40. 加純さん、ケーキスタンドを描く。
空乃 千尋様と七瀬渚様の企画した創作展覧会『渚と空のミュージアム』に参加しました。
今回はツイッターのある企画のために描き下ろしたイラストの作成の裏話。
と云っても、例によって例のごとく。加純さんは制作過程の写メを取り忘れているので、途中経過の映像はありません。なるべく分かりやすいように説明していくつもりですが、分からない箇所がありましたら感想欄で質問してください。
出来る限り、お答えしていきたいと思います。
たまに「どうやって構図を考えているの?」と聞かれるので、この答えになればいいのですが。でも、それってケースバイケースだから、この絵の場合はこうだったのよってくらいのお話です。
あくまでも加純さんの場合……ですから、これが正解ではありません。こんなやり方もあるんだなぁ、くらいのお気持ちで読んでいただけたら嬉しいです。
今回のサンプル。
『テスのマッドティーパーティー』
こちらが完成品。『テスとクリスタ』は女の子たちが大活躍するコメディ作品(←なのよ!!)なので、彼女たちを描くときは可愛くて華やかで賑やかな画面構成を心がけるようにしています。
この作品は、空乃 千尋様と七瀬渚様共同の展覧会企画『渚と空のミュージアム~わたしたちのSTORY~』6月展のために描き下ろしたものです。
公開が6月の予定ですので、丁度ばらの季節だなぁ……というのが発想の出発点でした。実はこの企画、わたしの他にもそうそうたる面々が作品を寄せることになっているので中途半端なものは出せない、と気合いを入れていたのです。
6月といえば雨の季節ですが、晴れ間の青空は夏を感じさせる明るい陽射しと爽やかな風を感じる季節でもあります。最近は温暖化で、すでに夏日じゃん! な日もありますが、ここは爽やかな風でいきたいところでしょう。素敵なBGM付きで流れる動画の画像が、ベタッと鬱陶しいのはよろしくないではありませんか。
それとばらの季節を組み合わせて、最初に考えていたのはこんな構図でした。
いえ、ホント。イラストの作成に着手したのは提出期限の締め切り一週間前なのですが、その時はこの絵を描くつもりだったんだよぉ。
ところが。ラフを描いているときに、なんだかこの構図じゃつまんないな~と思いまして。背景にばらのアーチを描くにしても、物足りない感が拭えない。
かといって代用案も浮かばないので、そのまま下絵に突入することにしました。大雑把な性格、全開です。
「原案 その2」
F4のヴィフアール水彩紙に、A4サイズの大きさで、カラーイラストを描くことだけは決定していたので、先に裁ち切り線(ここまで描き込むという目安)を引いてしまいます。
で、そのヴィフアール紙の目(紙の表面の凹凸のこと)を観ていたら、ふとアフタヌーンティーのケーキスタンドをモチーフに描いてみたかったんだよなぁ~と、もわ~んと思い出したのです。
そう。もわ~んと。
それだ! ここだ! 今、ここに描け!!
その時のためにスクラップしておいた写真を取り出し、まずはスタンドを中央にでーんと据えました。三段なのは、テスとクリスタとメリルを乗せたかったから。ばらの花やスイーツといっしょに、スイートな彼女たちをディッシュに並べてみたかったのです。
はい。第2案では三人娘の予定でした。
本来なら一番目につくところ、最上段に主人公テスを置くのがよいのでしょう。が、わたしの頭の中はすでにその先の妄想に走っていて、「アフタヌーンティーなら、それをサーブしてくれる執事がいたら素敵! 執事役は、もう彼しかいないよね」とマオの配置を考えていました。
あれ? ひとり増えましたね。ま、いいか。彼のファンは多いから、描けば喜んでくださる方少なからずおいでだしぃ~、と加純さんのいい加減さが顔を出し始めます。
彼もお皿の上に乗せてもいいのですが、サーブする執事が主人と同格ではおかしいし、執事はスッと立っている姿が格好いいのですから、スタンドの脇に立たせたいと思いました。するとテスの居場所が一番上のお皿じゃ届かないでしょ。
と云うわけで、中段のお皿、でも画面中央にテスを。上の段にクリスタ、下の段にメリルという組み合わせになりました。
ケーキスタンドのデザインも、鳥籠のデザインやお皿を支える真鍮が外側にあるタイプのものとかがありますが、今回はシンプルに支柱が中央に通っているタイプで。外側にデザインがあると、お皿の上のキャラたちが閉じ込められている印象になりそうなので、そこを回避するのと脇にマオを立たせる予定なので、外回りに柱があると邪魔になりそうな。
どうして急にアフタヌーンティーだの、ケーキスタンドが浮かぶのかと言われると答えは分かりません。ですが普段からこんなもの描いてみたいな、こんなシーン描いてみたいな……と頭の中にストックしておいたものが、困ったときにガラガラポンとこぼれてくるようなのです。
そのピースを組み合わせ、バランスを調整して1枚のイラストに画面を構成するのが、わたしにとっては一番ラクな方法みたい。
