しゃっくり
「しゃっくり、とめてあげようか」
その言葉に、しゃっくりがとまらない私は期待した。
書き出し.meに投稿したものに加筆しています。
「しやっくり、止めてあげるよ」
そう言うのなら止めてもらおうじゃないか。このまましゃっくりが止まらなければ生活に支障がある。現に授業中は視線が痛く、一人で休んでいた。私に声をかけてきた彼は学校に来ていなかった。寝坊だろうか。
さて、止めると言ったが、彼はどうするつもりなのだろうか。すでに鼻をつまんだり、頭を逆さにしてみたりしたのだけれど、まったく効果はなかった。
「映画を見に行こう!」
自力じゃないのかよ、と内心突っ込んでしまった。
私は映画と言えば、コメディか恋愛物しか見ない。そのため彼に連れられて入った映画に恐怖を感じていた。目には入り口で渡された3Dメガネがつけられている。嫌な予感は当たるものだ。なんと、ホラー映画じゃないか。怖い、怖い、怖い。彼は私が逃げないように手を繋いでいる。いわば、犬のリードだろうか。逃げられない。この間もしゃっくりは続いている。
「いいから。しゃっくり止まるよ」
そう言われれば大人しくするしかない。いい加減、しゃっくりが苦しくなってきた。
映画は始まった。3Dメガネで怖さが倍増した。這うゾンビの手がこちらまで届きそうでゾクッとした。
終わってから、彼は自慢気に「止まった?」と言ってきた。私は力なく頭を降る。残念ながら止まらなかった。自信たっぷりに言っていたのにね。
「そうだ。俺たち、付き合わない?」
「は?」
彼の唐突な言葉に、体が熱くなってドキドキする。私の表情の変化を一部始終見た彼は続けた。
「う、そ。しゃっくり止まった?」
「知らないっ!」
ドキドキして損した。期待しちゃったのに。ムカつくから、ありがとうなんて言ってやらない。
「でも、俺は君のこと好きだよ。じゃ、また明日ね!」
爽やかな突風を感じた。私はただ呆然と彼の背中を見送った。
「言い逃げか、バカ」




