加純さん、天冠を描く。
「#渚と空のミュージアム 9月展」に出展したイラスト、「天女舞う」制作秘話。
ええ、今回もリテイクなんて気にしないわ。修正だってだって何度でも!(どんとこい!!)で運営しております。
秋になりました。
といっても、「どこが?」と首を傾げたくなるような日々が9月に入ってもずっと続いていました。
昨今、10月まで半袖で過ごせるような気候なのです。9月はまだ残暑がずっと尾を引いて暴れまくっているような気温が続いているのです。
加純さんの作業場の平均気温も30度を超えていました。
わたしもバテていましたが、パソコンも暑さでどうにかなりそうな日々でした。
来年の夏は越せるかしら?
わたしもパソコンも。
秋や~い!!
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SNS展覧会の9月展の出品作品を描かねばならないのですが、展覧会が開催されるのは9月末(2024/9/28公開)。
季節を先取りして秋の紅葉を描いてみたいのですが、気分はまだ夏です。暑くて死にそう。
どうしても「秋」の気分になれなくて、ずっと描けずにいました。
描きたいプランはあるのです。
以前、こちらの企画で「紅葉狩り」なる絵を描かせていただきました。能楽の「紅葉狩」を題材にした「テスクリ」のマオと紅葉の絵なのですが、あの時描けなかった「羽衣」を描いてみたくて仕方なかったのです。(詳しくは「ep49.加純さん、ユーチューブで能楽を鑑賞する。」をどうぞ)
ただね、ep.49にも書いたとおり「羽衣」って、季節が春なのですよ。「秋」じゃないじゃん!
でも、描きたいの。お能っていったら、「羽衣」の天女の姿を思い起こしませんか?
大きな冠(天冠)を被った天女の姿。描きたーい。
――という欲望が勝った。
ええい、天女の周りに紅葉散らしておけば秋になるか……という、実に安易な考えのもと、「天女」を描くことにしました。(←さりげなく「羽衣」ではなくなっている)
ラフ画を描いてみました。
「紅葉狩りヴァージョン」
あれ、違うじゃん。
この時は、まだ「紅葉狩りpart2」を描いてみようって気持ちがあったの。そして一応、間違いない秋の題材はキープしておこうかと。
でもね、描いてみたらなんだか構図が面白くないな~。たぶん気持ちが「天女」様の方へ動き始めちゃっているからだと思う。「紅葉狩り」にならないよ。(←能楽「紅葉狩」の美女の正体は○○で、天女様ではないの※正体は自粛!)
そこで「天女」様を描くことに集中しました。
いつか描くときのために……と集めておいた資料の中から、片袖を振り上げた動きのあるポーズをチョイス。能楽の写真をたくさん集めたといいましたが、特に若い女性がメインになる演目の写真って、上の「紅葉狩り」のラフ画の様に腕は肩から上には上げていないポーズが多いのです。(写真の話よ。演目中にはそういう仕草もあると思うのだけれど)
だからでしょう、そのポーズは動きがあって面白いな、と思い印象に残っていたのですよね。
元々能はイマジネーションの世界だから、観た人間がそれぞれ感じたこと、想像したことが大切なのだそうです。それを描く人間にも当てはめて良いのかわかりませんが、わたしも自由に描かせていただくことにしました。
本来は能面をつけて演じているのですが「天女」を演じるマオの印象は、テス曰く「アルカイックスマイルが似合うポーカーフェイス」で、あまり表情を顔に出すタイプではないのでしょう。
日系の血を引く男子だし、能面みたいな顔ってことよね。(←ディスっている訳ではないのよ!)
ならば、お面被らなくたっていいじゃん。(←理由になっている??)
それっぽい表情していればいいよね、という実にいい加減な考えのもと、今回はお面無しでいくことにしました。(←「紅葉狩り」の時は、面は付けてはいないけど描き込みあり!)
この頃はまだ「紅葉狩り」の影響があってか、衣装は紅葉柄。アナログで天冠を描くのは面倒くさそうだなぁと自分でも思っていました。だから下書きには天冠は、ざっとしか描いていない。
もちろん最初はコピックで彩色する気でいたので、上質紙にコミックライナーでペン入れまでしました。
それでアナログでペン入れまで終わったのですが、ここで気が変わった。
なんだか衣装がとても重く見えてきたの。
参考にした写真の衣装が豪華な織の装束で、いかにもお能の衣装ですって重厚さがあったのですが、天女様にこの衣装は重過ぎると思いだしちゃったの。天女様は最後に天へと帰っていくのに、この衣装では舞い上がれるかなぁ……といらない心配が頭をよぎる。
天女の神聖さを出すのなら、柄物の装束より、白の方が良くないか、とも。
それに肝心の天冠を目立たせるには、装束にたくさん線や色を入れない方がいいでしょう。ホラ、今回なぜに「天女」にしたのかといえば、天冠を描きたかったからですもん! 紅葉柄の織の装束では、天冠が目立たなくなっちゃう。
さあ、ここで恒例の描き直しに入ります。
もうルーティーン化しているので、動じない。
ただもう時間が無かったので、アナログでの仕上げはあきらめました。失敗ができないと慎重になるので、アナログの作業は時間がかかるのですよ。本当はコピックで仕上げたかったのですが、すでに締め切りを延ばしていただいている手前、これ以上は時間を掛けられないでしょう。
主催者様はお優しい方なので、「時間を掛けて、思う通りの作品を作ってください。待ちますよ」とおっしゃってくださったのですが、編集もあるのだし、流石に遅刻の常習魔加純さんでも心苦しい。
作品がいつ完成するか主催者様も不安だと思うので、Xで途中経過をアップして、「現在、ここまで作業が進んでいます」とか「だいたいこんな雰囲気の絵を描いています」とか情報を流すのですが、1日も早く完成した方がいいに決まっています。
そこで今回は修正がラクなデジタルで仕上げることにしました。(←まるで失敗するの前提じゃん!)