ただその組み合わせも、完成品として浮かぶ場合もあれば、この絵のようにメインだけが見えて、あとは描きながらあれやこれやと付け足していく場合もあります。(←こっちは大抵あとで地獄を見るパターン)
三人娘の配置をもっと細かく設定して、マオの立ち位置を決めましょう。
主人公のテス。彼女には目立ってもらわねばなりません。だって主人公なんですもの。
集合絵を描くとき、主人公をどう目立たせるか……というのは、大きな課題です。どうしてもそこに視線を持っていきたい(主人公ですから!)のですが、三段の真ん中って、目立ちにくいんですよね。だから脇にマオを立たせて、彼女を引き立ててもらおうと目論んでいるのです。
この先、テスを目立たせるためにあの手この手と姑息な小技を使いますが、まずはテスをケーキスタンドの支柱より少し左側に左向きで配置。これにより引き立て役のマオはスタンドの左側に、テスの方向に横顔を向けることになりました。
もうひとりのヒロイン、上段のクリスタの顔は右向きに。テスと反対の方向を向いてもらいます。彼女は人気トップモデルの設定ですから、スタイルの良さはぜひぜひアピールしたい。そこで長~い脚を組んでもらいました。その足は右側に下げます。左下にマオが立っていますからね。
下段のメリルも支柱よりちょっとだけ右側で寝そべっているような格好。お行儀は悪いかもしれませんが、姿勢を低くしてもらわないとお顔が隠れちゃうんですもの。
あ。分かりました? ケーキスタンドの4人、それとな~く左右のバランスを取っています。
ええ。それとな~く、ですよ。
テスには『隅の老人』の分身であるうさぎ――のぬいぐるみを抱かせます。(5人目!)彼女はアリス役なので、ドレスはふわっとしたデザインのドレス。
クリスタに帽子を被せジャケットを着せドレスアップ、下段からテスとマオをのぞき見る格好のメリルにはエレガントな襟元のデザインのドレスを着せ(襟しか見えないけど)口元を抑えてもらいます。お嬢様っぽい仕草であると同時に、顔を隠すことでテスより露出面積を抑えてみようかと。
これはマオにも言えることで、彼を横顔にしたのも視線の誘導という目的と共に、顔の露出面積を少なくして主人公を目立たせたいという意図が隠れています。(←効果の程は……あったのだろうか?)
ここからデコレーションに入っていきます。
さて。アフタヌーンティーのケーキスタンドは、一番下のお皿にサンドウィッチ、中段がスコーン、上段にペストリー(スイーツ)が乗せられ、下段からいただいていくのがマナーなのだそうです。でもお嬢様のメリルの横にサンドウィッチを並べるのもピンとこないし、絵的にもなんだか締まらないような?
元々お腹の空いた貴婦人のつまみ食いから始まったという説のあるアフタヌーンティーに、うるさいお作法を唱えるのも野暮ですから、ここは映え重視! お花とスイーツとフルーツで飾りましょう。
三人娘の周囲にはばらの花を置くのですが、上段のクリスタにはティーカップ咲きという花びらが尖った高芯咲きの大輪の花を、中段のテスにはディープカップ咲きの中輪の花、下段のメリルにはオープンカップ咲きの大輪の花やディープカップ咲きの中輪の花、マオのまわりにはリカーヴドやクォーターロゼット咲きの大輪の花を描いてみました。(←そう見えないのは加純の技術の問題です)
ばらの種類はキャラのイメージで決めたのですが、それと同時に下段に行くほど形や色でボリューム感を持たせるようにしています。構図にそれとなく二等辺三角形を作ると、絵に安定感が生まれるそうですから。
スイーツもテスの好きなマカロンやシュークリーム、ムースやタルトにマドレーヌ。さくらんぼやベリー類と、季節のフルーツで。ばらの間にちりばめて変化を付けます。キャラクター以外はすべて円もしくは楕円形で構成されていますが、形の違いや大きさ、色で単調にしないようにしています。
ここまで描いて、ふとアダムとディーも付け加えたくなりました。彼ら、本編でも大活躍していますものね。そこでメリルの横に、人形の形で彼らを加えました。
なぜ人形なのか? これもテスより目立つことの無いように、ですね。(こやつらはお喋りなので)なにか喋りたそうな表情をしていますが、人形だから喋れないよん。
上段のクリスタ、目立って欲しいけどテスより目立たなくしたいという相反した目算がありまして、確定できないまま。
マオ。執事役ならフロックコートですよね。でも彼は『赤の女王』役でもあるので、コートの裾にテニエルの挿し絵にある女王のドレスの柄を元にしたデザインを配してみました。(一説では赤の女王はハートの女王らしいとのことで、ハートの女王のドレスの柄です)華やかな画面の中で、彼だけ真っ黒な衣裳では面白くないでしょ。手にしたトレイには、物語の鍵である銀の懐中時計。本編では、隅の老人が大切に持っていましたよね。
そうそう。彼の特徴でもあるロングの黒髪なのですが、バランスの関係で今回は隠させていただきました。このあたりの理由は彩色のところで詳しく。
「mao 14 習作」
前回話題にした拡大鏡のおかげで、細かい描き込みが今までよりラクに進みました。拡大鏡様々ですね。
