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第62話 本丸を攻めろ! 

 レジナ妃の屋敷は、今までのどの屋敷よりも大きかった。一人の妃が住む屋敷で二階建てなのはわずか五軒。第一、第二正妃と他国の皇女でありお子様を宿している二人の妃、そしてレジナ妃だ。その勢力の大きさを示す如く、侍女や女官、私兵の数も多い。しかもほとんどがアスラ族だ。

 

 カンサ王は血の半分を魔族、つまりアスラ族に属している。魔族との繋がりが濃い。野蛮で残忍なのはそのためと言われているが、オレは一概にそうとも言えないと思っている。人間だって十分に残酷で野蛮だ。無知で力が全てと信じる王に気に入られようと追随している輩がなんと多い事か。この国に来てオレはつくづく思った。


 だが、彼らが戦いに長けているのは事実だ。そして残念なくらい短絡的であることも。オレは弟達を守りながら、クリシュナの体を得ることが出来るだろうか。いや、出来るとかじゃなく、やるんだ。




「こんにちは。新しい女官を二人、連れてきました」


 オレは双子を携えて、レジナ妃の屋敷の門をたたいた。この屋敷は外門があり、庭を抜けて建屋に行かなければならない。まずはこの外門を抜けなければ話にならない。


「ん? 護衛兵が自ら引率か。珍しいな」


 正門に出てきたのは、少し年季の入った女官だった。ここでは女官の階級を服の色で表わしているようだ。双子は最下位のアイボリー。彼女のはグレーだった。


「いや、みんな武芸大会に出掛けてしまって、私は新入りですので……」

「ふん、まあ見かけない顔だね。いい男だけど」


 と皺で重たそうな瞼を見開き、オレを見上げる。久しぶりの悪寒が背中に走った。


「ま、イチモツのないおまえらには興味ないけど」


 はあ、それは何よりです。


「ウチの連中も妃には内緒だけど、半数いないよ。交代で見に行ってるんだ。なんでもそろそろ始まりそうなんだってね。早く行きたいよ」


 そろそろ始まる。多分バトルロイヤルのことなんだろう。結局そうなることはみんな知っている既成事実なんだ。オレはその言葉に動揺しそうになる。


「あの、レジナ妃様はご在室なんですか?」


 それを感じたのか、翔がフォローしてくれた。オレ達は会話をしながら、少しずつ庭を進み、玄関まで足を運んでいる。


「はん! 今、おもちゃに夢中でね。お陰であんな楽しい余興が観れないんだよ。あんたらも気を付けな。あんた達新入りは、女官や兵士達にはいい具合の玩具なんだよ」


 下卑た笑いをしながら、女官はオレ達の前を歩いている。おもちゃ! オレの心臓が凍り付く。でもオレは冷静に頭を動かすことにした。この屋敷に、今、人手は半分となっている。攻めるなら今しかない。オレは双子に合図する。

 年配の女官の口を塞ぐ。間髪入れずに翔がスタンガンをお見舞いすると、白目をむいて崩れ落ちた。オレ達は、打ち合わせ通り、二手に分かれる。時間がないのはわかっている。レジナ妃の部屋は恐らく二階の奥。そう踏んで強行突破に出た。


 まず、弟達が一階で騒ぎを起こす。私兵たちが階下に降りたのを見計らって、オレは二階に侵入。双子はドローンもそうだが、勘尺玉みたいなのも持ってきたようだ。こういうのもこの世界では魔法みたいに思えて衝撃だろう。

 一階で爆音やら悲鳴やらが聞こえてきた。オレは蛇腹窓を伝い二階へよじ登り、窓枠に手をかけた。蛇腹の隙間から廊下が見える。オレは振り子のように体を振ると、両足で窓を突き破った。


「誰だ!?」


 二階に残っていたレジナ妃の私兵が音に気付いて迫ってくる。やはりアスラ族だ。女と言えど、一目でわかる滾った両目と戦闘的な顔つき。

 護衛兵は大した武器を持っていなかったが、もう弓は間に合わない。見た目からも長いだけの貧相な棒だが、要は使い方だ。俺は棒術にも心得はある。

 アスラ族の兵士が床板を鳴らして襲ってくる。剣を上段に振りかぶった。オレは身を低くして棒を薙ぎ、やつの両足に強く鋭く一撃を加えた。


「うわ!」


 たまらずつんのめる兵士。オレはかかとをヤツの後頭部に落した。


 ――――よし、こいつは使える。


 オレは彼女の剣を奪い、声に気付いて駆けつけてきた敵を粉砕する。そして、ようやくその扉に辿り着いた。二階の最も奥まったその部屋は、昼間というのに薄暗い廊下の先にあった。重々しい深紅の両扉に金色の細工を施した取っ手が鈍く光っている。


 ――――どこかで見覚えがある……。


 一階では、まだ慌てふためく足音が響いていた。インカムから、弟達の元気そうな声が伝わってくる。でも、オレの頭の中はシンと静まり返っていた。

 オレは右手で剣を持ち、左手で取っ手を握る。そして扉に背を付けて、体で押すように扉を開けた。部屋の床に陽の光が蛇腹模様を作り、ぼんやりと辺りを照らしている。オレは扉の向こうに、人影があるのを確認した。


「騒がしいねえ。おまえは誰や? 迷いネコかえ?」


 甘えた、でも艶があり鼓膜をくすぐるような音質。オレは声のする方に体を向けた。旅館の大宴会場くらいの広さはあるだろう部屋には、椅子や机などの調度品が隅に配置されていたが、部屋の中央に置かれた天蓋のベッドが何よりも存在感を主張している。そのベッドには薄いカーテンが降ろされていた。


 そこには声の主である女と、そのひざ元に横たわる体の影があった。

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