人が増えたと言われている。

 特に男性親が魔人の場合、必ず亜人が生まれる。


 甲斐の場合、種族は鬼なので普通なら75年程度の寿命だが、大鬼と同じかそれ以上というのだから、飛び抜けて魔力が豊富という事になる。

 そして魔力、身体的な能力、健康状態などを測る事で、この時代ではおおよその寿命を知ることができるようになっていた。

 故に甲斐の寿命について、かなり確定的だった。

 だからだろう。笑みを返す甲斐の表情も柔らかかった。


「はい、そうですね。でも、こういう時は何故種族によって寿命が違うのかって、どうしても思ってしまいますね」


「まだ実感はないけど、確かにそうよね」


「はい。それにどうして多くの種族があるんでしょうね。どの組み合わせでも子孫が残せて、成人までの成長もほぼ同じなのに」


「竜神様がお作りになられたというのがアキツでの定説だけど、歴史の裏側には諸説あるわね」


「鞍馬は知ってるんですか?」


 声色が知っていると告げているので、甲斐は釣られて問いかけてしまった。すると鞍馬が小さく苦笑する。


「魔法を深く学ぼうと、話を聞いたり文献を読んだ時にね。なんでも、最初から全ての上位種族がいたんじゃなくて、元からいる只人以外は大天狗だけだったそうよ。しかも、今とは比較にならないほど過酷な世界で生き抜ける新たな人を、只人を元にして生み出そうとした結果、生まれた失敗作が大天狗なんですって」


「大天狗が失敗作? 初耳です。竜神様は、大天狗以上の只人を作り出そうとしたんですか?」


「そういう事になるわね。もっとも、禁書に近い資料の断片的な記述だから、信ぴょう性は良くて五分五分」


「五分五分。でもその説だと、只人から大天狗が生み出されたから、子孫が残せて成長が同じだと?」


「そうなるわね。で、次に只人と大天狗が交わって天狗が生まれた」


「他の上位種族より先に天狗が?」


「ええ。その後で、他の上位種族、そしてそれぞれの下位種族が続く。多々羅だけ只人との混血でもどちらかしか生まれず」


「多々羅の話は、僕も何かで読みました。でも、全ての種族が交配可能なのは、もとは人、只人だけだったからなんですね。どうして公表されていないんでしょう」


「私が得た知見も、話半分。真実がもう分からないからじゃないかしら? 話の続きだと、大天狗は繁殖意欲が低すぎたから獣と掛け合わせた獣人を作るも、人と離れ過ぎたので今度は大鬼を作った。

 どこの神話や伝承でも、神や魔神の気まぐれで生まれたとか言われているけど、大天狗、獣人、大鬼の順番は同じね。西方や中東の宗教が教えるには、神に最も近いのが只人だそうだけど。一方のアキツでは、戦国時代に一番弱い只人が完全に消え去って、繁殖力の高い鬼、半獣の時代になった」


「その辺りは歴史で習いました。なんにせよ、僕は単純に運良く長生きできる事を喜ぶ事にします」


「それが一番ね。じゃあ、寿命が延びたお祝いに何か食べに行きましょう。今日は奢ってあげるから」


「延びたわけじゃないと思うんだけどなあ」


「気持ちの問題よ」


 そんな事を言い合いつつ、二人は都の軍の宿舎から竜都の中へと消えていった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ポストアポカリプス後の地球、なのかな。亜人、魔人は先史文明が遺伝子改造で生み出した人工生命体みたいな。でも衛星が七つあるしな……
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