私の大切な坊っちゃま
時期当主の彼は幼い頃からメイドのナディアが好きだった。
『一緒におちようか』という台詞を使った「エロティックな場面」を作ってみましょう。 #serif_odai http://shindanmaker.com/74923
彼は幼い頃からメイドのナディアが好きだった。次期当主として期待に潰されそうな時、彼女だけは坊っちゃまと弟のように可愛がってくれた。いつしか彼女が心の支えになっていた。
そんなある日、戯れで彼女の体に触れた。彼女の腕は滑らかで柔らかく、手は水仕事をする関係でかさついていた。一回彼女に触れると、もう駄目だった。また触れたくなってしまう。触れるべきではなかったのだ。
「ナディア、おいで」
「またですか?」
「そうだよ。父上に女に慣れろと言われているからね」
そう言うと彼女は大人しく従う。僕を弟のように扱いながら、その一方でやはり雇用関係にあるのだと思い知らされる。こういう時はどうしょうもなく壁を感じる。歯痒い気持ちを抱えながらも彼女の髪に触れた。予想以上に柔らかな髪だった。撫でていると気持ちがいい。癖っ毛らしく、まとめるのが大変だと彼女は苦笑している。
「それなら一度見せてくれないかな。いつも清潔に結い上げているから、いまいち分からないんだ」
「そりゃあ、いつもまとめ上げていたら上手くなりますよ。一回解くと面倒くさいですから駄目です」
「正直だね」
「坊っちゃま、戯れはここまでにしましょう」
「駄目かな? ナディアに触れたいのだけれど」
「もう、仕方ありませんね。少しだけですからね」
彼女が髪を解くと、花の香りがここまで広がった。シャンプーの香りだろうか。近くで感じたい。彼女に近づき、頭の項でクンと鼻を鳴らすと甘い感覚が体に広がるようだった。彼女は距離の近さに体をこわばらせている。指に絡ませた髪は細く柔らかい。指から離すとふわっと広がった。だからまとまりにくいと彼女は言ったのか。
「あぁ、そんなに触らないでください。結わえるの面倒なんですから」
「それはすまなかったね。ではお詫びに髪を結ってあげるよ」
いつも見ている彼女の髪型の記憶を辿るように結い上げていく。まとめきれていなかった遅れ髪を見つけ、すくうようにして髪をとると彼女はビクリと震えた。平静を装うとしているが、ほんのりと色づく頬は隠せていない。念入りに髪をすくいあげるフリをして、彼女の首筋をなぞる。彼女は首筋が敏感なのだろう。彼女が震えるたびに満たされるようだった。
「坊っちゃま、おやめください」
彼女の涙目になって懇願する瞳に、奪いたいという欲がこみ上げる。雇用関係にあるのだから彼女は拒めない。権力を振りかざしても彼女が欲しかった。
「ナディア、仕事を失いたくなかったら静かにするといいよ」
「な、坊っちゃま……!?」
結い上げかけていた髪を乱し、髪に指を差し入れ頭を固定する。逃げられないようにして、彼女の唇を奪った。彼女は泣いていた。
「坊っちゃまはずるいです。私を姉のように、対等に扱っておきながら身分で私を縛る」
「好きなんだ」
「……やめてください」
「好きなんだ」
「やめてくださ――」
唇を再び重ねる。身分で抑えつけておきながら、優しく触れた唇に彼女は涙した。
「私の気持ちはずっと言えないものでした。これからも誰にも言うつもりはありません。ですからやめてください。優しく触れないでください」
「どうか昔のようにフレッドと」
次期当主と距離が近い娘を戒めるように、ナディアの母は“坊っちゃま”と呼ばせた。それでもナディアが変わらずにいてくれたから、寂しいという気持ちに耐えた。彼女を腕にとらえるようにして彼は懇願する。
「どうか、この場だけは」
彼女は耳に吹きこまれた言葉にビクリと肩を震わせ、目を伏せ考えるような姿を見せた。そして見上げた時には優しい瞳でフレッドと呼ぶ。彼女の視線に、声に気持ちが舞い上がっていくのを感じる。規律正しく襟元まで閉じられたボタンを外していく。鎖骨は日に焼けておらず、白い肌をしていた。ゾクリとする。彼女の鎖骨を撫で、唇でもたどっていく。その白い肌に花を散らしていった。自分の印を刻みたかったのだ。しかしそこでナディアを探す声がした。気にすることはないと更にボタンを外そうとしたら、彼女に突き飛ばされる。
