記者は辛いよ オイッスVer.
「例の鉄道襲撃事件の地下組織2団体について取材してくれ」
「アーベル様、実は辺境伯の辺りもどうもきな臭くなってるって情報が入ってるっす」
「オイッス、それはどれくらいきな臭いんだ?」
「帝国兵が大量に流れ込んでいるらしいっす」
「となると、ゴンスンデの『赤い風』とファルマの『希望の光』、辺境伯の領都の3箇所での取材と、辺境伯領がきな臭いなら連絡要員は別途必要かぁ・・・・。最低でも4名の記者が必要だな」
アーベル様はあっしたちのご主人様っす。
現在、あっしたちは新聞社の記者だけれどもその前は王家の足の一員で、アーベル様が貴族だった時からの主従関係ちゅうこった。
王家の足だった頃、あっしたちは国内あっちこっちへ散らばって、アーベル様の父君だったオーバリ元子爵様からの指示で様々な情報の入手に走っていたっす。そりゃぁ、容赦無く使い潰されていたっすよ。で、その仕事は基本二人組で行っていた名残で、今の記者活動も二人一組でやっている。
二人一組の意味は記者二人が雁首揃えて同じ人にインタビューすると言うのではなく、一つの案件に必要な取材を手分けして進めるって意味っす。
あっしもあっしの相棒のテロンも昔からゴンスンデの担当だったけど、当時からもちろんゴンスンデだけでなく周辺の村々も仕事の範囲には入ってたっす。
だからナイゴン駅村にほど近いファルマも何度か行った事はあるっす。
新聞社のアーベル様付き記者となっても相変わらずゴンスンデの担当に据え置かれたので、今まで築き上げた伝手などもそのまま使えるので助かってるっす。
これを新しい土地で一から築き上げるのは時間も掛かるし、必ずしも成功するとも限らないっすしね。
今回、鉄道襲撃事件が起きてから、あっちこっちで情報収集しなくちゃならなくって、普段よりも仕事の量が多いのは勘弁して欲しいっす。ましてや普段ゴンスンデにいるアーベル様が臨時とは言え、今はヤンデーノに居るので、こうやってこちらからヤンデーノまで出向いての報告、相談となると移動だけで大変っす。今は鉄道の運行が不定期ですっしね。
そこへ持って来て辺境伯の方から煙の臭いが漂ってきていると来たもんだぁ。連絡頻度を考えると末恐ろしいっす。
「よし!オイッス、お前はテロンと一緒に辺境伯領を探ってくれ。ペッパーには『赤い風』を探ってもらい、『希望の光』はフールに行ってもらおう。本社への連絡は事務員のハルさんにお願いするとして、最悪、俺が連絡要員になってもいい。フールを早めにポンタ村から呼び寄せてくれ」
「うっす。ただアーベル様、フールは独りで潜入させるんですかい?」
「ポンタ村にも最低1人は残しておきたいので、フールは一人になるなぁ・・・・」
「フールはポンタ村辺りだと土地勘もあって伝手も多少は持っているでしょうが、辺境伯領は行った事すらないんじゃぁないっすか?それなら、ファルマは小さな村なんであっしが一人で潜入して取材し、フールはテロンと組ませて辺境伯領って方が良くないっすか?テロンなら少なくとも土地勘がある訳ですっし・・・・」
「お前がそう思うのなら、そうするか」
「うっす。では、フールを呼び寄せるっす」
「うん。任せた。何時もの様に、週1~2回の報告だけは怠らない様にテロンたちに言いつけておいてくれ。お前の方は難しかったら取材が終ってからの報告でもいいが、何か早目に知らせた方が良い場合はナイゴン村支局の人員を使ってゴンスンデへ報告してくれ」
「うっす」
打合せが終ったので、現在不在中のユーリ様専用の事務部屋を使わせてもらっているアーベル様に頭を軽く下げて、その部屋を出た。テロンがデロンとした姿勢で座って鼻をほじくっているデスク前まで移動し、「うっす。次の仕事はフールと組んで欲しいっす。あっしはファルマで取材するから、お前たちは辺境伯領へ行って欲しいっす」と言うと、興味なさそうな顔で「へぇ~、今回、お前は一人での仕事かぁ」と言いながら、椅子にちゃんと座り直した。
無言で頷くと、「フールを呼び寄せるのはお前が?」と聞かれたので、頷いて「その辺の事はこっちで手配するっす。仕事内容については、後で打ち合わせしたいっす」と空いていたデスクに座ると、「分かった。じゃあ、後で声を掛けてくれ」と再びデロンとした姿勢に戻って大あくびをしているっす。まぁ、テロンはいつもこんな感じだから尻を叩いて働かせなきゃいけない時も多いっすが、やる時はやる奴でやんす。後でちゃんと引継ぎはするっすよ。
