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「出来たよー!」

 弾んだ声と同時に扉が開いた。


「いらっしゃい、ランビット」

「あ、おじゃましまーす」

 まだ、ホテル事務所の営業時間のはずなのに、ランビットは人参の模型を片手に、当然のように家へ上がり込んできた。

 ウチのホームバーへの誘導は私に任せて、メイドのタバサが慌ててお茶の用意のために、台所へ引っ込んだ。


「何ができたの?」

「いやだなあ、おままごとセットに決まってるだろう?」

「おおお!漸く、食材の模型ができたの?」

「そうだよ!もう、苦労したよぉ」

 向かい合ってソファに座ると、待ってましたとばかりに模型談義が始まった。

 この人のこういうところ、学生時代から変わらないんだよねぇ。


「これ、ここを見てよ!」

 そう言って人参を真っ二つに。

 良くみると、断面のところに円形の凹凸が二か所作られていて、その凹凸を嚙合わせることで一つの人参になっている。

「ほら、ここ!こうやっておもちゃの包丁を間に入れると……」

「パカっ」

 軽い音を立てて、簡単に人参が真っ二つに。


「分かるかい?ほら、自分でもやってみなよ」

 人参の模型とおもちゃの包丁を渡された。


 早速包丁を入れてみると、少し抵抗はあるものの、直ぐに真っ二つに。

「ん?この抵抗が良いわね。何か本当に野菜を切っているみたい」

「だろう?最初はスリットの本数とか、深さで調整していたんだけどさぁ」

「うん」

「形状を変えたらどうかってこの前の話から、ボブが考えついだんだ。で、この形状にしたら一発で上手くいったんだ」

「苦労してたもんねぇ。ありがとう」

「いやぁ、ほら、メグんところは生まれてからかなり経っているだろう?」

「うん」

「早くお祝いを贈りたくて、若干焦ってたけど、漸くだよ。漸く!」

「これもランビットとボブ、二人のお陰ね」

 丁度タバサがティーセットを持って来てくれた。

 ランビットは味わうこともせずに「ズズズ」と飲み干して、また模型の説明に戻ってしまう。

 ランビットは元々錬金術が好きだったから、こういう作業を仕事の合間を縫ってでもやることができて嬉しいのだろう。

 ホテルの仕事で忙しいはずなのに、活き活きしてるよ。


 取り敢えず、これでメグに出産祝いを贈れる。

 本当にほっとしたぁ。

 早く贈りたかったんだよね。


「ところでさぁ」

「ん?」

「アドリエンヌ様の出産予定日って何時なの?」

 唐突な話題転換に、少し考える。

「う~ん、セシリオ様に確認しないとはっきりとは分からないけど、まだ4ヶ月くらいは先じゃないかなぁ。どうして?」

「いやぁ、鉄道模型とジオラマ、何時頃仕上げればいいかなぁって。錬金術そのものも楽しいんだけれど、こういう遊び心が刺激されるものって作ってて楽しいんだよ」

「あ、それ分かる~」

「だろ?学園で作ったドールハウスとか馬車模型とか、楽しかったよな」

「うんうん」


 一拍置いて、ランビットが首を傾ける。

「ところでさぁ、このおままごとセットとか、鉄道模型とか、ウチのホテルの売店でも売るの?」

「え?」

「ほら、ナンクロとか塗り絵。お子様ランチ用の皿とか、色々売ってるけど、これも製品化するんじゃないの?」

「う~ん、ランビットはどうしたいの?」

「仕事が増えるのは正直キツイけど、できれば販売したいなぁ」

「ランビットが良いのなら、私はそれでいいよ。ただし……」

「ただし?」

「製品化もランビットの仕事になっちゃうから、仕事量を考えて決めて欲しいの。体を壊さないでね」

「ありがとう!なら、人を雇って、新しい部門か商会を立ち上げるのでもいいかな?」

「うんうん。生産はボブんところの工房に依頼してもいいしね」

「そうだな。どっちにしても作る毎にボブんところにもアイデア使用料を払わないとだから、スイカズラ工房で作ってもらった方が話が早いかな?ところで今日早めに来たのには訳があるんだ」

 ここの所、しょっちゅうウチに皆が集まってジオラマ製作について意見交換しているものね。

 恐らく今日も、男連中だけで集まる約束をしていたんだろう。

 二日に一回の割合で来てるから、もう驚かないけどね。


 問いただすような視線を向けると、ランビットは勝手知ったるなんとやらで、自分でお茶のお代わりを注いでゴクゴクと飲み干した。

「もう、そっちにまで情報が行っているかどうか分からないけど、今度、王家主催で料理コンテストが開かれるんだ」

「え?何?それ初耳」

「そうか。まだ限られたところにしか情報が広まっていないってことだな」

 嫌な予感がするよぉ。


「で、そのコンテストって?」

「王都で来月開催、参加資格は”食堂”限定。あ、宿屋の”食堂”もOKだよ。要は、一般人は参加できないん仕組みだ。で、食堂であっても参加には貴族の推薦がいるらしい」

「へぇ~」


「で、王妃様からウチのグループに参加依頼が来たんだ」

「あら、王家からの依頼だと、断るのは難しそうね……」

「う~ん。請けるのはいいんだよ。でもな……」

 ランビットは何か気になることがあるのか、どうも言葉のハギレが悪い……。

「でも?」

「王様の妹君とか、王子妃、王子の側妃なんかがあっちこっちの食堂に声をかけ回っているらしい」

「……ハっ!それって……」

「そうなんだ。アドリエンヌ様が参戦してくる可能性があるんだ」

「う~ん。先に声を掛けてきた王族からの依頼は跳ねのけるのは難しいわね……」

「だよな」


 私たちとしては当然アドリエンヌ様に協力したいのだ。

 でも、グループとして王妃様の要請に応えてしまうと、その余地が無くなってしまう……。

 せめてフローリストガーデン光だけとか、ホテルの王都店だけとか特定してくれればいいのに、グループとして一括りにされてしまうと、アドリエンヌ様からお声が掛かった時に対応できない……。

「でさ、今夜の会合にはリアも出席して欲しんだ」


 最近は鉄道模型について盛り上がる彼らと一緒に食事をした後は、私は早々に自室へ引き上げていたんだけれど、今夜は事情が違う。

 それと、メグに贈るおままごセットと一緒にセシリオ様やウチのユーリのプレゼントも送る手配をしなくちゃいけないので、そっちのプレゼントの用意がどうなっているのかの確認が必要だよね。


「なら、ランビット。今夜はセシリオ様にも参加してもらった方がいいよね?」

 セシリオ様は鉄道模型造りには参加していないから、男連中の会合にも3回に2回は欠席しているのだ。

 本業の方が忙しいらしい。

「そうだな。なら、まだ時間があるから俺がひとっ走り行ってくるよ」

「じゃあ、ウチの馬車を使って」

「分かった!」

 バタバタとやってきたランビットは、落ち着く間もなくバタバタと出て行った。

 静かになった部屋で、私は独り、湯気の立つカップを見つめた。

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 今年が皆様にとっても、良い一年となりますように。

 引き続き、拙作をお楽しみいただけましたら嬉しいです。

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