でもね。文章にするとスラスラ進行したように見えますが、資料を引っ張り出したり新たに探したりもしていたので、下書きが仕上がるまで約3日費やしているんですぅ。
ケーキスタンドだけは別紙に下書きしたものをトレースしましたが、あとは時間が無いので掟破りの直描き。普通は下書き用の紙にきちんと下書きをして、場合によっては仮のペン入れまでしてから、本番用の紙にお清書のトレースをします。その中間作業をカットしようというわけです。
ところで仮のペン入れとは、なんぞや? ですね。説明しよう。
下書きをするとき、自信の無い線って何本も引きませんか? 下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、で。
例えば顔の輪郭線など、微妙なニュアンスの違いを錯誤してあれこれ描き込む内に、あっここだ! という一本に当たり、自分なりに最高の表情が描けたとします。当然、ペン入れの際はこの線を生かそうと思いますよね。
ところがそうして絶妙の当たり線を見つけ納得したとしても、いざペン入れをしようと思ったときに、熱心が過ぎてその当たり線がどれだったのか見分けがつかなくなってしまったりする場合がありませんか。
デッサン力のない加純さんは幾度かこういう場面に遭遇しており、わずか0.何ミリの違いの前でペンが止まってしまう憂き目に遭うのです。ペンが止まるだけならまだいいのですが、清書のペンが止まるということは、絵の勢いも止めてしまうことになるでしょう。
ですからトレースをする前に、何本も線引きした怪しい箇所は、あらかじめ当たりの線をミリペンなどで探し出しておくのです。それが加純さん流「仮のペン入れ」。
デジタル作画ならレイヤーの上で何度でも描いたり消したり出来ますが、それが出来ない(紙の表面を傷めてしまいますから)アナログは、こんな隠し技を使ったりするのです。
説明が長くなりました。
筆圧をかけず(紙を傷めないため)、目測でアタリを取って極力余分なラフ線を引かずに(これも紙を傷めないため)描いた下書きに、ライナーペンで清書(ペン入れ)します。ペン入れはホントに一発勝負。以前はドッキドキで怖かったけど、こんなことばかりやっているので、段々動じなくなってきたよ……。
今回はコピックライナーのセピア色0.1と0.3、グリーン色の0.3を使っています。
ペンで入れた清書の線が下書きの線とズレた場合どうするか?
大抵、ズレますわ。というか、下書きの線を上手になぞろうとしてはいけないようです。描き慣れてくるとある程度同じようなラインを描けるようにはなりますが、下書きはあくまでも下書きで、清書のペンで引いた線を尊重するようにしています。それにはみ出さないよう、外れないよう慎重にと下書きに重ねた線って、勢いが消えてしまっているでしょう。
現在描いているのが一番美しい線だ、と割り切ってしまうようになりました。(←そうでないと永遠に仕上がらない……)
消しゴムで下書きを消し、一応ペン入れ完了!
時間短縮を図ったつもりなのですが、形を整えるまではどうしても時間が掛かります。描いている時間より、悩んでいる時間の方が長いのね。(←リテイクできないから)
覚えています? わたしがイラストに着手したのは締め切りの一週間前です。そのうち3日を費やしました。
あと残り4日。
そう。このとき、加純さんの前には大問題が立ち塞がっていました。
納得がいくまで描き込んだのはいいけど、配色が決まっていない。さすがにポイントだけは描きながら決めてあるけど、細かい組み合わせはまだ真っ白だよ――な状態です。
これだけモノが溢れている構図ですから、当然多色使いになるでしょう。その色の組み合わせ次第によっては、絵が華やかにも醜くもなってしまうでしょう。
せめてモノクロイラストだったらなんとか間に合いそうな気がするんだけど、これカラーイラストに仕上げる予定なんだよね……。
あと4日で彩色して仕上げまで。それにこのイラストのタイトルまで決めなきゃならない。(←この地点ではまだタイトル未定でした)
さあ、どうしよう!?
締め切りに間に合う自信なんて全くありません。さすがに今回は無理かもしれない。
だからといって、呆然とばかりはしていられない。とにかく彩色に入ろう。手を動かさないことには仕上がらないもの。
そう。
締め日を勘定に入れれば、あと4日も猶予はあるんです。失敗さえしなけりゃ、なんとかなるかもしれません!? (←希望!!)
――ということで、次回に続く!
創作展覧会『渚と空のミュージアム』総勢10名のクリエイターによる、絵、小説、音楽の複合展。わたしは絵で参加させていただいております。
ようやくペン入れまで済んだのですが、あと4日で彩色は終わるのでしょうか?
それよりリテイク……なんてことになったら!?
崖っぷちに立たされると妙案が浮かぶ(らしい)加純さん、また余分なことを思いついてしましました。それは……。
次回、『加純さん、娘にラインでSOSを打つ。』をお楽しみに!




