変と恋
気になっている彼に呼び出された。これはもしかしてもしかすると告白かもしれない。
「#言葉リストからリクエストされた番号の言葉を使って小説を書く」より、言葉パレットから「変態」「口頭」「花束」がお題。
同じクラスに物静かな男の子がいる。その子は中学校から同じで、偶然高校も同じになった。高校受験時にぐんと身長が伸びたらしく、気づけば声も低くなっていた。そんな彼をこっそりいいなと思っていた。
ある時、彼から呼び出しを受けた。私はもしかしてと胸をときめかせた。誰もいない放課後に二人きり。これはもしかしてもしかすると告白だろう。
彼は後から来た私を見て、メガネをくいっとあげて話し始めた。
「Wikipediaによれば『変態(へんたい、metamorphosis)とは、動物の正常な生育過程において形態を変えることを表す。昆虫類や甲殻類などの節足動物に典型的なものが見られる』とある。これが基本的な意味だろう。また、そこからこのような意味もある。『変態とは、形を変えること。また標準的なものから変異した状態。また派生的に変態性欲、変態性欲者のことをいう。さらに派生して精神性、行動、スタイルなどが異様で突飛なことを指すこともある。変態性欲- 一般的に健全でないとされる性的嗜好。ただし、何が健全でないかは時代や地域により大きく異なる。』よって俺は君に変態でありたい!」
私は口を開けたまま、硬直した。彼がいきなり語り出したかと思えば、よりにもよって変態の説明だ。告白されるかもと思ったが、まったくそんなことはなかった。恥ずかしい。ひとまず、私はツッコミを入れるべきだろう。
「どっちの変態なの!? それによって対処が変わるんだけど!」
「俺は君に出会ったことで変化した」
しかも、なんだか真面目そうな話が始まりそうだ。黙って聞こう。
「君のその足に踏まれたい! 太ももにはさまれたい! あわよくば、見上げてパンツを見たい!」
真面目に変態だ。こんな本質を彼は隠していたのか。なんだか危険を感じる。スカートの裾を抑えた。その様子を彼はハアハアしながら見ている。
「普段から短いスカートはノーサンキューだ。なぜなら、慎み深いスカートの奥こそ気になるだろう? 見てみたくなるんだ。つまり普段からギリギリの丈のスカートなど興奮しない。パンツは見せるものじゃないんだ。だが、君のそのスカート丈は完璧だ。膝丈で素晴らしい。しかもそこから覗く足の美しさと言ったら……!」
この人手遅れだ。私はこんな人に惹かれていたのか。恋の甘やかな気持ちが生々しく冷めていく。
「君が好きだ! 付き合ってほしい!」
差し出された薔薇の花束に一瞬キュンとしたが、花束を奪う。彼が受けとってもらえたと嬉しそうな顔をした瞬間、花束で殴った。
「その容赦のなさが好きだ! 付き合ってくれ!」
「今度から変態除けにスカート丈短くする」
「駄目だ。それなら俺と二人っきりの時にしてほしい」
手首を強く掴まれ、それほどまでに私を好きなのかと密かに嬉しく思う。だが、やはり彼は彼だった。
「俺は横になっているから、スカート丈が短い状態で俺で踏み台昇降してほしい」
先ほどの感情は錯覚だと思うほどに儚く消えた。しかも踏み台昇降ときたものだ。
「ギリギリの丈のスカートは興奮しないんじゃなかったの」
「君のは興奮するに決まってる! だから、駄目だ!」
それから彼はクラスで変態バレをした。変態にまとわりつかれる私に同情的な視線もあった。それが次第にセット扱いになって、付き合ってる認定されていた。あれ? こ、これが彼の作戦!?
朝教室に来ると、四つん這いになって椅子の場所にいる彼がいた。そこまでして踏まれたいのか。
「おはよう! 徒歩通学で疲れただろう? さぁ、俺に座ってくれ」
こんな朝にも慣れてしまった自分がいる。彼には辞書が二冊入った鞄を乗せ、自分は普通の椅子に座る。
「これが放置プレイか! いいな!」
今日も平和だ。そして彼は今日も変態だ。
参考
変態
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/変態
http://ja.m.wikipedia.org/wiki/変態_(曖昧さ回避)




