花を生む天女
魔術師は魔術の深淵にいたり、人を超越した。そして己が目をつけた天女の元へ迎えに行く。
10RTされたら『人外』な『魔術師』と『左手が触手』な『天女』の組み合わせで、ヤンデレ話を書きます! http://shindanmaker.com/482075
※ 重たい話です
「あなたのために人の道を外れました。これで、あなたと一緒に生きていける。あなたに目印をつけたから、すぐ見つかりましたよ。その触手のおかげで、誰もあなたに優しくなんてしてくれなかったでしょう? こんな辺境に追いやられてしまって。よかった」
不思議な七色の光を放つ羽衣を纏った天女は、天界の辺境にある小さな宮殿に現れた招かざる客に怯えて後退る。彼女の着物左袖からは植物の蔦が何本も合わさり、一つの触手となっていた。ところどころに蕾がある。
対して男の肌は不思議なほど白かった。まるで血が通ってないように思える。彼は黒緑の髪をしており、長い黒のローブを引きずりながら彼女への距離をゆっくりと詰めていく。彼は闇の使者のようだった。
「初めて会った時は、人気者だったあなたに群がる男共を皆殺しにしたくてたまりませんでした。あなたを目にした瞬間、思ったんです。あなたが僕の運命の人だって。魔術の深淵にいたる一歩手前でしたから、あの頃はまだ人間でした。あなたにふさわしい力を手にしたら、迎えに行こうと思っていました。目印をつけていてよかった。植物の触手にしてみたんです。あなたは花が好きなようですから。あの時も花飾りをしていて、素敵でした。あぁ、助けを呼んでも無駄です。みんな、殺しておきましたから」
彼は綺麗な笑顔でクスクスと笑った。彼の緑色の目は暗く澱んでいる。目に差し込んだ光は狂気の光のように思えた。
彼女の震えは止まらない。やがて触手の蕾が膨らみ、花を咲かせた。連鎖的に花が咲き乱れていく。次々生えてくる芽に耐え切れず、床にポロポロと咲いていた花が落ちた。
「触手からたくさんの花が生えていますよ。触手であなたの美しさを損なう代わりに、あなたを守るように、慰めるようにしておいたんです。僕がいなくて寂しかったんですね? 大丈夫、これからはずっとずーっと一緒ですよ。おや? 触手が僕を攻撃してくるのはなぜでしょう」
彼は絡みついた触手を魔術で焼き払う。
「僕に噛みつくからこうなるんだ」
残った触手は怯え、花を生やしながらも彼女を守るように円の形で包んだ。
「あなたは恥ずかしがり屋ですね。昔会った時もそうだった。珍しく垣間見た天女に私は見惚れたものです。男たちはみな、あなたの美しさに魅了されてましたね。しかし、あなたはすぐに天界に帰ろうとした。だから目印をつけて、この天界にまで来ました。すべてはあなたを迎えるため。どうしてそんなに泣いてるんですか? もう僕が来たから、大丈夫ですよ」
触手の守りを引きちぎりながら、彼が着々と近づいてくる。彼女は歯がカタカタと震えるのを止められなかった。彼に純粋な恐怖を感じていたのだ。そして、最後の砦である眼前の触手の蔦を、彼の手が引きちぎる。彼の恍惚とした表情が目に入った。
「やっと、あなたの側に来れた」
彼女には絶望しかなかった。声がひきつって、吐息しか出ない。そんな彼女を彼が嬉しそうに抱きしめた。
「これからはずっと一緒ですよ。愛してます。だから、もう花を生やさないでいいですよ」
彼女に刻まれた恐怖は、なおも触手から花を生やし続けた。
数ヶ月後。彼女は触手の蔦からできた大きな鳥籠の中にいた。鳥籠の中には花がたくさん咲き乱れている。鳥が時おり入ってきては囀る。
中央に花でできた寝台があった。寝台には、艶やかな黒髪を地につくほど伸ばした天女がいた。そんな彼女の頭を膝にのせ、優しく撫でるのは彼だった。彼女は彼に黒い瞳の焦点を合わさないまま、花を触手から生やし続ける。
「やっとあなたと二人きりになれた」