まぁ、まずはフールを呼び寄せるためのメモを念のため2通書いて、1通は騎馬で、もう1通は鉄道を使ってポンタ村まで運んでもらうので、ちゃっちゃと片付けるっすよ。
先日鉄道を襲撃した2つの地下組織の内、ナイゴル駅村近くの小さな村であるファルマに足を踏み入れると、小さな村なのに荒んだ雰囲気がどよよんと村を覆っているみたいっす。
この村は鉄道の利便性を享受している村なので、それにもかかわらず鉄道を襲ったグループが村内に居ると言うのを一般の村人たちは受入難いと思っているみたいっす。
鉄道で運ばれてくる安価で種類の豊富な食材や日用品は鉄道敷設前には無かった利便性って事なんっすね。クククク。
人間とは一度利便性や贅沢を味わうと、中々前の状態を受け入れる事が難しくなる動物なんっす。
ただ産業面を見ると、鉄道の路線に近い事は近いが駅があるわけでもないので、農業主体のそこら辺に良くある小さな村って事っす。
町としてそこそこ大きいゴンスンデで活躍している『赤い風』と言う地下組織はダルトと言うスラム街出身の男と、小さな農村ファルマの『希望の光』と言う組織。そのリーダーは農民のパリィと言うらしいが、『希望の光』と手を組んで襲撃を行ったってのが奇妙なんすよねぇ。
「ちわっす!オルダル・トゥデイの記者、オイッスっす。ちょっとばかしお話を聞かせて欲しいっす」と小さな村では無いであろう現金、つまり銀貨を握らせて村内をあっちこっち取材して回ってみたっす。
皆口は堅いけど、中には鉄道のお陰で流入してくる多種多様な日用品を購入したいが、手持ちが心もとない村人なんってのも相当数いるっすよ。
「ああ、ダルトとぉ、パリィはぁ、従弟どうしなんですぅよ。ダルトぉの父親がパリィんところの父親の弟でぇウチから4件目の家に住んでいるから、あそこへは取材とやらには行かねぇ方が良いですよぉ」
「え?ダルトの父親は長男じゃないのに村に畑を持ってたんっすか?」
「ああ、娘しかいない農家の入り婿になったんですよぉ」
他の村人に咎められたくないから家の中まで入れてくれたが、話し終わり、銀貨数枚を受け取ったら、あっしに出て行って欲しそうにソワソワしだした村人にお礼を言って、粗末な木造の家を出たっすよ。
必要な情報を得たら、相手に悪い印象を与えずにちゃっちゃと退散が基本っすよ。だって、悪い印象を残してしまうと、次回何かの取材をする時に対応してもらえなくなるっすからね。
それにしても一旦スラム街に落ちた農民が血縁者と頻繁に連絡を取っていたとは思えないんだが、どうして此奴らが手を組んだのかは今の所はっきりしないっす。長年、情報を扱って来たあっしからしたら、ここら辺が大事な気がするっす。
普通に考えてスラム街の人たちは頼れる親戚もいないし、仕事も無いからスラムに落ちるっす。
社会や家族を恨みこそすれ、連絡を取っていたり、ましてや手を組んで何かをするって事が腑に落ちないっすよ。
考えても見て欲しいっす。長男だと言うだけで同じ家に生まれても、幼い頃から手伝って来た畑を貰えるのに、自分は仕事を求めて都会に流れて、結局仕事にあぶれ、日々の暮らしもままならない。そんな奴等が自分の血縁者と連絡を取り続けるだろうか?
家に残っても小さな家の中、他の兄弟や甥や姪と一緒に雑魚寝しながら、自分は嫁さえもらえないのに、同じ家の中に嫁を娶って主人然とした顔をして命令だけをしてくる兄の顔色を見ながら生活をしなければならないとなると、納得できない者も少なくないはずっす。
従弟とは言え、スラムに住みながら連絡を取りたいと思うだろうか?
パリィの方は村に住んだまま活動してるっす。
スラム街に住んでいるダルトとは正反対な環境と言えるっす。つまり、パリィは長男が主人として君臨している家に暮らしている人間の代表の様な奴。
一方、ダルトはそれを良しとせず都会まで出て来て、失敗した人間っす。
元々の考え方が違う上、血の繋がりがあれば余計に手を結びたくない相手ではないのか?そんな風にあっしは思うっす。
さぁて、取材を始めるっすよ!頑張るっすよ!