そうと決まれば、
なにせ1回描いていますからね。早いですよ、加速装置を使ったみたいに。
――というのは、置いといて。
ね。デジタル作画の方が、細い線でもはっきりするのね。天冠の細かい飾りも、はっきり見える。装束の柄も描き込まない方が、あっさりとして見やすいでしょう。
しかし、この天冠。描くのに苦労しました。
わたし、ホンモノ(帯道具)の天冠って、観たことないのですよ。お神楽を舞う巫女さんも被っていたけど遠くから眺めただけだし、至近距離だとお雛様の飾りのミニチュア版。あとは資料写真くらいと云う心許無さで。なのでこの天冠の構造がわからない。大まかな形はわかっても、細かいところがどうなっているのか、さっぱりわからない。
おおよそのカタチがわかれば描けるほど天才じゃない加純さんは、構造を理解できないと描けない凡才なのよ。
天女や高貴な身分の女性の役の時に被る天冠にも種類があって、鳳凰や日月、蓮の花など役柄を象徴する立て物を立てるのですが、これどうやって立てているの? 顎の下で紐を結わえて固定しているみたいですが、この紐どうなっているの?
冠の周囲に装飾の瓔珞(珠玉を連ねた飾り)を垂らすのですが、これも何か決まりごとがあるのかしら?
扇ひとつとっても役柄によって使い分けているくらいですから、な~にかありそうなのよね。
あ~ん、どこかに能楽師の方いらっしゃいませんか? 教えてください。
ネットを探しまくり巫女のコスプレ用の天冠の写真(売り物だったので部品ごとに並べてあった)をようやく見つけ、なんとなく構造を理解して描くことが出来ました。ホント、写真見つけた時には心の中で万歳三唱していたわ。
その資料写真を、ここにそのまま掲載することが出来ない(※大人の事情)ので、雑で申し訳ないのですが、わたしの描いたラフ画で。
天女様なので、天冠の立て物は、鳳凰が妥当だと思うの。でも、演じているキャラがマオなので日月の飾りにしちゃえ。冠の透かし彫りも、牡丹の花みたいなデザイン。(←理由は本編を読んで!)
装飾の瓔珞は、本当は色珠も使っていたりするのだけど、顔周りをこれ以上ごちゃごちゃさせる(前、横、後ろと計6か所垂らしている)と表情が消えちゃうので金色一色で。
この辺はイラストとしての演出。
演出といえば。本来は仮髪もこんなにバサバサ動かないのですが、マオの場合は仮髪のお世話にならなくても地毛で行けそうだし、他に大きな動きのない絵なので思い切って大きく動かしました。
扇の絵柄は、「羽衣」の天女様なので、舞台の三保の松原を模して、松原と海に見えなくもないかな~なモヤ~とした絵柄にしてあります。全体のバランスをみても、扇の絵柄が目立ちすぎると、観てくださる方の視線が迷子になってしまいますしね。
装束も無地にしてしまうと薄っぺらく安価な材質の着物に映りそうなので、地模様を入れました。和柄を追い焼きカラーで入れて、さらに不透明度を下げて「うっすら見える」程度に仕上げてあります。この辺の細工をアナログでやるとなると、とても神経を使って色を入れていかなければならない。デジタル作画だと、あとからでもあれこれ小細工を弄せるからラクだし楽しいですね。
背景は、それはもう、富士山。シルエット・フジヤマ。
かすんでぼんやりと見えるように。輪郭無しで、水彩筆の大き目サイズで、線を引くようにざっくりと描いています。
秋の企画なので季節感を出すために紅葉を散らしましたが、ガウスぼかし(←という機能がある)でかなり輪郭線をぼやかしています。能楽の舞台でも、背景は映画やドラマのようにきっちりと作り込みません。演目によって必要な大道具はありますが、観る人が能舞台上に演目に見合った背景を想像してください――みたいな感じですね。それこそ、イマジネーションの世界。なので空間を演出するために背景色と富士のシルエットに雲は入れましたが、あえて描き込みは最低限としました。
足すだけではなく、引くこともしないとね。
でも画面がつるんつるんだと空気感が無いように感じたので、乗算でテクスチャを重ねています。
やはり能楽の世界なので「幽玄」であって欲しいの。わたしの画力だと、この程度だけど。
「mao 天女舞う」
ところで、どうして加純さんはこんなに天冠に惹かれたのでしょう。
その後、実家の整理をしていたら子供の頃の写真を収めたアルバムが出てきてのです。その中に、理由(かもしれない)がありました。
写真に写るわたしは、まだ幼稚園に上がったか上がらないかの年頃だと思います。ある神社の祭礼のお練りに、稚児行列の稚児役で参加した時の写真でした。
その時の衣装で被っていたのですよ、天冠。
本人は、まったく記憶がなかったけれど。刷り込み現象って、こと?
きゃぁぁぁぁ~~!!
幼児体験って、強いですね。
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次回も秋。
アップルパイとハロウィンで。
そしてクリームソーダの3人目のレディが登場する予定です。
それでは、また。
ご来訪、ありがとうございます。
「天女舞う」発表後、あちらこちらから「よくまあ天冠なんて細かいものを描いたよね」と感心されたのですが……。え? 描きますよね、描きますよねこれくらいは。
ね!
ね!?
次回は、またガラッと雰囲気が変わります。お楽しみに。




