愛してる
優しいふりをして、あなたに愛を囁く。
#言の葉返し というTwitterのお遊び企画ものです。
「愛してる」
そう言うことで優しい私を演じていた。可哀想な彼に優しい聖女のような人だと周囲に感心されるのだ。
彼はただひたすら、深く絶望していた。腕を怪我したことで剣を握る握力が奪われ、手から滑り落ちた剣を淀んだ目で見下ろしていた。彼は剣のことしか頭になかった。そんな騎士から剣を奪えば、何が残るだろう。
私には好都合だった。彼にとりいったのだ。そうでもしないと、名ばかり男爵の娘は知名度も嫁の貰い手もないでしょう? 腕を怪我した騎士を優しく慰める女。なんて美談なのかしら。
彼に優しくすると舞踏会で男性に声をかけられることが増えた。私は自分のしたことを間違ってないと確信した。それなのに、彼は自身で心を持ち直してしまった。
「君の献身的な介護で、立ち直ることが出来た。どんな時も傍にある君の存在に、どれだけ救われたか君は知らないだろう。君は俺に地位も、金も、かっての武勇も求めなかった。だから、ありのままでいられたんだ」
私への愛で立ち直ったというのか。私はそんな高尚な人間じゃない。私は自分の外聞をよくするために、利己的な感情でやったまでのこと。だからそんな真っ直ぐな目で見ないでほしい。
彼が唇を開くのがスローモーションのように見えた。あぁ、言わなくても分かる。次に来る言葉はきっと――。
言わないで、その言葉は声にならなかった。死刑宣告を受けるような気持ちで彼を見た。彼は目に情愛をにじませて言う。
「愛してる」