「今日のことは忘れて下さい。私、どうかしてました」
普段と同じ仕事の顔に戻り、てきぱきと髪を整えていく。やはり普段からしているだけあって、自分が結わえようとしていた時よりも綺麗に仕上がる。彼女は彼を振り返らずに、部屋から逃げ去った。せっかく手に落ちてきた蝶を逃すわけがない。彼はナディアにもっと近づきたいと思った。
それから数日後、ナディアの隙をついて部屋に連れ込んだ。彼女は抵抗したが壁に抑えつけておとなしくさせた。これで彼女の逃げ場はない。それでも最後の抵抗をするように、彼女は言葉で諌めてくる。
「もう、やめましょう。ここでやめればあなたは戻れます」
「戻れる程度の気持ちだとでも? 心外だな」
禁欲的なまでに隠された襟元のボタンを外していくと、綺麗な鎖骨がのぞく。鬱血の跡が未だに残っていた。鬱血は彼によって刻まれたものだった。あいにくあの時は邪魔が入ってしまった。だが今日は念入りに手回しをして二人きりになったのだ。興奮気味に見下ろす彼と壁の間で、胸が卑猥に形を変えていた。そして慎ましいふくらはぎまで隠れたスカートから、彼女の健康的な足がのぞく。彼はクッと小さく笑ってナディアの胸に手をのばした。
「おやめくださ――」
抵抗するメイドの声すら、唇で奪って。
「嫌ならもっと抵抗してくれないと困る。前も半端に抵抗するから、こんな跡つけられちゃって」
「坊っちゃまにそんなこと、できるはずありません」
ナディアの瞳は潤んでいた。拒まなければいけないという理性と、このままいっそという欲に揺れている。彼女と視線を合わせてそれを感じた彼は、再び唇をねっとりと絡み合わせた。
「一緒におちようか」
それからナディアはメイドを辞めた。引き止めても駄目だった。こんなことになるなら手を伸ばさなければよかった。彼女の温もりを知らなければよかったんだ。けれど、手を伸ばさずにはいられなかった。彼女は去り際に「坊ちゃまをフレッドとして見てしまいました。今までありがとうございました」と言い残した。彼女に好きだと言われたことはない。けれどこの言葉は彼にとって口説き文句でしかなかった。
彼女しかいないと思った。彼は急いで当主になった。彼の両親は縁談をもちかけても相手にしないことで、次第に諦めていった。口にしないだけで気づいているのだろう。彼がナディアを想っていたことを。フレッドは数年かけて彼女を探した。見つけた時、彼女は服飾の仕事をしていた。メイドとして働いていた時も、縫い物を趣味にしていた彼女らしいと思った。彼は彼女の店に踏み込む。
「いらっしゃいませ」
「久し振りだね、ナディア」
「……どうしてここが分かったのですか」
彼は彼女の質問に答えず、手をとる。
「婚礼衣装を頼めるかな。ナディアと俺の分で」
「っ……、私がどんな思いでっ、屋敷を出て行ったと思っているのです」
感情を押し殺そうとして、彼女の声は震えていた。
「ごめんね、逃してあげられなくて。俺はナディアがいいんだ」
彼女は目に滲んだ涙を拭って、彼に笑いかけた。その表情こそが答えだろう。
「やっと、やっと言えます。……私は坊っちゃまが好きです」
「ここはフレッドでしょうが」
「ふふ、癖になっているみたいです」
「これからはずっとフレッドでいいから」
「はい。私の大切な坊っちゃま」
「ナディア」
「私の大切な人ですよ、フレッドは」
彼はようやく満足そうに笑った。その姿を彼女は変なところで子どもっぽいんだからと小さく笑う。その様子に気づいた彼はムッとしたものの、晴れ晴れとした彼女の笑顔にいいかと肩から力を抜いた。二人は二人が育った屋敷を目指す。
婚礼衣装を最後に、ナディアの店は閉店した。彼女の作った服は結婚式に着られることとなった。
彼女は屋敷で彼を支えながら、服飾の仕事を続けている。生まれた赤ん坊に「私の大切な坊っちゃま」と呼びかけると、彼に止められたそうだ。彼曰く、それは自分の特権だからと。ナディアはどこまでも可愛い人ねと笑みを深めた。




