17
それから数日後アドリエンヌ様の妹のお輿入れの話は、平民も知るくらい大々的に告知された。
アドリエンヌ様がそれと同じ頃、王の側室になることは貴族に対しては開示されたらしい。
セシリオ様が教えてくれた。
「息子でも産めば民にも広まるだろうけど、輿入れだけだと代々的には広めないからなぁ」
これはユーリが後でこっそり教えてくれた。流石、元貴族。
平民の私では知りようが無いのだけれど、貴族の常識については時々教えてくれるのでホテル経営の面からも助かっているのよ。
平民組は私も含め全員が短い手紙をアドリエンヌ様に書いた。
昨日、鉄道でメグからの手紙と小さな封筒が届いた。
封筒の中には更に小さな封筒が2つ入っており、各封筒にはリボンで作られた可愛い小花が3輪ずつ入っていた。
色の組み合わせはどれも同じで、パールホワイト、明るい青、薄い黄色だ。
私はこの色に見覚えがあった。
そう、学園時代、ダンスパーティのためにアドリエンヌ様が同じデザインの色違いのドレスを作ってくれた時だ。
アドリエンヌ様は光沢のあるパールホワイト、メグたんは薄い黄色、私は明るい青の布のドレスだった。
当然、メグたんはそれを念頭に当時と似た色のリボンで小花を作ってくれたんだと思う。そしてそれぞれの封筒に3色、これはいつまでも友達って意味だと思う。
流石、勇者様。やる事に優しい心が滲み出ている。
実はあの時、ユーリとの婚約を内緒にされていて、アドリエンヌ様だけリボンの色がユーリ色だったのも覚えている。
婚約を知って、ユーリが好きなのは勇者様だとばっかり思っていた私は、驚いたんだよね。
それが何の巡り合わせか、今や私の旦那様だもんね。
ユーリの馬鹿叔父の事件が無ければ、当然ユーリはアドリエンヌ様と結婚していたでしょうし、私もその後のユーリを思って足げくヤンデーノまで通う事はなかったし、そうなれば当時薄っすらと感じていたユーリへの恋心も生まれなかったかもしれない。
しかし、メグたん、すごいね。
リボンの小花だと封筒に入れてもそんなに厚みは無い。
セシリオ様のところのデザイナーさんを通して渡してもらうには、できるだけ薄い封筒の方が良いもんね。ちゃんとその辺考えてそうだよね。
セシリオ様のお話だと、妹さんの結婚式は盛大に大聖堂で行われるらしいんだけれど、アドリエンヌ様は側室なので客を招いての結婚式は挙げないそうだ。
正妃様への気遣いってことなのかなぁ?
でも、結婚って生涯に一度だから、ちゃんとお式を挙げて欲しいなぁ。
あっ、だからメグたんは小花にしたのかな?
盛大な結婚式はなくても綺麗なドレスは着て嫁ぐでしょうから、このくらいの小花をドレスに縫い付けても目立たないしね。
一世一代の晴れ舞台が寂しいものであっても、支えてるよってこの小花たちは言ってる気がする。
本当にメグは・・・・スゴイ!
私用に作ってくれた小花の封筒をそっと抜き出し、メグの封筒と、私の手紙の入った封筒、王都の平民組の封筒をそっと重ねた。
リボンや紐で括った方が良いのか、そのままの方が良いのか、じっと封筒を見ながら悩んでいると、ユーリが居間に入って来た。
「ただいま~。リア、セシリオが今度、アドリエンヌの実家へ行くらしい」
「え?本当?」
「ああ、嫁入り道具の一つとして、色んなドレスを仕立てるらしく、アドリエンヌだけでなく、その妹のドレスも一通り作らせると言って、王都内の主な仕立て屋に声を掛けているらしい」
「なら、セシリオ様にアドリエンヌ様宛の手紙を託す事もできるのかしら?」
「出来るんじゃないか?今回渡せなくても、セシリオに預けておけば、チャンスがある時に渡してくれると思う」
「じゃあ、これがメグを含めた平民組の手紙なの」
結局紐で結ばなかったバラバラな封筒をそっとユーリの右手の上に載せた。
それを受け取ったユーリが、一旦封筒を横のテーブルに置いて、真剣な表情で私の両手を握った。
「リア・・・・」
「ん?」
「一つお願いがあるんだ・・・・」
ユーリにしたら何か歯切れの悪い話し方だ。
「オレが叔父の手から逃れる時、母の形見を身に付けて唯一持ち出す事に成功したものがあるんだ。宝石なんだが、本来なら嫁であるお前が持ち、その後は、オレたちの娘、娘がいなければ息子の嫁に受け継がれるべき物なんだが・・・・アドリエンヌには命を救ってもらっている。それにオレや従弟のせいで彼女が一番の貧乏くじを引かされている。だから・・・・だから・・・・申し訳ないんだが・・・・」
「うん!いいよ。アドリエンヌ様に渡してあげて。ユーリが一番大事にしている形見だから、せめてもアドリエンヌ様に持ってもらって欲しいってちゃんとユーリの気持ちも伝えてあげて」
「すまない・・・・」
「全然すまない事はないよ。私にとってもあなたの命を救ってくれたと言う事でアドリエンヌ様は特別に感謝してるんだから!」
「ただ、これを貰ってアドリエンヌが喜ぶか、迷惑に思うかが心配だ・・・・」
ユーリにしたら何か奥歯に物が詰まったような言い方だ。
「オレの自己満足で渡している気がして、少し怖いんだ」
「う~ん。ユーリ、私はアドリエンヌ様じゃないから、彼女がどう思うかは本当のところ良く分からないわ。でも、ユーリの気持ちをちゃんと説明すれば受け取ってくれると思うよ」
「そうだといいんだが・・・・」
私たちは学園を卒業してからのアドリエンヌ様の事をあまり知らない。
ユーリは婚約者だったけど、留学して離れていたし、私たち平民は彼女と会う事すらできない身分の差があった。
ここ数年、アドリエンヌ様の父親が厳しいのもあり、彼女がどんな生活をしているのかすら全く情報が出てごず、知り様が無かったのだ。
そんな中、この指輪をもらって彼女がどんな感情を持つのか分からないのが本音だ。
そうだね。これはユーリの、ひいては私の自己満足と言われればそうだろう。
でも、何もしないよりは良いと思うのは、まだ私の思考が幼いのだろうか?
「ユーリ、ちゃんとあなたの気持ちを説明して、最後に嫌だったら捨ててくれても良いくらいは書いておいた方が、アドリエンヌ様も気が楽になるかもよ?」
「そうか・・・・」
ポンっとユーリの肩を軽く叩いて、「元気出して!何もしないで後悔するより、何かをして後悔しようよ!」とどっかで聞いたような台詞を投げかけた。
そこで漸くユーリは指輪を新しい封筒へ入れた。




